第6話 フォルトゥナとヴィルトゥが、かみ合う時 ~宝くじが当たった後~
前回は、『宝くじ理論』についてお話ししました。
ここから先は、筆者自身への戒めも含まれます。そういう話が苦手な方は、ここでそっと戻っていただければ幸いです。
◇◆◇
宝くじを買うには、お金も手間もかかります。
外れたら損をするというリスクもあります。
けれど、落ちている宝くじを拾って、それが大当たりしたらどうでしょうか。
買うストレスを飛ばして、いきなり当たる。
これは、読者にとって非常に気持ちのいい展開です。
ですが、今回はその先の話をしたいと思います。
宝くじが当たったあと、人はどうするのか。
◇◆◇
ここで少し、マキアヴェッリ的な言葉を使ってみます。
フォルトゥナ。
これは、運命や幸運のようなものです。
ヴィルトゥ。
これは、その運命を掴み、使いこなす力量のようなものです。
物語においても、人生においても、この二つがかみ合った時、人には大きなチャンスが訪れます。
偶然、槍が刺さる。
偶然、矢が敵将に届く。
偶然、庭から黒い水が湧いている。
偶然、投稿した作品が読者の目に留まる。
偶然、コンテストで拾い上げられる。
偶然、すごい作家さんや編集者の目に留まる。
こうした出来事は、たしかにフォルトゥナです。
運命や幸運の領域です。
しかし、問題はそのあとです。
◇◆◇
たとえば、宝くじが当たったとします。
大金を手に入れた。
家族が喜んだ。
周囲から称賛された。
ここまでは、とても気持ちのいい展開です。
ですが、そのお金をどう使うのか。
浪費して終わるのか。
生活を立て直すのか。
事業を始めるのか。
誰かを助けるのか。
あるいは、次の危機に備えるのか。
そこから先は、当たった人間の力量が問われます。
幸運そのものは、物語を始めるきっかけになります。
ですが、幸運を物語に変えるのは、主人公の行動です。
つまり、フォルトゥナだけでは物語は続きません。
そこにヴィルトゥが必要になるのです。
◇◆◇
これは、成り上がりものの物語では特に重要です。
主人公が偶然に大きな手柄を立てる。
強い力を手に入れる。
偉い人に見出される。
領地や地位を与えられる。
ここまでは、読者に強い快感を与えます。
しかし、そのあとで主人公が何もしなければ、物語はすぐに薄くなってしまいます。
領主になったなら、領地をどう治めるのか。
金を得たなら、何に使うのか。
部下を得たなら、どう率いるのか。
権力を得たなら、どう責任を果たすのか。
ここで主人公の器が見えてきます。
偶然の成功は、読者を引き込む入口です。
しかし、読者が本当に見たいのは、その幸運を手にした主人公が、そこから何を成し遂げるかです。
◇◆◇
これは、物書きにも当てはまると思います。
ここから先は、少しだけ筆者の実感も入ります。
ただし、できるだけ創作論として整理してみます。
作品が偶然、多くの読者に読まれることがあります。
ランキングに載ることもあります。
誰かに紹介されることもあります。
編集者や作家の目に留まることもあります。
コンテストで評価されることもあります。
これらは、とても嬉しい出来事です。
まさに、物書きにとってのフォルトゥナです。
ですが、その幸運が訪れたあとに何をするか。
そこからが本当の勝負です。
続きを書けるのか。
読者の期待に応えられるのか。
体調を崩さず、長く続けられるのか。
必要な修正に向き合えるのか。
宣伝や連絡をきちんとできるのか。
自分の作品を、次の段階へ進められるのか。
ここで必要になるのが、ヴィルトゥです。
文章力だけではありません。
構成力だけでもありません。
健康管理、継続力、判断力、締切への対応力、そして運よく開いた扉の前で逃げない心も含まれます。
幸運は、扉を開けてくれることがあります。
しかし、その扉の向こうへ歩いていくのは、自分自身です。
◇◆◇
ここで大切なのは、幸運を否定しないことです。
努力だけで全てが決まる、と言い切るのは少し乱暴です。
世の中には、どうしても運の要素があります。
たまたま読者の目に入る。
たまたま時代の空気に合う。
たまたま誰かが見つけてくれる。
たまたま一つの展開が、読者の心に刺さる。
そういうことは、確かにあります。
けれど、だからといって全てが運だけで決まるわけでもありません。
幸運が訪れた時、それを受け止めるだけの準備ができているか。
手に入れたものを、次の展開へつなげられるか。
読者に「この主人公なら、この幸運を使いこなせる」と思ってもらえるか。
そこが、物語の強さになります。
◇◆◇
まとめると、こうです。
フォルトゥナは、きっかけをくれます。
ヴィルトゥは、そのきっかけを結果に変えます。
宝くじが当たることは、気持ちいい。
けれど、本当に面白い物語は、宝くじが当たった後に始まります。
その幸運で、何を買うのか。
誰を救うのか。
何を築くのか。
どんな責任を背負うのか。
そこに、主人公の本当の魅力が表れます。
読者に最初の快感を与えるためには、宝くじ理論が有効です。
第一話で説明した①から③のサイクルですね。
ですが、その快感を長く続く物語へ変えるためには、フォルトゥナとヴィルトゥの両方が必要になります。
誰にでも、チャンスが訪れる瞬間はあります。
問題は、そのあとです。
手に入れた幸運を、ただの偶然で終わらせるのか。
それとも、自分の力量で物語に変えていくのか。
そこから先にこそ、主人公の本当の戦いがあるのです。
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