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幕間「あなたと歩きたい」後編

スタァァァン!

放った矢がど真ん中に命中する。

…とんでもない精度だ…!

「すげぇな!」俺は少女に笑いかけた「俺だってここまでうまくならねぇや!」

「そうなんですか…?」

少女は俺を見つめた。

「弓って、元々使ってたのか?」

「元々…」少女は首を傾げる。

「その短刀を手にいれる前は別の武器で戦ってたんだろ?…弓がうまいってことは、きっとお前弓を使ってたんだよ!」

「…そうだ。アー…チャー…」

「ん?」俺は首を傾げる。

「私…アーチャーです」

「あぁそうだな!こんなに弓が上手いならきっと職業は…」

「ではなくて」少女は俺を上目遣いに見た「その、名前…思い出しました」

「…へ?」俺の口が半開きになった「お前…思い出したのか…?」

「アーチャー…です」

職業名をそのまま名前にするなんて。

いや、何かのコードネームか…?

俺がスラッシュ【一閃】という偽名を持つように彼女も元は何かの組織にいたエージェントなのかもしれない。

「…帰るか」

「?」

「帰ろうぜ、もう」

…途端に少女が怖くなった。

もし記憶が戻ったのなら、もしかしたら始末されるかもしれない。

その憶測が恐ろしくて…

帰り道、彼女とは一言も話さなかった。

「あら、お昼御飯は食べにきたの?」

帰るとメースがいて笑いかける。

「…いや、普通に疲れた」スラッシュは階段を駆け上がった「あと頼むわ」

「あらあら…」


部屋の鍵を閉め、ベッドに横になる。

魔剣を手にして【闇の民】になったものは、その魔剣の課題に個人差はあれど感情の起伏が少なくなると言われている。

でも…あれは…

魔剣を手にする前からあんな性格だったのかもしれない。俺はそんな危険な奴と1日、行動を共にしてたわけだ。

「なんてこった…」


次の瞬間、けたたましいサイレンが鳴り響いた。…警報だって!?

「スラッシュ、出るわよ!」

メースが叫んだ声が聞こえた。

俺は部屋から飛び出すと、踊り場から吹き抜けへ飛び降り、着地する。

「おし、まずどこに行けばいい?」

「状況がまだ分からないわ」メースはアーチャーを連れて言う「敵がどこから来るのか分かればすぐにでも行けるんだけど…。そのうち斥候から放送が」

「ちっ」俺は舌打ちすると駆け出した「なら手分けするぜ!メースはアーチャーを頼んだ!俺は勝手にやらせてもらう!」

「ちょっと…スラッシュ!?」メースの制止を聞かず俺は駆け出す。


『現在、東門第6防衛ライン突破!市民の皆さんは至急中央区に避難して下さい!』

避難していく市民の波を逆向きに進む。

その先に敵はいる。

なんと言うか、アーチャーから出来る限り距離を空けておきたかった。

「よし…あれか」

一時間は走っただろうか。

俺は平原にある敵の本拠地であるキャンプを見つけていた。

相手はオーガ。

目のつぶれた巨人で、視覚はそれほど良くはないが、その巨体を生かした戦いを得意とする強敵である。

リーダーはキャンプの中にいそうだ。

…どうするかな…

勢いでここまで来てしまった。自分が部相応な状態なのは分かってる。

でも、ここでやれば俺は認められるかもしれない…。親衛隊やブレードに大きな顔をすることができる。

行くか…!

キャンプの裏から忍び込み、監視の目をすり抜けて隊長がいる広間にたどり着く。

ここは長年やってきたこそ泥の経験が役に立ったというところだろうか。

「うおおおお…!」そして背後から襲い、一番装備の良さそうなオーガの首もとに剣を刺しこむ「オラァァァ!」

「ウアアアア!?」

オーガは暴れて剣を引き抜くが、次の瞬間にもう一本のナイフが背中を襲う。

俺は瞬時にその場を飛び退くと、キャンプを出て走り出した。

…隊長クラスを一人始末すれば、統率は崩れていくだろう…

バッチリだ。これで認められる…!


「へっ、ざまぁ見やがれ…!…あ」

ボシュッ。

オーガのうちの誰かが投げた槍が右の太ももを貫いていた。

…やば…

ドガッ

「ぐふ…あぁぁ!」今度は背中に衝撃が走り、俺は地面に倒れる「何だよくっそ…ぐ、ゲホッ…がぁ…」

「ニンゲン…」

顔をあげると、こちらを見下ろして舌なめずりをしているオーガがいる。

…あぁ、畜生。

こんなことになるなら、たとえ殺されたとしてもあの子の側にいてやるべきだった。下らない自分の恐怖心と蛮勇さで…まさか自分が死ぬ事になるとは思わなかった。

…もう、終わりなのか…

スラッシュは目を閉じる。


次の瞬間、何かが光った。

「ウグアアァァ!」


目を開けると、オーガが何匹か吹き飛んで黒焦げになって地面に伸びている。

…なんだ…?

「…」

あの少女が立っていた。大事そうに胸元に握りしめているその短刀は光を帯び、少女の背後には何もない場所から大砲のような物が複数伸びている。

「アー…チャー…?」

様子がおかしい。

こちらの呼び掛けに答えない。

ただ、前を向いて…オーガ達に視線を合わせている。そしてオーガを指差した。

轟音と共に、第二の砲撃。

「ビャアァァ!?」

あわれオーガ達はキャンプもろとも炎に包まれて散り散りになっていく。

「へ…やるじゃ…ねぇか…」

俺はともすれば閉じそうになる瞳をなんとか開けたまま彼女を見つめた。

「…」

彼女は、まるで感情を奪われてしまったかのように無表情で虚空を見つめていた。

「これが魔剣の対価か…」俺は何とか立ち上がると、アーチャーに手を振る「アーチャー、助かっ」


「アアァァァ!!」

「…!?」

背後に巨大な剣を構えたオーガが現れた。やべぇ…反応出来なかった…っ!?

ザシュッ!


痛みは感じない。

目の前に誰かが立っている。

俺は目を見開いた。

地面を染める赤。

それは…あの少女から出ていた。

「…あぁ!?」俺は少女を抱き抱える「お前…何で俺なんて庇って…!」

「…っ!」

アーチャーはオーガを指差すと、オーガは三度目の砲撃で消し炭になる。

「アーチャー…アーチャー!」

「私…」アーチャーは出血した胸を押さえながら言う「今…魔剣の試練を…」

「あぁ?駄目だ、喋るなっ!」

俺は手持ちの応急治療キットで止血を試みながら必死で叫んだ。

「スラッシュさん…っ。貴方が、私の心を取り戻してくれたんですよ…」アーチャーはニッコリと笑った「ありがとう…本当に…ありがとう…っ」


…初めて見る、彼女の屈託ない笑顔。

でも、そんな…

「…心を取り戻したって、命まで落としたら意味がねえだろ!?馬鹿野郎が!」

「私に怯えて勝手に敵の本拠地に乗り込んで…逃げ遅れた挙げ句死にかけてた人に言われたくない…ゲホッゲホッ…!」

「あぁ、わかったよ。俺が悪い…けどとりあえずどうにかしねぇと、どうすれば…」俺は目から涙をこぼす「こんな…せっかく仲良くなれたと思ったのに…仲間が増えたと思ったのに…可愛い女の子が来てくれて嬉しかったのに…!アーチャー、頼む…死なないでくれ…!アーチャーっ!!」


「…うぇ」アーチャーは血の塊を吐き出すと、よろよろ立ち上がった「…大丈夫ですよ。闇の民は頑丈なんです」

見ると、胸の裂傷が消えていた。

「ふぁ…?」

「まぁ傷が塞がるまで失血死する可能性はあったのですが、あなたの応急措置のお陰ですぐによくなりました…ふう」アーチャーは服を直す「さぁ、槍は抜かない方が良いですよ…早く帰りましょう?」

「何、生きてんの…まじで?ふぇ?」

「あの、大先輩がそんなにしわくちゃになって泣いていると、私でも流石にちょっと引きますよ…笑っててくれません?」


なんというか心の戻った少女は…思ったより遥かに…たくましい性格だった。

「まさか死ぬと思ってたんですか?」

「う…だってあんなことされたら…」

「あんな場所で私まで倒れたら、槍が刺さってろくに動けない貴方を助ける意味がありません。…流石にそんなアホな事、いくら心が消えたってやるはず無いですよ」

「あー、そうすか…」

「あと、呼び捨ては止めてください」

「分かったよ、アーチャーちゃん」

…★…

「…そんなこともあったな…」

「懐かしいですね」

温泉地帯からドラゴンでメルハに戻った後、俺の部屋にアーチャーがやってきて、ソファーに…俺の隣に座っている。

あれから数年経ったが、彼女は変わらない。俺は…本質的には変わらないだろう。

手柄を求めて、ブレードに認められ、皆にすごいと言われる騎士を目指している。

それで今日も…アーチャーに救われた。

今は…ただ彼女が愛しい。

俺は彼女の肩に手を回した。

「あっ…」

彼女は少し声をあげたが、俺の胸にに頭を乗せて心地良さそうに目を閉じる。

「…なぁ」俺は長年訊けそうで訊けなかった事を尋ねる「お前…心を失ってたのに、どうしてあの時俺を庇えたんだ?」

「えぇ…気づかないんですか?」

アーチャーは目を閉じたまま言う。

「さっぱり分かんねえ」

「仕方がない人ですね」アーチャーは懐から短刀を出して見せる「…これで分からなかったら絶交ですよ?」

ああ…そっか…


アーチャーの短刀には、今も変わらず、小さな黒い熊のアクセサリーが付けられていた。微笑む彼女は、夕日を背にしているせいか少し物悲しく…そして、すぐに目を離すとどこかへいってしまう気がした。


それを見ていると何だか言い様の知れない気持ちが沸きあがってきて、俺はアーチャーに静かに話しかける。

「アーチャー」

「はい」

「動くな」

「はい」

「立ちな」

「私は犬じゃありませんよ」アーチャーはそう言いながら、立ち上がった。

静かに…しばらく互いが見つめ合う。

そっと彼女の背に手を回した。

「で…」俺は彼女の身体をベッドに寝かせる「今日は何か面白い事をしてくれるって期待して、自分からここに来たのか?」

「ふう…本当に今も昔も変わらない、困った熊さんなんですね…」ジトッと俺を見つめる、可愛らしいルビー色の瞳。

小さな頬がだんだんと赤く染まる。

「でも…その熊に食われるの分かってて来たんだろ?」俺はニヤッと笑った「なぁアーチャーちゃん。いや、アーチャー…俺、お前の事やっぱり好きなんだよ。お前の口から俺をどう思うか聞かせてくれ。今なら笑って部屋から出してやれるぜ…?」

「…はぁ」アーチャーはため息をついた「貴方って本当に不器用でお馬鹿さんなんですね。これで私が首を横に振ったら、本当に切り替えられるんですか?」

「…」俺は本心から言う「お前が幸せになるためなら、何だってやれる。あの日命を救われてから、ずっとそう思ってた…けど…。ハハッ、やっぱ無理かな」

「選択肢なんて無いじゃないですか」アーチャーは呆れたように言う「でも…その方が貴方らしいですね」

「アーチャー…好きだ!」俺はありったけの想いを伝える「たとえ何があったって、誰が反対したって、お前を好きな気持ちは変わらねえ…世界で一番好きなんだ!」

「そうでしたか…」アーチャーは瞳を閉じた「奇遇ですね。私もです」

【おわり】


この後、

スラッシュは思いっきり

ブレードさんに説教を受け…


アーチャーはしばらく

一戦を退くことになり…

二人は同じ部屋に住むことになります。

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