Ⅸ
またまた遅くなって大変申し訳ないです。
今回も短いですが、ここからストーリーの流れがだいぶ変わってくる予定(仮)です。
「お嬢様は伯爵令嬢ですよね?」
暫く黙り込んでいたアルフレッドが、再び口を開いて出てきたのは不思議な質問であった。
父が伯爵なのだから、当然のことであろう。
「ええ、そうよ。」
「貴女は壁の花になるおつもりですか?」
「…」
胸中を当てられ、ディアナは答えに詰まった。
舞踏会の誘いは断れるものは断って、どうしても出ねばなならない時はそうしていようと思っていたのだ。
しかし、その計画はアルフレッドの言葉によって崩れ去る。
「スティーブン様は王兄であり、事業にも成功していらっしゃいます。そのうえお子様はお嬢様おひとり。そんな貴女が壁の花でいられる訳がありません。」
「じゃあ、舞踏会の招待なんて全部断ってしまえばいいんだわ。」
ついつい本音が漏れてしまった。
そんな事出来るわけがないというのに。
「そんな事が出来ると本当に思っていらっしゃるのですか?」
アルフレッドは一旦ステップを踏むのを止めて言った。
わかっている。そんなことはわかっているのだ。
ディアナはしばらく俯いたままで何も言えなかった。
「お嬢様は何か心配事でもおありですか?私で宜しければお聞かせ下さい。」
すると、アルフレッドが今までとは打って変わって優しげな口調でそう聞いてくる。
ディアナの一連の言動に何かに気づいたのであろうか。
「…こんな私が宮廷に出て、お父様や陛下に恥をかかせてしまうんじゃないかって。」
「何故そう思うのです?」
アルフレッドは再びステップを踏み始めた。
「ダンスは全然覚えられないし、顔だって肖像画で見たお母様には遠く及ばないわ。そんな私が宮廷になんか行ったら恥晒しじゃない。」
ディアナの住む屋敷の廊下には、歴代の主とその夫人の肖像画が飾られている。
無論、彼女の母親であるヴァイオレットのものもある。
夫の隣で微笑む彼女は娘のディアナも見惚れてしまうほど美しかった。
しかし、普段鏡で見る自分の顔は本当に血が繋がっているのか疑いたくなるほど平凡なのだ。
美人であれば、大抵のミスは男がカバーしてくれるだろう。しかし、平凡な彼女がミスをしたら、誰が助けてくれるだろうか?
「…そんなことだったのですか、貴女が悩んでいたことは。」
アルフレッドがため息とともにそういった。何かいけないことを言ってしまったようだ。
「ディアナお嬢様、貴女は少し自分の価値を誤解していますよ。貴女はとても美しい。きっと奥様と並んでも見劣りしないでしょう、いや、貴女の方が優れているかもしれません。それにお気づきになってください。」
「でも…」
その先を続けようとしたディアナの耳元にアルフレッドは唇を近づけ、こう囁く。
「私が貴女を今すぐ攫ってしまいたいくらいですよ、って言ったら信じてくださいますか?」
ディアナは自分の顔に熱がのぼるのがわかった。
それを見られたくなかったので、彼女は授業が終わるまで顔を上げることが出来なかった。
そのため、彼女はアルフレッドの顔もまた、赤くなっていることに気付くことはできなかったのである。
読んでくださってありがとうございます♪