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第十話その3

「こういった大規模なゲートを破壊するには…」ハリスは自分の胸に手を当てる「僕が【心の通じた】相手と一緒に専用の魔法を発動させる必要があるんです」

「心の通じたって…あぁ」スラッシュは納得したように頷いた「だからお前女の子たち皆とあんなに仲良いのかぁ…」

「野郎同士で出来るのかい?それ…」ランサーが冷や汗を浮かべながら言った「嫌な噂を流されたく無いんだが…」

「うぉいランサーてめぇ!?」スラッシュがランサーの方を向く「お前…お前がやらないんなら俺がやるしかないじゃねぇか!?俺はそういう趣味じゃねぇから!?」

…あー、心を通わせられる気がしない…

「やってみた事は無いですけど…不変の絆、みたいな物で発動出来るのかも…」

「絆…」ランサーはスラッシュを見つめる「これが終わったら、素晴らしい物が見られるぞ同志よ…みたいな」

「そっち方面は駄目じゃないかな…」

ハリスは目を泳がせた。

「難しいな…」ランサーは腕を組んだ「でも、このままにしとくとこの壁を隔てて向こうの女の子達が危険だぞ」

「はい?」

…こいつ今なんて言った…?


「なぁハリス」顔を上げるとスラッシュがこちらを見て言った「…ちょっとあそこの岩で腕相撲しようぜ」

「え?」

「どうした、スラッシュ?」

ランサーが首を傾げたが、スラッシュの表情は真剣そのものだった。

「いいから、ほら」

スラッシュは右腕を岩の上に立てた。

そのまま待っている。

「…分かりました」

ハリスはスラッシュと手を組んだ。

スラッシュは鋭い眼光でハリスの事を隅々まで見つめている。

「…ランサー、監督頼む」

「あぁ…」ランサーは二人の間に立って試合に立ち会った「じゃあ…始めっ!」

「ふっ!」ハリスは腕に力を込めた「…ッ…!ぐぅぅぬぬぬ…っ!」

…全く動かねえ!?

スラッシュはハリスの手を握ったまま動かない。そのままハリスを見つめている。

そしてややあって、口を開いた。

「…なぁハリス」スラッシュは低い声で言った「お前はどうして戦うんだ?」

「どうしてって…元の世界に…帰る為ですよっ!」

「はぁ…そうか」

ダァァァァンッ!!

「うっ…!?」

ハリスは自分の腕がスラッシュによって岩に叩きつけられた事を認識した。

「来いよ…逃げんなよ」

スラッシュはこちらを睨んだ。

「な、なんで…どうして…?」

「たかが腕相撲だろ?」スラッシュはニヤリと笑った「ほら、来い」

「はい…」

おずおずと差し出す手を乱暴に握り、スラッシュはハリスを見下ろした。

「…ハリス」スラッシュは言った「いいか、俺は絆とか心とか…正直よく分からねえ。けどよ…俺もお前も、大切な者のために戦ってる筈なんだ。その事実から逃げるなよ…!自分の為に戦ってる奴なんて、皆中途半端なところで終わっちまう。お前にはそうなって欲しくねえ。俺は…そんな奴を仲間だとは認めねえ」

「スラッシュ…」ランサーは呟いた。

「俺らはアホだけどよ…それでもただ遊びたいだけで命張ってる訳じゃねぇんだ」スラッシュはだんだんと強い口調で言う「親衛隊の皆が…仲間が笑い続けてられるように…その為に…何があったって敵をぶっ潰すんだ!どんな凶悪な野郎だろうと!仲間が危険な目に遭う前に潰すんだよ!それが…一閃【スラッシュ】と名前をつけてもらった俺の役目なんだっ!」

スラッシュの手から力が抜けた。

…彼は彼なりに、必死で戦場に立ち続けていたと言うことか。

ただ戦いが好きな狂人ではなく、親衛隊の仲間が笑い続けていられるように。

その為に無茶な戦いでも必ず生きて帰る。どんな敵だろうと先陣を切って戦う。

彼の無謀な行動こそ、彼の一番の生き甲斐であり、自らに課した務めなのだ。

「スラッシュさん…僕は…!」

「…どうよ。伊達に親衛隊一番の古参じゃねぇからな。…よっしハリス、やるぜ?これでもう気持ちは同じだろ?」スラッシュはニヤッと笑った「頼む…俺の為に、いや、皆の為にやるんだ……やってくれ!」


「…分かった!」

ハリスはゲートの目の前に移動する。

「おい…スラッシュお前…」

ランサーがスラッシュを指差す。

「今さら水指すような野暮な事言うなよ?…相棒」スラッシュはランサーの話を遮る「さぁハリス…まずどうすりゃいい?」

「手を」

「繋ぐんだな。こうか?」

ハリスはスラッシュを見つめた。

がっしりとした凶悪な形状の漆黒の鎧に身を包んだ大鎌使いは、いつもの軽い表情ではなく、決意に満ちた表情を向ける。

「はい」ハリスは深呼吸をする「…母なる大地よ!全てを司る天よ!神の代行者の名において、我に…世界を拓く力を!【ゲートブレイカー】!!」

スラッシュの身体が光に包まれる。

そして…その後には…。

両方に刃のついた大鎌が現れた。

漆黒のシンプルなグリップについている刃は、片方は小さく白い羽のような形状。…そしてそれを護るように、ドラゴンの翼のような黒い刃がついている。実にシンプルな形状の大鎌だが、鎌の裏面には光る古代ルーン文字がびっしりと描かれていた。

『…笑えばいいのか?この状況』

「ラフィーリアかアーチャーにお話は聞きませんでしたか?」

『…アーチャーが言ってたな』鎌から直接、ハリスに声が響く『ただまぁ、すぐに話題変えさせたからよくは聞いてねえ』

「え…なんで?」

『絶対に渡さねえからな』

はい…なにを…?

「えぇと…準備はいいですか」

ハリスはゲートに視線を戻した。

『あぁ…行け』スラッシュは言った『…しかしまぁ…お前の感情を感じるみたいなんだけどよ…ま、お前は言うほどガキじゃねえみたいだな』

「皆の為に戦いたいって気持ちは…僕だって持っているんですよ。…スラッシュさんほど真っ直ぐではありませんが」

『俺はまぁ…そのお陰でよく怒られるんだが、この生き方に後悔はしてねぇぜ』

ハリスは鎌を振り上げ、

ゲートを切り裂く。

…迷いなき【一閃】で。


そしてゲートは跡形もなく消え去り…

勢い余って右側の壁面も消え去った。

あぁ…

「やべ…チュウ!」

背後からネズミの鳴き声が聞こえた。

…もうダメだぁぁぁ!!

「…え?なに…!?」

「うそぉ…」

「あらあら、そこまでダイナミックに来るとは思わなかったわねー?」

「キャアアアアアア!?」


ぁぁぁ…湯気で何も見えないが、恐らく向こうからはハリス達【ネズミ含む】が見えているのだろう…。


ハリスは完全に止まった思考で、ちらっとスラッシュの方を見た。

「…う…」

突然スラッシュが片膝をついた。

地面にボタボタと黒いものが落ちる。

「スラッシュさん…!?」

「うっわ…ちょっとこりゃ…やべぇかなぁ」スラッシュは腹を押さえる「楽しむどころじゃねえな…何とか…しねえと…」

【大量出血】の状態…!?

傷が開いたのだろうか。

「スラッシュ!」ランサーが人に戻り、スラッシュに駆け寄る「おい…しっかりしろ!…くっ、何だよ…俺が…俺がハリスとやれば良かったんだ…くそっ!」

「スラッシュ!」「スラッシュさん!」

女性メンバーもバスタオル姿のままスラッシュに駆け寄ってくる。

スラッシュは仰向けに倒れた。

「…あー…」スラッシュの目が虚ろになっていく「最高の眺めだなぁ…。俺、本当は生で見てみたいと思ってたんだよ」

「何馬鹿なこと言ってるの!」ラフィーリアがスラッシュに怒鳴る「あぁ駄目…普通の方法じゃ傷を塞げない…!」

「そんな…」ラミエが蒼白になる。

「…!!」ノルイも何かを書きかけたホワイトボードを地面にパタンと落とした。

「どきなさい」メースが魔導書を持ってスラッシュの状態を見る「…高位の治療魔法ならなんとか…ハリス君、リンクを頼めるかしら?体力管理は任せなさい」

「はい…今」

次の瞬間。

「スラッシュの…馬鹿…ッ!」

「アーちゃん!?」ラフィーリアが叫んだ「あなた…一体何を…!」

ハリスが目を向けると、アーチャーが手首を自分の魔剣で切りつけていた。

そのままスラッシュに駆け寄り、スラッシュの傷に自らの傷口を当てる。

「もう、今日は絶対許さない…!」

「アーチャーちゃん…それは」

「黙って!」アーチャーは叫んだ「もういい!貴方みたいな馬鹿な事しかしない人なんか…貴方みたいな人なんか…!」

「…よくやったわね」メースは静かに言うと、高難度の治療魔法を唱え始める。


アーチャーの体力が、スラッシュとリンクしていた。否、違う。

スラッシュの【大量出血】の状態異常を、自らが被っているのだ…!

「ダメだ…アーチャーちゃん」スラッシュはアーチャーの頭に手を置いた「やめるんだっ…!俺の出血をその身体で受けたりなんかしたら…君は…!」

「誰の…誰のせいでこんな事になってると思うんですか!」アーチャーは目に涙をためていた「貴方が居なくなったら…その鎧は意味がないんです!貴方が、着ているから…いや、貴方がいるから!私は貴方がいないと…笑い方も忘れてしまうのに…」

「アーチャーちゃん…」

「貴方は私が心を失った時からずっと私に優しく接してくれました」アーチャーは顔を上げた「鎧は無くなりません。でも貴方は勝手に…勝手に居なくなる!」

「ごめん…俺は」

「偽善ぶって『皆のために』とか言うつもりなんでしょう?」アーチャーは訴える「いつもぼろぼろになって…心配してるのに!へらへら笑って…それで…それで私が幸せな気持ちになるって、本当にそんな馬鹿な事を考えてたんでしょう!?」

「アーチャー」メースの顔に冷や汗が走る「いったん[サクリファシ]を解きなさい。でないと貴方…」

「いいえ」アーチャーはメースを睨んだ「この人にはそんなんじゃ分からない。目の前で自分のせいで人が死なないと、分からない…私の気持ちなんて分からない!」

「やめろぉぉぉぉぉ!!」スラッシュがアーチャーの手を無理矢理引き剥がす「駄目だ!もうやめてくれよ!なぁ?」

「…ッ!」アーチャーはスラッシュを睨むと、スラッシュの背中から勝手に大鎌を取り上げ、その刃を自らの首に当てる「…私を斬ってよ…私を斬りなさいよ!」

「アーチャー、やめなさいっ!」

メースが叫ぶ。

「そんな…俺は…俺はっ…」



「…はぁ」メースは額の汗を拭う「終わった…アーチャー、後で説教ね」

「行きませんよ」アーチャーは顔を伏せたまま言う「たとえ地獄の業火で焼かれようと、氷河に閉じ込められようと…私は絶対に、行きませんよ」

「…」スラッシュは自分の上にいるアーチャーを見つめた。

「…スラッシュ」

アーチャーはスラッシュを睨んだ。

「あぁ」

「もう…何もしないでください」

「あぁ」

「戦わないで下さい…!」

アーチャーの目から涙がこぼれた。

「…そいつは無理だな」

「なんで…っ!」

「だってよ」スラッシュは体を起こし、アーチャーを抱き締める「どうして人を幸せに出来る力があるのに…それを使えないんだよ。意味ねえだろ、そんなの」

「意味なんて無くたっていい!」スラッシュの胸をアーチャーは叩く。

「お前を護りたいんだよっ!!」

「…ッ!」

「ふざけんな…俺がまた馬鹿やったのは謝るけどよ」スラッシュはアーチャーの顎を上げて目を見る「俺から【戦う意味】を奪わないでくれ!!頼むから…」

「…馬鹿…っ」

ドラゴン便に乗ってメルハに帰る頃、ハリスは遠目に二人きりでドラゴンに乗っているスラッシュとアーチャーを見た。

二人とも何も話さず、並んで座って夕日を眺めているようだった。

お互いがお互いに寄り添い、安心と疲れと…幸せが混じった表情で。

「一時はどうなるかと思った」

ラフィーリアはため息をついた。

「…連絡しろと言っただろう」

ブレードに怒られる。

「すみません…」


「まぁ元々は不純な動機が有りましたし、ハリス君は悪くありませんよっ!」

ランサーがそう言った。

…あ。

「は?」ブレードが聞き返した。

「え?」ランサーが首を傾げ、気づく「…あ…やべえ…」

「…」ブレードはランサーの首を掴んだ「おいノルイそこ退けてくれ。こいつ一回ここから落とした方がいい」

「うわぁぁぁぁ!?」ランサーは暴れる「何で…何で俺だけぇぇぇぇぇ…!?」

アイヤァァァァ…

そんな悲鳴が響き渡った。

【おわり】


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