トラベルメーカー
「放送部の部員一人とか優奈ちゃん辛すぎでしょ。あの子弓道部も掛け持ちっしょ? やってけんの?」
「正直、今日手伝ったかんじだと一人は厳しいと思うわ。去年は先輩がいたから大丈夫だったらしいけど一個上と俺らの代含めても優奈しかいないから新入生を入れたかったって言ってたかな」
2階の昇降口から出て階段を下りながら祐也に優奈のことを話した。
「俺が孝輝ならあんなにカワイイ優奈ちゃんの困ってる姿を見たら放送部に入ってあげるけどなー。すぐさま入部希望届をもらってきてサインしてあげっちゃうのになー。まったく、孝輝は冷たいよ。この冷酷人間め」
よし、いつも通りウザいぞーこいつ。殴りたい気持ちでいっぱいだ。でもこの程度で殴ったら俺の負けだ。落ち着こう。
「そんなに言うならお前が入ればいいじゃねーか」
「いや、俺は帰宅部で忙しいんで」
これほどまでに矛盾が成立することはあるのだろうか。
階段を降っていると運動部らしい恰好をした女子生徒2人とすれ違った。
もう、外で活動している部活も帰宅時間になったのだろう。今のは陸上部だろうか。あまり運動部のする恰好に詳しくないがあの服はお正月の駅伝で見る恰好だ。
「まだ、いないか」
校門に着いたがまだ優奈の姿はなかった。陸上部と思われる人を数人見かけたが制服ではなく高校の名前が入ったウインドブレーカーを着ていたためすぐに分かった。
なら船井先生がつかまったんだな。そんなに急ぐこともなかったか。というか外暑いな。まだ6月にもなってないのにこの蒸し暑さか。
「優奈はまだみたいだから、自販機で飲み物買おうぜ、祐……也……?」
時間がまだかかると判断して、昇降口にある自販機で飲み物を買おうと提案しようとしたが肝心の祐也は姿を消していた。
「……あんにゃろう……消えやがったッ」
教室は一緒に出た。
昇降口までは一緒にいた。
靴を下駄箱から出すところも見た。
昇降口の階段を下りる途中かわいい女子が通っていった。
「いやいやまさか……」
俺は確かな自信をもって階段を駆け上った。
◇ ◇ ◇ ◇
「ホントにいいんですかー! 飲み物奢ってもらっちゃってー」
「いいってー。君たち一年生だろー。それにみんなカワイイしさ。先輩の俺におとなしくおごられなさい! 今日は特別サービスだよ」
「ありがとうございます。えーっと……」
「あ、俺は2-Cの初丘 祐也。気軽に祐也さんって呼んでいいから。
まだ高校生活始まったばっかりだし何か困ったことがあったら俺なら何でも相談にのるからこの紙にある連絡先にメールして!
送ってくれたら秒で返信するから、いやこれホント。
俺超返信するの早いからね。なんだったら能力使って超スピード返信してあげるから。
まあ、今相談したいことがあるならここでできる限りは答えてあげるよ」
「じゃあ、祐也さん…………
俺に殴られる覚悟はあるんだろうなぁ」
女の子2人組みに対して饒舌に話している祐也の肩を叩いて笑顔を作った。
「ふっ、これも俺と孝輝の宿命か……お前とはいつか分かりあえると思っていグフッゥ……」
腹を思いっきり殴ってやった。
◇ ◇ ◇ ◇
今日はいい日だった。
優奈に頼りにされ二人っきりでずっと話していたのだから。
中学では転校続きであまりいい人間関係を作れていなかった俺にとってありがたいことだ。
かなり疲れたが満足した一日だった。
「でさー、その助けた女性はなんと見た瞬間誰もが振り返るような美人でさー。
ネットとかで見たら思わず写真保存しちゃうほどの!
ありゃ俺の見たかんじ化粧してないね。
それで俺が会った中でトップ5に入るくらいきれいな人ってどういうこと!
雰囲気はすごいミステリアスなかんじでなかなか心を開いてくれなさそうだけど一回開いたらあれは絶対デレるね。間違いなく!! それで……」
「ああ、どうしてこうなった」
おかしい。俺は優奈と楽しく話しながら一緒に帰るはずだったのになぜ俺はこんなやつと一緒に帰らなきゃいけないのか。
疲れたけど優奈と楽しい放課後を過ごしたで完結させてくれよ。
そんなこんなで優奈から先生と打ち合わせが長引くから先に帰ってて、とメールを受け取った俺は帰路についた。祐也も方向が同じなので一緒に帰っているのだがさっきから祐也は昨日助けた女性についてを語っている。
「……て言われちゃって俺困っちゃって」
昨日数人の男性にナンパされて困っている人がいたので助けてあげたらしい。
祐也に関しては割とよくある話なので適当に受け流す。いや、受け流したかった。
「祐也悪い。もう一回今言ったこと言ってみて」
「えーー、だからナンパしてた野郎を超平和的解決法でその女性を助けたらそいつら明日報復に行くからなって言われちゃって俺困っちゃったんだ!」
「へえー、つまり目の前塞いでる人たちは昨日祐也にやられた仕返しに来たって訳ね」
「そういうこと、テへッ!」
数メートル先には見た感じ十人ほどのヤバそうなお兄さんたちが待ってましたと言わんばかりの表情で歓迎してくれた。
「流石だよ。トラベルメーカー」




