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「あんたはあんたの世界があるように、」
オルトギュウスが喋りだしたところで、急にチョコが口を尖らす。
「…あんたじゃない。みやび。チョコのみやび」
「ハイハイ。えーと、雅にも世界があるように、うちらにもある。
俺たちはこいつを主人とした兵器試作品の一つなんだよ」
口を拭って、オルトギュウスは話しはじめた。俺は口を挟まない、とにかく話を聞きたかった。
「こいつの腕にタグがあったろ?試験段階からずっと腕にはめられてるんだ、これ。ここに載ってるのはこいつの名前じゃなくて、俺たちの名前なんだよ。こいつが枷をはめれる人間兵器のな。
俺なんかは力のみを特化した配列パターンで、ベースはこいつと一緒。だからおつむは同じくらい。他にも色々いるが、そいつらが試験任務段階で脱走できちまう事態になったんだよ。……こいつの記憶喪失だ。俺含めて他の兵器は自由に飢えてるからな。記憶喪失になりゃ枷なんてかけらんねーから、さっさと逃げたんさ」
これが彼らの世界。この嘘みたいな話が、彼らの真実。
「記憶が完全になってまた見つかりゃ、こいつの言霊の枷でまた元に戻っちまう。こいつ自体は人間にしちゃちょっと強いが、俺からしたらただの弱っちいガキだ。だから何も知らねーうちにぶっ殺しちまおうと思ったんだ。したら土壇場で思い出しやがって。因果なもんだよ。こーゆー経緯なワケ」
おかわり、と皿を差し出すオルトギュウス。あまりにも現実離れしているので、なんとも納得しがたいが…。皿を受け取り、台所に向かう。チョコは俺をじっと見て、悲しそうで寂しそうな目をしていた。ロールキャベツをよそいながら、疑問を口にする。
「兵器ってなんのためのだ?お前みたいなすごい力を、人間から引き出せる技術があるなら、今の医療技術とかに使えば良いのに」
人間の限界を引き延ばす技術。漫画みたいな話が現実なら、世界が変わる。
「さぁな、“兵器だから”聞かされてねぇよ。ま、切り札はいつでもとっときたいもんじゃねーの?」
ロールキャベツのおかわりを手渡すと、オルトギュウスは嬉しそうに受け取る。見た目は普通の子供なのになぁ。
新しい物が出来たらまず武器にする。なんだか悲しい人間の本能だ。…そんなものか、ダイナマイトや核融合が、結果武器に応用されたみたいに。
「でも、なんでそんな兵器を統括してんのが、チョコみたいなひ弱な奴なんだよ」
「主人が弱くなきゃ扱えないだろ。俺みたいな力を持った飼い犬じゃ、即殺されちまうからな」
確かに…そうだ。
「もういいだろ経緯はよ。それより、お前どーすんの。
俺は馬鹿だけど、『あいつら』はそこそこ頭いーぜ?」
オルトギュウスはチョコに向き合う。傍から見ると双子のよう。
「お前か本部をぶっ壊せば自由になれるって、とっくに気付いてるだろーよ。本部をやられるのはいいとして、少なくともお前のとこに来る奴がいたら、雅が危ないぞ。このままでいーのか?」
チョコはうなだれて、考え混んでいる。ボサボサの髪、いまだに俺の貸したジャージをワンピースみたいに着ている。その姿はまだ子供。逃げ出した兵器を統括するために枷をはめるチョコだが、そのチョコ自身も『主人』という枷をはめられている。俺から離れなかったのは、戻りたくないと思っていた本心もあったのかもしれない。
「チョコ、俺はいいぞ、ここにいても」
俺を見上げる、無垢な瞳。
「お前が帰りたくない場所なら、ここにいてもいい」
「みやび、いっしょいたい」
嬉しそうに笑う、チョコ。仕方ない、拾って世話した俺も責任がある。なによりここで縁を切って、チョコは大丈夫なんだろうか。
「大丈夫だよ、この俺がいるからな」
オルトギュウスは皿を舐めながら、にやりと笑う。案外、一番チョコを心配していたのが、こいつなのかもしれない。
「雅も護るよ。兵器の俺に飯を作ってくれる馬鹿は、お前だけだからな」
ぶっきらぼうに言うが、照れたように含み笑いをしているオルトギュウス。こいつもそれなりに辛い事があったのかもな、と頭を撫でると真っ赤になって手を叩かれた。
居候が二人に増えた事をどうやって姉に説明したらいいか、頭を悩ませるが兄妹のように喧嘩をしている二人を見て……まぁ、なんとかなるかと笑った。
「みやび、あのね」
満腹になったのか、オルトギュウスは夕食後すぐに寝てしまった。二人で皿を洗っていると、チョコが俺の袖をひっぱってくる。
「チョコはね、ほんとはなまえないの。オルトギュウスとはちがうから『鎖』って呼ばれてた。
だから、チョコってなまえもらったの、すごくうれしいんだ」
笑う。チョコの記憶は少しずつ快復しているようだ。口調も幼い子供の発音だが、所々明瞭になる。
「だからチョコは、みやびのこと一番だよ」
もちろんみやびの姉ちゃんもね、と笑う。
「ありがとな」
きっとチョコが人らしく、女の子らしく笑えるのが、今なら。
それを永遠にしてやりたい、と俺は思った。




