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異世界における事務員さんの需要  作者: 向日葵
黒い者のはなし
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14/25

黒い者のはなし 2

※誤字と矛盾点を少し修正しました。あと、1文程追加してます。



副神官長になって初めての冬、私は久しぶりの城内で、ある人物と面会した。

《異空の迷い人》と言われる私と同じ髪の色を持った若い女性だ。


1人の若い騎士に伴われてやってきた彼女は異世界から来たというのにも関わらず、とても落ち着いた様子でそこにいた。

騎士の彼はなんという名前だったか、確か公爵家の人間だったはずだが、言葉が通じ無い彼女にあれやこれやと世話を焼いている。


正直、成人している女性に対して失礼では、というような世話の焼き方だった。

彼女はそんな騎士の態度に時々苦笑いを溢しながらも、懸命にその会話を聞き取ろうしている様子がうかがえた。



「お、ひきこもりが来たな」


「それは止めてください陛下」


いつも神殿の中で仕事と研究に明け暮れている私を見ると、決まって陛下はひきこもりだとか根暗だとか言ってからかってくる。もう歳も歳だ、いい加減やめてほしい。



「すでに神官長から聞いておるだろうが、彼女にこの国の言語を教えてほしい」


「はい、拝命いたします」


「なんじゃ、物分かりが良すぎてつまらんの」


「じゃあ、拝命いたしません」


「…お前さん、段々と神官長に似てきたな」



めんどくさいなこの人は、とため息をついた。そんな私たちの様子を不思議そうに観察していた女性は騎士に肩をポンと叩かれると、それが合図だったようで私の目の前に立った。



「カスミ・ノザキ、よろしく、です」


自分の胸に手を当てて2、3度軽く叩きながら自己紹介をした彼女は首を傾げながら、あなたは?と聞く。

この世界にきてまだ1ヶ月ほどしか経っていないだろうに、ここまで対人スキルがあるとは驚いた。私よりもよっぽど上手に交渉の仕事が出来そうだ。


「ロイ・ナーチルです。よろしくお願いします」


彼女は愛想など欠片もにじませる事できない私にも会話が成立したことが嬉しいのか、満面の笑みで頷いてくれた。思えば、私が初対面の女性にここまで好印象を持ったのは初めてのことだった。




それから毎日3時間程度、ノザキ様の語学習得の時間を取った。

半年が経つ頃には片言ながらも生活に支障の無い範囲で会話することが可能になった。



「ナーチルさん、ワタシ、えーと、お仕事できるような?くらい?の言葉の力、付けたい」


ある日の授業のあと、彼女はそう言って私に専門用語や書き物のレクチャーを頼んできた。

しかし、彼女は陛下に目をかけられている大事な人、仕事なんてしなくともこの城で暮らして行けるはずだ。


「そこは『できるくらいの』が正解ですね。でもノザキ様、あなたにそれは必要ですか?」


すると彼女はコクコクと頷きハッキリと言った。



「前の世界で、お仕事、してた、ひとりで生きていた。だから、ここでも、ひとりだち?ひとりで生きていきたい、何もしない、えーと養われるは、いや」


「その場合は自立という意味ですね…」



もはや癖になってしまった彼女の言葉を修正すると、嬉しそうになるほどとメモしている。勉強熱心なその態度にしっかりとした自立心。どこから見ても最高の生徒だった。


それから、陛下には内緒で神殿や騎士団の専門用語や外交関係などの知識を彼女に教えた。飲み込みの早い彼女はあっという間に習得し、3年後には本格的に神殿と騎士団の事務処理を担当するまでになった。


陛下にばれたのはそれくらいの時期で、てっきり大目玉をくらうかと思っていたが、よくやったと逆に褒められてしまい拍子抜けした。


そして、なんとなくずるずると続けていた私の授業もついに最終日となった。


「ナーチルさん、本当にお世話になりました。」


ぺこり、と前の世界式なのだと教えてくれた《お辞儀》をする彼女の頭を撫でたい衝動に駆られ、手を伸ばすがいやいやと自制する。


「いえ、ノザキ様はよく頑張られましたね。」


そう言うと、彼女は頬をほんのり赤くしてへへへと笑う。それはこの3年間で見てきたどの表情よりも愛らしかった。私は顔に表情が出ないことで有名だが、この人といると口の端が緩んで仕方がない。

女という生き物は10代の後半から20代に掛けて花を咲かすように綺麗になるというが、まさに彼女は花そのものだと感じる。


今まで見てきたどの女性よりも、努力家で、優しくて、愛らしい人だ。


私はこの2年の授業を通して、すっかり彼女に落ちてしまっていたのだった。





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