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第九話その2

シオンならアニに気づかれずに見守ってくれるだろう。

とりあえずこれで今日1日は安全だ。

ハリスは皆と朝食を済ませると、螺旋階段の踊り場にある椅子に腰掛け、静かに読書を始めた。

「あら?読書かしら?」

「えぇ。たまにはこういう場所でこんな時間を過ごすのも悪くないかなと」

声をかけてきたのはメースだ。

いつもの深紅のローブに身を包んだ姿だったが、左胸には十字架を象った小さなブローチがついていた。

「そうね〜。私はよくここで昼寝してるからよく分かるわ〜♪」メースはハリスの前に立った「見て見て、このブローチ…ブレードが私に遅れた退院祝いにってくれたのよ〜♪綺麗でしょう?」

「わぁ…とても似合ってますよ!」

「ハリス君はアニちゃんにプレゼントとかあげないのかしら?」メースは首を傾げた「ブレードったら『何をあげたらいいか分からないから全然喜んでくれないかと思った』って…気持ちがこもっていればどんなものだって喜んで受けとるのにねぇ」

「そうですね…あ、そう言えばあと2週間ぐらいでアニの誕生日か…」

「それは良かったわ!」メースは手を叩く「ブレードにお返しを考えてたんだけど、第三者の意見も聞きたいなって思ってた所なの!…今から時間、いいかしら?」

「大丈夫ですよ、支度してきますね」

メースと共に向かったのは、複雑な通りを何度も曲がった奥にあった錆れた建物。

一見すると倉庫にしか見えないが…。

「ごめんください〜」

メースは中に入る。

その後に続いて中に入った。

「…メースか。身代の魔石は手紙を送った通り、来週まで入荷を待ってくれ。なかなか手に入らねぇんだよ」

そこには大小様々な数の宝箱が置かれている、不思議な空間があった。

その宝箱の中央には、ゴブリンが一匹。

「…っ!?」

「おいおいメース。今日連れてきた仲間にオレの事を話すの忘れてないか?」ゴブリンは言った「まぁいいや、オレはバルト=バルド=パルド。適当にバルバルと呼んでくれて構わねぇ。それと当然だが、オレがここにいるのは国や兵士には内緒だぜ…もしチクったら、この町を出た瞬間に宝石に変えちまうからな…ケッケッケ」

…モンスターが宝石商やってる…!?

「でね。今日は身代のほうじゃなくて…ブレードに似合うネックレスが欲しいかなって思って…それとそこにいるハリス君はアルケミストのお嫁さんがいるのだけれど…そのコに合いそうなネックレスも見繕ってくれないかしら?」

メースがそう言うと、バルバルは笑う。

「ネックレスと来たか…ちょうど良いのが入ったとこだったぜ…ケッケッケ」

そして立ち上がると、倉庫の奥にあった大きな宝箱を一つ引きずってくる。蓋を開けると、明らかに魔力を帯びている気配と共に沢山のネックレスが姿を現した。

「素敵ねぇ…まずはこれから」

メースは一つを指差した。

「こいつはお目が高い…」バルバルは黒い革の手袋をはくと、メースが指差したエメラルドの埋め込まれたネックレスを慎重に取り出して見せる「これはかつての亡国の宝物庫に残ってたモンだ…所有者の命」

「パスね」言い終わる前にメースは次を指差した「じゃあ、これは?」

「そいつはこの前行商から買い取ったモンだな…確かこのシトリンに呪いをかけようとすると、自分が呪いにかかってしまうという代物だな」

「ふーん…じゃあこれにしようかしら」メースは十字架を象ったネックレスを手に取った「ブレードも十字架…似合うのよね…白いダイアモンドは良いアクセントになるかもしれないわ」

「そいつは確か…あぁ、温度計だな」

「温度計!?」ハリスが声をあげる。

「あぁ。その物体の沸点と融点が分かる…どちらかと言えば、お連れさんの嫁さん向きの商品じゃねぇかな」

「そうね…」メースはハリスを見た「じゃあ、ハリス君…これが良いならアニちゃんに買ってあげて?きっと彼女の研究も捗るんじゃないかしら」

「そうですね…でもいいんですか?」

「ブレードは…こっちとか似合いそうだし…それは貴方が買いなさい?」

「じゃあ、お言葉に甘えて…」

ハリスは白い光を反射するネックレスをメースから受け取った。

「そうかい…じゃあハリスの旦那、ずばりこのネックレス…いくらなら買う?」

バルバルは鋭い眼光でハリスを見た。

「え…」

「ふふっ…始まったわね」メースニコニコしながら近くの箱に腰掛けた。

…これを見るのが目的だったのか…

通貨はランド…魔法のかかったアイテムなら価値はかなり高いだろう…。

冒険者がやっている掘り出し物露店の単価を考え…能力値を鑑みると…

「…5万7000ランド」

「ほう」バルバルは目を丸くした「ははぁ…こいつはやられたぜ!旦那、あんた商売人の素質があるんじゃねぇか!?」

「まぁ、伊達に親衛隊メンバーじゃ無いものね〜♪」メースは楽しそうだ。

「価値が分かる奴には安く、分からねぇ奴には高く売り付けるのがうちのモットーだ…ハリスの旦那、あんたはそのボーダーラインぎりぎりを言い当てやがった!ほぼ原価を言われちゃあ仕方ねぇ…1万負けて4万7000ランドで売ってやろう」

「ありがとうございます…!」

「じゃあ私はコレね」メースは可愛らしい熊の顔をしたネックレスを見せた「いつも通り10万でいいわよ〜」

「まいど」バルバルはボソッと言った「…メースは相変わらずどんな物を掴ませても10万で買っちまう…いくら魔物の身の上でも流石に気が引けるぜ…」


…こういう営業スタイルの店は今まで無かったなぁ…

ハリスはなかなか無い体験をしたなと思いつつ、宝石商を後にした。

「ブレードっ!お返しよ!」

帰った途端にブレードにあの可愛らしい熊のアクセサリーを渡すメース。とても嬉しそうだ。

「こ…これは…っ」

「かわいいでしょう?身体能力の強化に貢献する魔法がかかってるから、是非戦いに出るときにはつけて欲しいなっ」

「なにっ…戦闘中にもか…!?」

「…ダメ?」

「いや、そういう訳では…」

以降、ブレードの胸元には宝石で出来た可愛らしい熊さんが光ることになった…


「…さて、どうしようかな」

ハリスはそう言うと踊り場に戻り、本を広げ始める。

…なるほど。全員の武器に属性を付与する魔法以外に、全員の装着している鎧にも属性を付与出来るやり方がある…

魔法書と言うのも、なかなか興味深い。

気づけば時間を忘れて読んでしまう。

「ハリス兄ちゃんだ」

顔を上げると、小さな身体のガンナーと騎士…カリースとロイドがいた。

「あ、ほんとだ」カリースがこちらに近づく「…お暇ですか?」

「うん、読書してたんだ」ハリスは本を閉じた「二人は今日はどうしたの?」

「お昼も過ぎたし」ロイドはガッツポーズをした「明日に向けてレベリング!」

「まぁ、これから出発なんだけどね」

カリースが言った。

「へぇ…」ハリスは考え込んだ「二人の戦いぶりってそう言えばまじまじと見たこと無いなぁ…」

「じゃあ一緒にいこうよ!」ロイドはハリスの手を握った「良いよね?」

「こらこらロイド」カリースはロイドをたしなめる「ハリス兄ちゃんにも予定はあるんだよ?ちゃんと予定が空いてるか訊いてからじゃないと…」

「僕は構わないよ」

ハリスは二人に笑いかける。

「…!」二人は顔を見合わせ…飛び上がってハイタッチした「やったやったぁ!」

…こんな小さな子供達も親衛隊メンバーなんだな。アーチャーも小柄だけど、それよりも更に背が低い…いくつなんだろ?

「ところで、場所はどこなんだい?」

ハリスはカリースに訊いた。

「あぁ、ナイツアカデミーの自主訓練転送バッジから青の洞窟へ行くんだ」

「転送バッジ!?」

…そんな便利なものがあるんだ!?

「そっかー。ハリス兄ちゃんはナイツアカデミーについては初耳だったかなぁ?」

「ナイツアカデミー…って、このメルハの騎士団を養成する学校のことだっけ?」

ハリスは本を閉じながら言う。

「そうそう」カリースは頷いた「基本的には5〜19までの青少年は騎士団に入る権利があって…騎士団に入団して振り分けが済んだら、戦闘訓練や座学をアカデミーで勉強して戦争時に出陣したり…えぇと」

「かんたんに言っちゃうと、そのアカデミーでは生徒だけに特別なアイテムを支給してくれるんだよ!」

…そのうちの一つといった所か。

「でもこれを使うと、ビエル先生が自動的に召喚されちゃうぜ」カリースはロイドに言った「…あの人はいらない」

「あぁ…ビエエ先生か」ロイドは頷く「大丈夫、また事故に見せかけて潰せば良いんだよ…かんたんかんたん」

…小さな悪魔が二匹いる…。

「えっと…」ハリスは苦笑しながら二人に声をかけた「先生って、教官?」

「行けば分かるよ」カリースはバッジをかざした「そうだ、準備出来てる?」

「いつでも良いよ」少し緊張しながらハリスは頷いた。

「じゃあ僕と手を繋いで〜…スイッチを押したら多分10秒くらい平衡感覚が無くなるけれど、目を閉じて手を離さないでね」

確かに、移動中はかなり過酷な状態にさせられた。地面を地面と認識出来ないばかりか、全身の感覚神経が麻痺したように感じた。…そのうえでカリースの手を離すなと言われたが、とてもこれは…無理だ!

「わぁぁぁぁ!?」

「ハリス兄ちゃんが壁倒立してるよ」

「本当だ」カリースが笑いを堪えながら声をかけてくれる「…大丈夫?」

「うっ…わぁぁ」ベチャッと地面に倒れ込むハリス「こんなの毎回やってるの…」

「…え?たのしいよ?」

ロイドがテンション高く言った。

「5回ぐらいまでは僕も吐いてたんだけど、それ以降は慣れたかなぁ」

顔を上げると、こちらに手を出してくれているカリースと、早くも巨大な剣を振り回しているロイドと…

「オホン…訓練生番号1655番!カリースと1750番!ロイド!まずは整列ッ!」

「あ手が滑った【ロックフォール!】」

「ブアアァァァァ…!?」

一瞬細長い見た目の40代くらいの女性が現れたように見えたが、ロイドの落石魔法により悲鳴と共に姿が見えなくなった。

「ヤベェもう埋めやがった!ロイド早すぎ…走れ!兄ちゃん!」

「わははははは!ざまーっ!」

カリースはロイドと駆け出した。

「え…あの…」慌てて立ち上がり、カリースとロイドを追いかける「ぇぇぇ!?」

「まちなさい!岩から出しなさい!」岩から声が聞こえる「また教官も連れずに勝手に…平常点から減点しますからねッ!ビェェェェ!」

「やったぜ、また来年もカリース兄ちゃんと同じクラスだよ」

「ロイド、一応僕のほうが沢山留年してるから、こっちの台詞じゃないかな!」

「え…あの人が教官さん…あの、いいの!?置いていっていいの!?」

ハリスは慌てながら言う。

「平気平気〜」ロイドは両手を上げながら叫んだ「何だかんだ言って勝手に抜け出して、危ない時に助けてくれるし!」

「ビエル先生がいると横からペラペラ話されるから死ぬほどウザイんだよね」カリースは右腕にバンドで変わった形をした銃器を取り付けていた「僕達は…まぁロイドは違うけどさ、あの最強のブレードさんが率いるメルハ一の戦闘集団のブラッディウェポンズで…更に実力を認められて親衛隊になってるんだよ?学校は楽しいけどさ、遊ぶ以外にいく場所じゃないと思うんだよね〜♪ひひひ…」

「わ〜い!自由だ〜ッ!」

ロイドはバンザイをする。

流石にこの自由奔放っぷりには、ハリスも唖然とするしかなかった。

【続く】


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