格の差は無自覚に出るもの
朝
それは平等に必ずやって来るもの
「そ~う長!
おはようございます!
朝ッスよ!」
まぶたの奥が光で焼かれる
カーテンを思いっきり開けた声の主はアルトだ
「ん...あぁ...」
まだ頭がぼやけている
もう少し休みたくなるが、我が儘を続けるわけにはいかない
「...総長、今日は一緒に稽古とかどうっスか!?」
「折角の誘いすまないが今日は用事があってな」
「そう、ですか...」
「...なんなら一緒に行くか?」
「え!いいんッスか!」
「あぁ、嫌じゃなかったらだが」
よっぽど嬉しかったのかアルトがルンルンと楽しげに食堂へ向かう
「ちなみに用事って何ですか?」
「パーティーメンバーの勧誘だ
イオタ区にいる占い師のお嬢ちゃんだそうだ」
「え~また新しい人いれるんっスか?」
「ちなみにミーア推薦の子だ」
「う~...く~...」
「まぁそう嫌な顔するな
華やかになるだけでもいいじゃないか」
ここまで来てもアルトはいい顔をしない
「そもそもムレミアさんがいるから十分じゃないッスか」
「あら、なによ
私がどうかしたの?」
ヒョコッと扉からムレミアの顔だけ出てきた
「おはようございます、ムレミアさん!
いやぁ~実はイオタ区に出かけることになったんですけど」
「あら、それにこの子も入れてもらっていいかしら?」
「この子?」
よくよく見てみるとムレミアが扉の向こうで誰かを引っ張っているようだ
「も~いいでしょ?今日くらいはお出かけしちゃいましょ」
「い、いいです
今日は書類処理しておきますから...」
開かれた扉に救護室というプレートがかかっている
「その声はアミさん...?」
どうやらアミを部屋から出そうとしているらしい...嫌がっているみたいだが
「お、そういえばアミも一緒に来て欲しかったのだが...よした方がいいのか?」
「はい!私はここで...」
「だーめ!ちょうど良かったし気分転換してきなさい!」
「で、でも...」
「まぁまぁ...アミさん嫌がってますし...」
その場の調子に合わせてアミが退いてゆく
はずだった
「きゃっ!」
「ぅおわわー!」
二人が同時に扉の向こうから飛び出てくる
「行ってきなよ、アミさん」
そしてもう一人、二人の背中を押した犯人メシロがひょっこり顔を覗かせる
「折角可愛くなってるんだし、若いうちにおしゃれしなきゃ女が廃れるってものじゃないの?」
「ちょっと、メシロ!
押すことないじゃない!」
「総長、アルトさん
アミさんの護衛してあげてね
僕昨日のお酒のせいで二日酔いになっちゃったから」
それじゃと救護室に消えていくメシロとそれを追いかけたムレミアの声はムルトの耳に届いていなかった
「あ、あの...そんなに見ないで下さい...」
彼女のくせの強い赤毛が整えられ、ハーフアップにまとめられている
所々遊び心を織り交ぜたような造花が赤い野原に咲いている
彼女に見惚れていると救護室からまたムレミアが唐突に飛び出てきた
「どう?可愛いでしょ?
自信作なのよ
私も昨日飲み過ぎたし休むわ
たまには二人とも休みなさい
じゃアルト、護衛頼んだわよ」
おやすみと言って扉がパタンと閉まる
「うんうん確かに可愛いッスね
...ってえぇー!!俺にはお休みくれないんッスか!?」
「あー...そのなんだ...朝食はまだか?」
「はい...」
「じゃあイオタ区でオススメの場所があるから行ってみないか?」
「はい」
その言葉でアルトが自身の財布を逆さにして手で受け皿を作る
彼の掌に転がり込んだのは僅かだった
「あー...あのムルト総長~
今回は奢りとか~?」
「よかろう
今回だけであるぞ」
「ハハー、有り難き幸せ」
表に出て牛車を止める
ムルトパーティーはミュー区にある
イオタ区は三つ先にある区画だ
街の区画は全てで24個あり、ミュー区は戦場に最も近い区画だ
「イオタ区まで頼む」
「あいよ」
落語のめくりのようなものをぺらぺら動かし、[行き先イオタ区]と提示する
牛車がゆっくりと動き出し、車借が陽気に歌い出す
「フフ、アルトさんって芸人じゃないと言っていましたけど十分芸人さんみたいですね」
「いつもこんな調子だからな」
「へへっ元気だけが俺の取り柄ッスよ」
「ほう?
じゃあ今度から稽古をキツくしてやろう」
「いやいやこれはちょっとした言葉の綾といいますか
あ、でもお酒飲めるんならいいかな~って...」
「ふむ
今回だけであるぞ」
「ハハー、ありがたやー」
暖かな朝日が簾の隙間からこの空気を優しく包み込んでいる
「アミさんって苦手なのピーマンだけッスか?」
「はい」
「それなら今から行く所も大丈夫だと思うぞ」
「ん~でも意外ッスね」
「?」
「いや、なんていうか勝手なイメージなんですけどアミさんって大人っぽいなぁって思ってたんで
ピーマン、ゴーヤなんでもござれなタイプだと思ってたんですけど...意外と子供舌なんだなって」
「んー...私のお母様が甘いお菓子が好みなので、その影響が少なからずあると思います」
はみ出る貴族感にアルトは狼狽えざるをえなかった
「お、お母様ですか」
「はい
そのおかげかお菓子に関してでは舌が肥えていますよ」
「ふむ...菓子か」
「...多分総長の考えているお菓子とは全くの別物を食べてると思いますよ」
天然同士のぶつかり合いを止めるべくアルトがムルトに耳打ちする
「なに?
かりんとうとかカルシウムせんべいとかは違うのか?」
「想像以上に悲しいもの出てきて俺びっくりなんッスけど」
「何が悲しいんだ?」
「?何かありましたか?」
「え、いや~...あ、そうだ!アミさん!
アミさんが好きなお菓子って何ですか?」
「そう...ですね
エクレアが好きです」
「あー...エクレア!?」
知っている名前が出てくるとは思いもしなかった青年はドタッと転げ落ちる
「おい、静かにしろ
大人として恥ずかしい行動をとるな」
「す、すみません
えーとで、エクレア」
「はい、エクレア」
「中にクリームが入って上にチョコレートなエクレア?」
「はい、あのクリームがおいしいエクレアです」
貴族も庶民も変わらないかもしれないという謎の安心感で一息つくアルト
「今日はどうしたんだ」
「いや...なんていうか、ムレミアさんが俺に休暇あげるって言わなかった理由がこれなんだろうなぁって」
頭の中が?な天然二人組を前にして頭を抱える
「あーでもエクレアね確かにおいしいですよね!」
「はい、名前の通り雷のように素早く食べなきゃいけませんし」
「ん?」
ここが分岐点であった
きっとミーアがいればこう言っただろう
回らない寿司階級と回る寿司階級の会話を見ているようだ
と
「シュークリームもそうですよね
あのクリーム目当てで食べている所もあります」
「...そんなに早く食べる必要あったっけ?」
「?はい、一口齧りつけばクリームが溢れますから零さないようにと
...少しはしたないかもしれませんが」
「...。」
「今日はどうした
躁鬱というやつか?」
「いや...なんていうか...格の違いがここにあるんですけど」
「?その、なんだ...えくれあ?ってやつはなんd」
「いやいや!別に大したものじゃないんで!総長はそのままでいて!」
「アミの好物を大したものじゃないとは失礼なやつだな」
「いいんですよ、総長
...いつか認めてもらえればいいだけですから」
「ち、違いますからアミさん!
これはちょっとした言葉の綾といいますか
そうだ!用事が済んだら皆でパーッと飲みましょう!」
「それ俺の金でなんだが」
「オナシャス!」
「皆で...始めは私入れる気なかったんですね...」
「ネガティブな言葉狩りしないで下さい!?」
「お前、アミに謝れよ」
「いいんですよ、総長
...いつか認めてもらえればいいだけですから」
「この二人面倒くせぇー!!」
イオタ区行きの牛車が一台ゆっくり進みながらも中は騒がしい
仲が深まったかは本人達にしか分からない
コンビニのエクレアを一生涯許さない憎悪の気持ちをしたためました




