第354話 バナクコート深(8)
マガキ城潜入から1か月ほど経った。
アトルの拠点はハギとフジの新たな住居となり、あの2人は南米もといメキシコのような気候の植物に夢中。オイスターに居た時には考えられないほど、現地に馴染む努力を進んでしながら、生活を開始している。
信じがたいごとに、家が都市部になってしまったためか、完全な人間偽装をしながら、あの家で生活している。愛想もよくなっているので近所の評判も良いときている。
そして、もともとアトル拠点の管理人であった志摩と永長は、そろって転居しナットの王城で働いている。志摩は魔女さんにより荒廃した部屋を帰還したイオくんが一気に片づけた後、維持を担当してくれている。何部屋にもわたって荒廃していた状況に、さすがのイオくんも言葉を失っていた。そこからの片づけ実働部隊はアオくんイオくんに加えて志摩だった。
「私が来たからには、イオ様が安心して外で経験が積めるように、清掃魔法を覚えなくては!」
と、派手に意気込んでいると思ったら、双子が使う清掃魔法をものの2日で覚えてしまった。ちなみに私はまだ、そんな魔法は使えない。
それとは別問題で王城の一室、ミーティングルームに使っている場所ではモヤ王と側近のシンさんそして魔女さん、加えてもう一人が睡眠時間を削りながらとあることを試みている。正直私はそこに対して手伝えることもないため、頭を働かせるための兄特製甘いおやつと、飲み物をもっていってあげることぐらいしかできていない。
その議題は、国境を閉鎖し外交をすべて遮断したオイスター国についてだった。
◇
「何とか友の国……本当に、何とか救えないものか」
「そんな甘い考え、いくら前王と仲良かったからってないですよ。ないない!そもそもがですよ?王は自分の国の立て直しを行うことこそが第一の目標ですよね?」
「それはそうなんだけど……」
「協力してくれているチーズさんを後押しするのが王の役目ですよ?」
「わかってる!わかってるって!」
部屋に立ち入ったところで、王とその側近シンさんのじゃれあいを見せつけられるはめになった私。モヤ王とシンさんがと逆側の椅子。魔女さんと並んで「救国の魔法使い」が当たり前のように、座っていた。
件の魔法使いさん、当たり前のようにナットに再入国したものの、魔女さんに再会してから先の態度がおかしかった。いや、今までの愛の押し付けのほうがおかしかったのかもしれないけれど、突然別人のように動きが紳士になっていた。不要に魔女さんに愛の言葉をささやかないし、過剰なスキンシップも試みない。だからといって醒めてどうでもよくなったわけではなく、しっかりと、魔女さんを視界に捕らえて離しはしない。なんだかわからないけれど、怖い。
魔女さんのほうは、当たり前というか、少し怯えているように見える。
そんな4人がミーティングルームで行なっているのは、変容したオイスター国の観測。若すぎる王太子が次期王として立った、そこまではよかった。若くして王になったのに、当初後見人の予定であった前王弟、加えて前王妃は、観測の結果姿がまったくみえない。むしろ存在が見えない。
私たちが走った海岸線も、火山帯もまとめてすべて、観測不能になっている。国全体に、強固な結界が張られている状態になっている、らしい。
「わたしならばこのぐらいの結界、簡単に破壊することができるんだが。ああ、コイツもな?」
「コイツ、かあ。まあ、あの程度の強度難しくはないけれど、破壊して干渉するタイミングが今じゃないっていうことはわかるからね?」
「まあ、そのとおりだな。破壊するのであれば勝負の時だな。今はただ、観測できればいいのだけれど、内部においていた観測用の魔石の力がすべて、結界で遮断されるんだよね」
「そして話は戻るわけだが、結界を貫通させるとさすがに気づかれるからどうしようかな、と」
こんな感じで、いかに外部からの干渉を気付かれずに中の環境を知るか、という話の堂々巡りをしているわけである。ハギとフジにも聞いてみたけれど、無理、全て一緒に移住したから無理、との返答だった。そこに加えて私であれば行ったことある場所に転移可能だから見てくることを提案してみたわけだけど、もちろん却下された。
「チーズは前王妃と前王弟に知られているわけだからな?あちらにもそれなりに探査能力に長ける者がいた場合一発で見つかる」
「そうなって捕縛された場合ね、結界を破壊して助けにいくことしかできなくなるし、君の兄がなりふり構わず国ごと滅ぼしかねないからね、そういう危ない考えは持たないでもらいたい」
「兄さん……、そこまでするかなあ?」
「いや、ユウのそういうところ、疑いようがないよ。しかもだよ、二つ名が『救国の勇者』だから、すべて行動が正当化する可能性が高い」
それを言うと貴方の『救国の魔法使い』も似たようなものなのじゃないんですか?と言いたくなったけれどそこはぐっとこらえた。オーバースペックかつ長命種だからこそ、慎重になるところがあるんだろうなあ。
「そういえば、テミス。あやつは元気にしているか?」
「【無限フリースペース】に居住していますよ、元気に。私がナットに居る間は出してあげることができないんですけど、天くんが定期的に遊びに行っている感じですよ」
「しかしなあ、あちらの国王様はテミスを花嫁って言った、という話だが」
「テミちゃんの精神衛生上、もう二度と近づかないで欲しいとは思いますね」
そう私が言ったところで、謎に救国の魔法使いさんの背筋が伸びていた。
お読みいただきありがとうございます。
更新ペースが戻っていないとか言っていたところ、事故ったせいで更新が暫くなくてすみません。
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