四話その2
メモに指定された位置は西門の外にあるの小さなキャンプ。敵はまだだいぶ先にいるので、ここには敵は来ない。
「ハリス師団長でありますか」
自分より年上の騎士にそう言われるとものすごく違和感を感じる…。
「あ、あの…ハリスでいいですよ…」
気が引けてハリスはそう言ったのだが、
「一応規則ですので」と言われる。
「自分はアクセルイと申します。職位は聖騎士、貴方の副官を担っております。」
「ご…ご苦労様です…」
…なんだかやりづらい…
「隊員の紹介などがありますので、よろしければ自分について頂けますか」
「あ、はい」
ハリスはアクセルイと一緒に、キャンプの中へ入っていった。
「全員、整列!」
アクセルイの一声に、集まっていた様々な格好の冒険者たちが四列に並ぶ。
「さ、師団長…ご挨拶を」
いきなり振られて当然ハリスは戸惑ったが、ここで戸惑いを見せる訳にもいかないので咳払いをして軽い挨拶を始める。
「皆さん、はじめまして。僕はブレード親衛隊から来ました、ハリスです。し、職位は魔法剣士で、主に武器属性附与系統の魔法を得意としています。…師団長をやるのは初めてのことで、迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします。」
ハリスが言い終わると拍手が響いた。
「次に、隊員の紹介に入ります。各員、名前と出身地、職位と得意とする事を名乗るように。では君から」
こうして隊員の紹介が始まる。
隊員の中には当然女性もいて、自分はこの人達の命を預かっていると思うと非常に胃がキリキリと痛む思いだった。
隊員の名前を渡された名簿と照合させながら必死に全員覚え終わったころには、各員は自由行動に入っていた。
「師団長も少し休まれては?」
とアクセルイに言われ、ハリスはキャンプの外に出てみることにする。
「…でな、そんときの狼の顔ったら…」
「…ホホッ、やるのう」
キャンプの近くの焚き火で、4人の傭兵たちが談笑していた。季節も春先で少々冷えるので、焚き火に当たろうと近づく。
「あ、師団長。どうぞこちらへ」
4人のうちの水色の髪をした魔法使いの帽子を被った女性から場所を薦められる。
「ありがとうございます」
ハリスは笑顔で礼を言うと、焚き火に手をかざす。焚き火の火は暖かく、気分が落ち着く心地よい感じが広がる…。
「お口に合うか分かりませんが、この老骨の入れた茶などいかがですかな?」
そういったのはサンタクロースのような白い髭の、ドワーフ戦士風のおじいさんだ。…背が高いから人間だと思う。
「あ、頂きます」受け取ったカップからお茶を入れてもらう。
「師団長はさ、いくつなんだ?」
軽そうな性格の、盗賊のようなバンダナを巻いた男が言う。
「バ、バルトアさん、いくらなんでも無礼ですよ!」
気が弱そうな印象の、弓を背負った金髪の少年はそう言ってこちらに頭を下げた。
「いいえ、僕はまだ19の未熟者なので、礼とかは本当に気にしなくていいです…」
ハリスは笑いながらそう言った。
「いいや師団長、多少荒くれものが集まる傭兵部隊ではきちんと礼を徹底させないといつか舐められますぞ?」
そう老戦士は忠告する。
「しかし、ゲート破壊の英雄さんが師団長とは、俺達はツイてる!」
盗賊の男は茶を一気に飲み干し叫んだ。
巡回中の傭兵たちが訝しげにこちらを見ている…。
「バ、バルトアさん!」
気弱な雰囲気の弓師が注意した。
「中間報告を伝えます」アクセルイがキャンプから出てくる。「敵軍主力はダークエルフ。西南の森と、北の仮設基地からの出撃を、南は光の騎士団、水の騎士団、闇の騎士団正規部隊が、北を火の軍団、地の傭兵団、BWSが引き受けている。」
BWS…ブラッディウェポンズ…つまりブレード達のことだ。
「全軍投入ってことは、今回の敵は生半可なクラスの奴じゃねぇんだな…」
ヒソヒソと盗賊が呟く。
「我々は北の第3防衛関所に一匹たりとも入れないよう巡回する任務です。その後北の本隊と合流、共に戦う。…以上」
「了解!」全員が一斉に敬礼する。
ハリスも思わずつられて敬礼した。
「し…師団長…」アクセルイが非常に戸惑った笑みを浮かべる…。
「あ!すみませんっ!」
★
ハリス達はキャンプから第三防衛砦へと向かう。その途中での話があった。
「なんで師団長なんです?」
ハリスは思ったことを口にした。
「師団でもないから、だろ?」
バルトアと呼ばれていたあの盗賊の男が答えてくれる。
「ええ。普通師団ってもっと人数がいるものだと思ったんですが…」
「この老骨が説明しよう」この戦士風のおじいさんはレクターというらしい。「我々における師団とは、目の前にある作戦を実行するための最小部隊のことなのじゃ」
「なるほど…」
「我々の目的は本隊の為の陽動や防衛、時には本隊が決めた作戦を遂行する手助けをすることもある。つまりは本隊の作戦を実行する小規模部隊、それが我々じゃ」
「む、難しいですね…」この気弱な弓師はペルテン。だが履歴にはメルハ弓師大会6位と書いてあった。
「そのぐらいならアカデミーで習いましたわ。貴方もご存じではなくて?」水色の髪をした魔法使いは、クレミィという。彼女は魔法使いのアカデミーを首席で卒業した。かなり実力のある魔法使いだった。
「ぼ…僕はあまりお金なかったから…」
若い冒険者を育成するアカデミーは、やはり設備の問題で少し授業料が高い。
「わ、私こそ…失礼したわ。」
クレミィが頭を下げる。
「見えてきたな」バルトアが額に片手を添えて遠くを見る素振りをする。
岩で出来た少し大きな城壁が見えた。
あそこが【第三防衛砦】だろう。
★
「…おかしい」
ブレードは地図を見て頭を抱えた。
ここは北の陣営…メルハの北門から数キロの場所にある第7防衛ライン上に存在する、仮設の簡易的な砦である。
その一室に、BWSの作戦参謀であるブレードが使っている参謀室がある。
「どうかしたの?ブレード」メースはブレードの背後から首を伸ばして、地図を覗き込む。「…敵の配置に何かあったの?」
「あぁ…当然南の味方は敵の本隊と交戦している筈なんだが…どうにも戦力がバラけていてな…敵の総大将もどこにいるんだか…」ブレードはため息をつく。
「…気づいたことを言っても良いかしら?」メースが地図を指差した。
「…あぁ。何でも言ってくれ。」
「敵はダークエルフよね?…なんで魔法使いの部隊がひとつもいないのかしら?」
ブレードは椅子から跳ねるように立ち上がる。その顔から血の気が引いていく…。
「…俺としたことが…今すぐ伝令を出せ!北の第三防衛砦に近づいては駄目だ!戦争情報の更新もだ!急げ!」
「…!ちょっとあなた!伝令よ!」
メースは部屋の外にいた護衛に慌てて伝える。護衛の兵士は敬礼すると急いで廊下を駆け抜けていった。メースも続く。
それを見届けるとブレードは壁に掛けていた黒い大きなマントを鎧に付ける。
…少しでも威圧感のある格好をすれば、敵は逃げていきやすいからだ。
背中にはBWSのマークである、【心臓に刺さった剣】の紋章が付いていた。
「スラッシュ!何処だ!?」
部屋を後にして廊下を走りながら、ブレードは叫んだ。
「俺は後ろですって…!」
ブレードは慌てて止まる。
「ふぇぶっ」ブレードの背中にスラッシュが突っ込み、鼻を押さえている。
「…おいおい、戦う前に怪我をしないでくれ…いや、そんな冗談を言っている場合じゃない!親衛隊に召集をかけろ!」
「了解っ」スラッシュは親衛隊が待機している部屋を開けた。「皆、いくぜ!」
「スラッシュ殿!申し訳ない!」
村雨丸がしきりに頭を下げてなにやら書かれたスケッチブックの切れ端を見せる。
ブレードはスラッシュからその切れ端を受けとると、舌打ちをして吠える。
「あ〜い〜つ〜ら〜…!!」
【ごめんなさい!アニちゃんがやっぱりハリスくんが心配だからって言うから抜けます!ごめんなさい!ノルイ】
【探さないで。すぐ戻ります。アニ】
【↑のサポートに行くね。レベル的に心配だし…ハリス君にも会いたいし…うちの男性陣は頼りになるし、私が抜けたぐらいじゃ問題ないはずだし…ね。じゃあ、あとよろ!ラフィーリア】
【この雰囲気で私が行かない訳にもいきませんので、後でどんな不幸な目に合ってもいいので行かせて神様。ラミエ】
【おならプゥッ!!!!カリース】
「…カリースは何処だ…」ブレードは頬をピクピク震わせながら唸るように言う。
「よんだ?」カリースは無謀にもブレードの目の前に出てきた。
「[暗黒剣]!!」
「うっギャアアアアァァぁぁ!!」
★
他の傭兵たちも皆きさくな人達だったが、焚き火で知り合った四人を巡回メンバーに加えハリスは林の巡回を始めた。
「せいさぁ![ピリオド]!」
出現した熊の魔物をバルトアは得意の短剣の突き攻撃で倒す。
「やりますわね」
クレミィは笑みを浮かべながら敵の死体に歩みより、ナイフを巧みに使って皮を剥いでいく。珍しい光景ではない。
ゲーム時代にだって敵から皮を入手したのだ。ただそれが自動にドロップするのではなく手動になっただけだ…。
それにしてもこんな可愛い魔女っ娘が熊の皮を剥いでいく光景って…!
この世界はつくづく残酷だと思った。
「上手いものですね。生産職業は何をされているんですか?」弓師のペルテンがクレミィの手元を見て声をかける。
「私は親の稼業を手伝っていまして…その時から【革工職人】ですわ」
「女性なのになかなか度胸がありますな。頼もしいものですじゃ。」
レクターは立派な白髭を撫でながらホッホッホとサンタクロースの様に笑った。
「しっかし、またいつも通り何も居ねえよな…いい加減飽きてきたぜ…」
バルトアがうんざりしたように言う。
「いつも傭兵部隊はこんな敵のいない場所の防衛をしているんですか?」
ハリスは気になってそう尋ねる。
「まぁ、だいたい八割方こういう場所ですね。たまに交戦もしますが…」
ペルテンが頷いて答えた。
「まぁ、俺らは戦争の経験値のおこぼれに預かる身だ、贅沢は言ってられねえんだけどよ…たまにはハプニングの…」
頭の中でビーと警告音が鳴る。
戦争情報の更新だ。
ハリスは早速確認する。
【緊急伝達…伏兵発見!北の第三防衛砦の付近にいる傭兵部隊は直ちに内回りの進路で、西の第三防衛砦まで撤退せよ】
「なっ…」バルトアの顔が青ざめている「お…おい、師団長…こりゃあ…」
「皆!早く砦まで戻るよ!」
ハリスはそう叫ぶと走り始める。
「了解」そしてレクターが他の二人に言う。「若いのは先に行きなされ。しんがりはこの老いぼれが引き受けよう」
「わ、わかったぜ!」「お気をつけて」
バルトアとクレミィは返事をしたが…。
ハリスは立ち止まる。ペルテンは…?
「おいペルテン、何してんだよ!」
「死にたくない…死にたくない…!」
ペルテンはうわごとのようにそう呟きながら頭を抱えてうずくまっている。
「ペルテンさん、早くお立ちになって」クレミィがペルテンの手を引き起こす。
ペルテンはふらつきはあるものの立ち上がることは出来たらしい…だが、
「皆、砦に伏兵が沸いたなら、北に逃げなきゃ駄目だ!砦に行くなんて…」
「馬鹿野郎!」バルトアがペルテンの頬を拳で殴りつけた。「だからってみすみす他の奴らを見殺しに出来るかよ!」
「時間がありませんじゃ、このままではここまで兵が現れて共倒れですぞ」
レクターが盾を構えて言う。
「ペルテン、僕は師団長として、団員のことは見捨てられないよ。」ハリスは静かに言った。「死んでも仕方ないと思えるならついてきてくれ。でも誰だって死ぬのは嫌だよ。君の言う通り外回りで本隊と合流した方が安全なのかもしれない…だから…そう思うのなら、君が北に逃げても僕は文句は言わないよ。」
言い終わると同時にハリスは走り出す。
バルトアとクレミィもそれに続いた。
「…待って、僕も…」そう言いかけてペルテンは地面に倒れ伏す。後ろを向きかけたクレミィをバルトアが止める。
「見るな、走れ!」
ペルテンの頭には、彼の物ではない、黒水晶の矢が、深々と突き刺さっていた。
【続く】




