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四話その3

「ま、まってよ」魔法使いという職業の為か、クレミィが真っ先に音を上げた。

肩で息をしながらハリスは一度止まる。

そしてずかずかと歩み寄ると…。

クレミィを背負った。

「きゃっ…」

「走れぇぇえ!」ハリスは叫ぶ。

それにバルトアとレクターも続いた。

「お前…人が良すぎなんだよ!」

笑いながらバルトアが言った。

「しかし…奴らの矢の一撃は注意せんとなりませんな」レクターはそう言うと、自分の背中についている盾と同じ、木で作られた盾をハリスとバルトアに渡す。

「サンキュー、随分持ってるんだな」

「生産職業は木工職人でしたもので」

「ありがとう、助かります。クレミィ、付けられるかい?」ハリスは背中にいるクレミィに問いかけた。

「ん…しょ、これで付いたかしら?」

クレミィは自分の背中に盾を装着した。

「木製なので、火には弱い…燃えたらすぐに外しなされ」

「オーケー」

そのうち、城の城壁が見えてきた。

もう既に敵と交戦中だった。

「ぎゃあああ!」

ハリスの目の前で、飛んできたナイフに当たり、倒れてしまった傭兵がいた。

「あ…」ハリスは声をあげる。

「駄目だ、時間がねぇ!早く皆を連れて撤退しねぇと!」

バルトアはそう言ってハリスを押す。

「う…うん…」

「走って!師団長!私が魔法で道を切り開くわ!」背中にいたクレミィが背中から降りると、指揮棒のような杖を構えた。

「背後は任せてくだされ」

レクターも剣を構えてハリスを見る。

「行くぜ!師団長!」

バルトアの声でハリスは再び走り出す。

「【ブレイドバースト・フレイム】!」

ハリスは剣に魔法をかけると、砦に特攻した。門の所にダークエルフが三体と、傭兵一人が戦っているのに加勢する。

「師団長!お戻りっスか!」

かん高い女性の声が響く。

彼女は確か狂戦士の大剣使い、マナだ。

長く黒い髪を後ろで1つにまとめ、着ている装備は狂戦士にしては重装備のフルプレート。フルプレートゆえに矢を受け付けず、今まで生き残っていたのだろう。兜のバイザーを下げているため顔は見えない。

「戦争情報は見たかい?」

走り寄りながらハリスはマナに訊く。

「ばっちりっス!ただ、出てきやがってるのが敵の本隊クラスなんで、逃げる暇が無いんスよ![プロミネンスカリバー]」

マナが大剣を一振りすると一瞬にしてダークエルフ三体が炎に包まれた。

「砦の外には何人残ってますかな」

「生きてんのは全員ダークエルフだ!」

バルトアは砦の外を見て言う。

「砦を閉めよう!」ハリスは鎖を動かして砦の扉を閉めた。

「[ブラズマウェーブ]!」

クレミィが杖を振って魔法を放った。

一瞬、周り全体に電流が走った感覚を覚えたが、黒焦げになったのはダークエルフ三体だった。なんとか倒せている。

「援護するっス!」

「早く先へ…!」

ハリスはそう叫ぶと周りに注意しながら砦を走り抜ける。

「師団長、ご無事で…!」

焼けているキャンプ群を抜けた時だ。

アクセルイが戦っていた。

砦の出口で、仲間を連れて戦っている。

ハリスは叫んだ。

「この砦を閉めて敵を閉じ込めるよ!早くアクセルイさんも…」

「自分に構わず行ってください!ここは自分が食い止めます!大丈夫、伊達に貴方の副官に任命された訳じゃありません!」

アクセルイはそう叫ぶと目の前のダークエルフを一匹斬り捨てる。「さあ早く!」

「頼むぜおっさん!」

バルトアがアクセルイの脇を通り抜け、町に続く門を開け始めた。

「アクセルイさん…死なないで下さい!これは師団長命令ですよ!」

ハリスはそう言うとアクセルイの脇を走り抜けた。クレミィも後に続く。

「…貴方のご意志に沿うようには努力しましょう。…御武運を。」アクセルイは血に濡れた直剣を構え直し、再び叫び声をあげながら敵の群れに突っ込んでいった。

「あれ、レクターさんは!?」

そう言えば後ろにいない。

少し後ろにいるのはマナだ。

マナは少し手を振ると、アクセルイの援護に向かった。

「…あ、レクターの旦那…」

「そいっ!」

レクターはいつの間にか先にいた。バルトアに代わり町へ続く門を開いていた。

「…ありがとうな」何故かバルトアは素っ気なく挨拶して、砦の門から出た。

「残った皆は今のうちに出て!」

ハリスは門の前で叫ぶ。

「師団長、俺に風の加護を」

そう言ったのは狙撃ライフルを構えた大人しそうな男…。傭兵隊のメンバーだ。

「わかった。[ブレイドバースト・ウィンディ]!…[エア・フレーム]!」

彼の周りを空気の流れが回った。

矢が彼に向かって飛んでくるが、風のお陰で近くの壁に矢が刺さる。

「入り口は死守します。貴方の役目はこの門を通り、更に先で残った部隊の仲間を集めて本隊に合流させること…行って!」

「…っ!」

ハリスは唇を噛み締めながら門を通る。

「師団長!こっちだ!」

バルトアが先導した道を通り抜け、ずっと走り続けた。視界が霞む。

自分が泣いているからだと気づくのに少し時間がかかった。

林を抜け、しばらく走り、何かにつまづいて地面を転がった。

空は雲1つ無い空で、満月だった。

「はぁ…し、師団長…大丈夫か…」

バルトアは肩で息をしながら立ち上がるのに手を貸してくれる。

「けほっ!げほっ!」クレミィも地面にうつ伏せで倒れて咳き込んでいる。その背中の盾には大量の矢が刺さっていて、盾をそれて肩に刺さっている物もあった。

「他の人は…?」

「俺とクレミィ、後バルハにレフイ…何だよ、後副官入れて17人は何処行っ…」

「死んだんだよ!」バルハという名の双剣使いはハリスの胸ぐらに掴みかかった。「お前のせいだ!お前がもっと早く気づいていれば俺の仲間も死ななかったんだ!」

「テメェ止めろよ!師団長に当たってどうなるんだよ!」バルトアがバルハを蹴り飛ばすと、バルハは地面にうずくまった。

「返せよ!」なおもバルハは叫ぶ。「何がゲート破壊の英雄だ!俺の仲間を見殺しにしやがって!返せよ!返せええぇぇ!」

「うるせえ!だから何で師団長に当たるんだよクソ野郎!」バルトアはナイフを抜くとバルハに突きつける。

「おうおう殺すなら殺せよ弱虫が!このまま生きていく位ならテメェを挑発して仲間の所に行った方がまだマシだ!」

「上等だゴラ!今すぐぶっ殺して…」

「やめて!」クレミィが叫んだ。「何で…何でよ…やっと逃げることが出来たのに…何で武器を抜いているのよ!何で…何で仲間同士で罵り合わなくちゃいけないのよ!そんなの…惨めなだけよ…」

「…そうよ」スックと立ち上がったのはまだ口を開いていなかったレフイ…。

その手には魔導書を持っている。「…皆で死にましょう?そうすれば…」

「お前…何言ってるんだよ…」

バルトアがレフイを見つめる。

「仄より出でし復讐の炎よ…」

「ああああああ!」

バルハが叫んだ。そのまま転がるようにハリス達から逃げていく。

ハリスはこの魔法を知っていた。

[マナ・エクスプローダー]。

魔力を内在するものを爆破する魔法。

彼女の魔導書に火が灯る。

魔導書というのは当然、それ単体で術者の魔法を補佐できる量の魔法力が溜め込まれたもの…マナ・エクスプローダーの詠唱はとても短く、逃げられない。

あれに巻き込まれれば、皆死ぬだろう。

『君が死んだら世界は終わる』

ノルターの台詞が頭を駆け巡る。

「[マナ・エクスプロー…」

ザシュッ

狂喜の表情が突然苦悶の表情に変わる。

地面に倒れ伏したレフイ。

彼女を斬ったのは…返り血にまみれた銀の鎧…細身の大剣を持ち、頭の兜から一つにまとめた長い髪を垂らす女狂戦士…。

「師団長…遅刻…しまして…すみませんッス…」彼女はフラフラとハリスに歩み寄ると、手を引いて無理矢理立たせた。

「マナ…」

「皆…副官も、他の16人も…死ねなかった奴は皆…自分が…」

「テメェ…!それでも人間か!」

バルトアはマナを殴り付けた。

抵抗もなく地面に転がるマナ。

「兄さんが…アクセルイが出した命令で…!皆も同意のうえで…ジブンが…!」

狂戦士は兜を脱ぎ捨てた。

その眼は血のように赤く…いや、今まさに彼女の眼からは血が流れている。

「…この剣の名前はヴィクティム・ウィナー…【魔剣】のうちの一本っス…」

「お前…まさか…」バルトアがマナから後ずさる。「…正気かよ…」

魔剣。それ単体で恐ろしい威力を誇る強力かつ希少な武器のことだ。

入手した瞬間から、使用者が何かトリガーとなる行動をすることによって魔剣が使用者を選ぶ仕組みになっている。

もし選ばれたなら、魔剣はその力を解放し、使用者の能力を格段に上げる。

もし失敗すれば命はないし、生き返ったとしても再び魔剣をもつことは出来ない。

話によれば、マナの魔剣のトリガーは【最も信頼した仲間を殺すこと】だった。

それは彼女の兄であるアクセルイ。

彼は彼女の魔剣の効果を知っていて、ただ、彼女を逃がすためだけに自分を斬らせたのだという。他の人も、同様に。

彼女は、仲間を殺して生き残ったのだ。

「これで自分も…化け物っス…早くバルトアさん!自分を殺してくれっス!」

【闇の民】。魔剣に見いられし者はそう呼ばれている。

眼は血のように赤く、不老の力を得る。

ただその対価として、魔剣の持つ特殊な悪影響な効果をその身に受けなければならないという。…死ぬまで。

「…」バルトアはハリスを見つめる。

ハリスは正直、マナをどうしていいか分からなかった。彼女は自分の意志を、どこまでコントロールできているのだろう?

「化け物ではないさ」不意に背後から声が聞こえた。「遅くなってすまない」

振り向くと、ブレードがいた。

彼も血のように赤い眼をしている。

そういえばメースもだ。

BWSの本隊がようやく、ここに登頂することが出来たのだろう。

「【試練】さえ乗りきれば、お前も魔剣をコントロールできるようになる」

「ハリス!」アニが胸に飛び込む。

「アニ…心配かけちゃったね…」

【途中手強い敵が現れて…もっと早くきていれば…】

ノルイは火の手が上がり陥落した砦を遠目で見ながらそう書いた。

「早く帰るぞ。敵はいなくなったんだ」

ブレードはそう言うとマナを立たせた。

「敵は逃げたが、あれだけの犠牲が出たら、敗戦したも同然だ。…すまん」

食卓で朝食を取っているとブレードはそう言った。

「ブレードさんのせいじゃないですよ」ハリスはトーストを置くとそう言った。

「…あのとき、何故あれだけの大軍が現れたか、分かるか?」

ブレードは空いている隣の席に座った。

「…何ででしょうか…?」

「ゲートだ」ブレードは歯をギリギリと鳴らした。「あそこに短時間のゲートを召喚させた形跡があった。」

「短時間のゲート…そんなことが可能なんですか?」

「賢者が居なければ成功しない…しかし最近になって短時間で現れて強敵を吐き出し終わると消えるゲートが増えてきた」

「マズいじゃないですか!?」

「そこで…だ」ブレードはハリスに耳打ちした。「朝食が終わって3時間仮眠を取ったら、手伝って欲しいことがある」

隣で寝ているアニを起こさないように、ハリスはブレードの部屋に来た。

ブレードはもう既に鎧に着替えていて、メース、アーチャーと三人で待っていた。

「今すぐ出られるか?」

「え、えぇ。」ハリスは頷く。

一行は何も話さず、露店通りを抜けると、寂れた家の建ち並ぶスラム街へ入る。

そこにいたのは…マナだった。

「…行くぞ」ブレードはただそう言うと、きびすを返した。

「…了解っス…」

マナはハリスに軽く会釈するとブレードについていく。

ハリスは疑問を感じながらもブレードについていった。

そして西城門を通り抜ける。

「あの…一体何処まで?」

「…町中では話せません」アーチャーはそう言うとハリスから目を背けた。

【続く】


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