1ー11 海水浴 その二
身体強化をかけてのダッシュだから、はたで見ている者にとっては相当に早かった筈じゃ。
そのまま海に飛び込んで一直線に溺者に向かってクロールで泳ぐ。
恐らくは並みの速さでは無かったと思うのじゃが、溺れている者の命がかかっている以上、それを気にかけている暇はない。
そのうちに監視台の上に居たライフセーバーも溺者に気づいたようじゃが遅すぎるわい。
但し、ここは海水浴場のはずれに近く、監視台から結構離れているので仕方がない面もあるんじゃが・・・。
何とか溺れかかっている男の子に辿り着き、横泳ぎをしながら顎を抱えて海岸に向かおうとしたら、生憎とその場所が離岸流のど真ん中じゃった。
離岸流とは、返し波が沖に向かって還る流れであり、海水浴場の形状によりスポット的に生まれることがあるようじゃ。
離岸流のなかでは人の歩く速さ以上の流れになることが有るので、時には引き込まれて海中に没したり、短時間で沖合に押し出されることがあるのじゃ。
こんな場合は、やむを得ないから海岸に向かって平行に移動し、離岸流を躱してから海岸に向かうしかない。
いずれにせよ何とか離岸流を脱して海岸近くにまで辿り着いたら、ライフセーバー達が担架を持ち、波打ち際に腰まで海に入って待ち構えていた。
あとは彼らに任せればいい。
「溺れていたので、助けて来ました。
あとは宜しく。」
そう言って、大分海水を飲んだ子供を預け、儂は、テントに戻った。
戻った儂をみて、テントの前で待っていたかおりが呆れたように言う。
「幸次郎って、泳ぎがあんなに早かったの?
知らなかったわ。
小学校や中学校の時にプールで泳いでいた時には、そんなに早い方じゃなかったと思ったんだけれど・・・。」
「かおりがいつだったか『男子三日会わざれば刮目して見よ』とか言っていただろうが、男の子は女が知らない間に成長しているんだぜ。」
「そうね。
改めて感心したわ。
そうしてとっても格好良かったよ。」
それから30分ほどしてから助けた子供の家族がわざわざお礼を言いに来た。
何でも子供は足がつって泳げなくなったときに離岸流で沖に流されたようじゃ。
家族もちょっと目を離していた間の出来事だった。
ついでにライフセーバーもやってきて、役所に報告する都合が有ると言って、儂の住所氏名なんぞを聞きに来た。
向こうも仕事ならばしょうがないと思い、聞かれるままに答えておいた。
後で表彰の話があるかもとか言っていたので、それは丁重にお断りしておいた。
表彰状とかを貰って置けば何かの役に立つのかもしれないのじゃが、儂としては時間が取られるだけの面倒に関わるのは避けておきたかったのじゃ。
それからお昼になったので、テントの中でかおりと一緒に昼食じゃ。
何故にテントの中かと言うと、かおり曰く、外で食べるのは、何となく見せびらかすようで恥ずかしいらしい。
かおりがそう云うほどに立派な料理が並んでいたよ。
何でも、朝早くから頑張って作った料理らしいぞ。
うん、かおりは、本当にいい嫁さんになりそうじゃな。
ン、儂もひょっとして惚れたか?
まさか、相手は15の小娘じゃぞ?
まぁ、なんだかんだと言っても異性を求めるのは人の性じゃから、やむを得ないところがあるが、如何に転生したからと言っても、少々早すぎるな。
儂の場合、これから少なくとも7~8年は猶予を見なければならん。
互いに成長して大人になった時にまだ互いに恋心を持っていたなら、かおりを嫁に貰うのも良いかなと思った。
午後二時まで海水浴場で泳ぎ、休み、語らいながら過ごして、そろそろ帰る準備をと思っていたらお邪魔虫がやって来た。
男が三人、完全に儂に敵意を向けている。
こ奴らは海水浴場のダニじゃな。
儂の鑑定眼で見る限り、前科にはなっていないが相応に悪さを働いている連中なのじゃ。
「おう、兄ちゃん、俺ら女の子にあぶれていてな。
ちょっくら、隣の娘を貸してくれないか。
なぁに、一時間もすれば返してやっからよ。」
かおりがすぐにも儂の背後に隠れるように位置を変えた。
当然に儂がそれをかばうことになる。
毅然とした態度で、言い返した。
「お断りします。
貴方たちにお似合いの女性などどこにもいませんから、諦めて帰りなさい。」
その返答に対して彼らは怒気を強めて、言葉も荒くなる。
「おうおう、俺たちを舐めてんじゃねぇぞ。
怪我をしないうちにテメェは引っ込んでいろ。」
生憎とチンピラが如何に吠えようが、何の怖気もない。
強迫に対しても、冷静に反応する。
「私からも警告しましょう。
怪我をしないうちに帰りなさい。」
「こんのやろう。」
男の一人が切れて殴り掛かってきたが、瞬時に腕を取って合気道の技で砂浜に叩きつけた。
合気道の技ではあるが、儂の技は速度が通常の倍ほども早くできるのじゃ。
下が砂だけに大怪我をする心配は無いと思われたので思い切り叩きつけてやったわい。
勿論、叩きつけられた男は瞬時に肺の中にあった空気を押し出されてやや酸欠になった上に、衝撃によりすぐさま意識を手放すことになったのじゃ。
残り二人はそれをみて怖気づくような奴らでもなく、続けて二人が襲い掛かって来た。
同時攻撃というのはなかなかできないもので、こ奴らも時間差での攻撃にならざるを得ないようだ。
従って、その攻撃を見切った上で、二人を順次同じように砂浜にたたきつけてやったから、あっけなくも時ならぬ乱闘はおしまいを迎えたのじゃった。
三人とも骨がバラバラになるほどの衝撃は受けたかもしれないが、直後に適度のヒールをかけており、死にはしないじゃろうからそのまま放置する。
因みにこの間のやり取りはスマホで録画しているから、仮に、事後に相手からクレームが来ても対応は可能じゃろう。
儂はかおりを促してさっさと水着を着替え、後片づけをし、その場を引き上げた。
あとに残されたのは完全に気を失い失禁している男が三人であった。
午後2時15分発のバスに乗り、九幌駅に戻って、地下鉄に乗り換え、墨河の自宅に戻ったのは午後3時過ぎになった。
まぁまぁ、少し遅れたものの予定の範囲内だったな。
いずれにせよ帰路の間、かおりが盛んに不思議がっている。
そりゃぁ、無理もない話じゃろうな。
小さな頃からいじめられっ子だった幸次郎が、どうしてあれほど強くなったのかがわからないのじゃろう。
幸次郎よりも少し大柄で体重の重そうな男が二人も居たけれど、その二人を含めて三人もの男を一瞬で投げ飛ばしてしまって、その一撃で相手が失神したのには、かおりも流石に驚いていたようじゃ。
「投げ飛ばしただけで失神するなんて、あれは威力が大きすぎるし、柔道のようには見えなかったわ。
何なんだろう?
、柔術?いや合気道?
仮になんかの武道の秘技だとしても、何で幸次郎がそんなのできるの?」
かおりが次から次へと質問をするが、幸次郎は相手にしない。
三日会わざれば云々を繰り返すばかりで笑っている。
<幸次郎ってこんな奴だった?
絶対におかしい。>
かおりはそう思っていた。
そうは思いつつも、家に戻って陽が暮れると、夏休み中の幸次郎とのデートをまたまた企てているかおりであった。
一週間に1回としても夏休み中に4回はデートができると踏んで、かおりは立案に奮起していた。
◇◇◇◇
九幌市北部にある三日月湖公園にある野外音楽堂のセレモニーに合わせて公園内を散策するのもいいし、白い恋人公園の体験コースを中心に色々と見て歩くのもいいのかな?
景色を楽しむならロープウエイでえインカルㇱペへ登って夜景もいいんだけれど・・・。
夜遅くなるとパパやママに叱られるから、夜景は無しかなぁ。
夜景って言えば、中央区にあるビルの上にある大観覧車もいいんだよね。
あれに乗ってから夕食を食べて帰るのも良いかもね。
奥山沢アイスアリーナではアイドル達の夏公演もあるし、九幌市民プラザではクラシックコンサートもあるんだよね。
九幌市内にある二つの小ホールでは、ピアノやカルテットの演奏会が目白押し。
そう言えば、私は小さい頃からピアノやエレクトーンを習っていたけれど、幸次郎が何か音楽系統をやっているというのは聞いたことが無い。
ふむ、もしかすると演奏会はだめかしらね?
なら、映画館巡りでも良いじゃない。
ポテチを食べながら二人で映画を見るのもいいと思うよ。
あとは、夏だからやっぱり盆踊りかな。
家の近くでも会場があって毎年やっているけれど、札幌市内では大通公園の盆踊り大会が有名だもんね。
浴衣を着て、できれば日没後に幸次郎と行きたいね。
次々とアイデアが浮かび、独りでにやけるかおりでした。




