09 王城にて
前半はディアス視点。
◆◇◆◇◆以降は、マルチ視点です。
「クソッ!
……やられた!」
部下の魔道士が能力を鑑定する水晶玉に手を置いて、空中に写し出されたステータスを見て、副魔道士長ディアス・マルチーノが憎々しげに顔をしかめていた。
自分を含め、確認の為に水晶玉で確認したステータスは、ジョブはランクを表す段位が一、あるいは二と表示し、スキルが一切表示されていなかった。
それはすなわち、鑑定の水晶玉に仕込まれた魔法に細工を施されていたという事、そして、それを行ったのは、さきほど召喚を行い、使い物にならない異世界の人間を呼び出したフィガロ。
奴がなんだかんだと理由をつけ、一週間の準備期間といって時間を取らせた間に行っていたのでだろう。
ならば、狡猾な奴が水晶の魔法をいじるだけで、一週間も時間を取る訳がない……こちらの事を予測し、無理に召喚した異世界人を逃がす為の準備をしているはずだ。
それに本来、この召喚儀式を行った者は、儀式での反動による犠牲で死んでしまうか、余命数日となるほどの衰弱を見せるはずだった。
しかし、5人の召喚が、何らかの手違いで6人となり、1人分多い犠牲がフィガロの余命を延ばし……また、フィガロの膨大で常人離れなステータスも、余命を延ばしたのであろう。
古い文献による魔法ゆえ、こういった手違いはあるのは仕方がない……だが、使い物にならないと思われた異世界人が、本当なら使えるのなら話は別だ。
早急に、異世界人を連れ戻し、洗脳でも、呪いの魔法具を使用してでも言う事を聞かせ、戦争を仕掛け領土を増やすのも良し、逆に国を守る為の駒とすればいい。
ならば……。
「これから、陛下に説明し、フィガロの奴、ならびに異世界人を連れ戻す為の兵をたててもらう。
……そういえば、送迎馬車に中の会話を盗聴する魔法具と、一部の御者に暗示をかけていたが、反応はあったか?」
「……いえ……魔法具の反応も、御者からの、そういった連絡もありません」
「そうか……細工を見破られたか、まだ馬車に乗っていないか……見破られたなら、事を急がねばならんな。
急いだほうがいいか……お前達も、フィガロの屋敷に行く準備をしておけ。
いいな!」
ディアスは、部下の魔道士達に言い放ち、部屋を出た。
(チクショウ……上手い事、事が運ばん!
せっかく、目障りな奴をどうにか出来ると思っていたのに!)
最近、国中で魔物が増え、西の国で魔族が姿を表した事を理由とし、目障りだった庶民の孤児だったフィガロを陥れる為に、母の弟であり、姉である母に頭が上がらないのを利用し、この国の国王である叔父上に頼み込んで、王命で召喚儀式をフィガロに行わせた。
(だいたい、薄汚い下民が、高貴なる僕より魔力が多いって事が許せないんだ!
僕を騙し偽った事は許さない。
見つけ次第、アイツを殺してやる!)
怒りで早歩きとなりながら、国王がこの時間にいる、国王の職務室に向かった。
◆◇◆◇◆
「召喚……残念でしたわね」
国王の職務に設置されているソファーに座り、国王の秘書となる文官がいれた紅茶を一口飲み、紅茶の赤い液体を見つめながら、王女マリーシアが呟く。
「……仕方あるまい。
もとより、期待はしておらぬ。
ディアスの奴がうるさかったからの……放っておけば、必ず姉上が出てくる。
ならば、好きにさせるのがいいだろう。
実害は……魔道士長、か……奴は少々もったいないが、所詮は駒よ」
「そう、ですわね……それより、そろそろ」
再び、紅茶を一口飲み、静かにカップをテーブルに置いた。
同時に、部屋の外で控えた兵士が軽くドアを開け、秘書に言伝てた。
「陛下……副魔道士長ディアス様が、陛下に伝えたい事があると」
「……ふむ、通せ」
手元の書類から目を離さず、国王は命じた。
秘書は一礼し、ドアを開け、ディアスを中に入れた。
「失礼いたします、叔父上……なんだ、マリーシアもいたのか?」
ディアスは一応断りをいれ、部屋に入るが内心フィガロの件の苛立ちで若干声が大きく、礼儀のない物言いに、書類に目を通す国王の眉間は寄った。
「……騒がしいですわね。
それに、国王であるお父様に何て口をきくのでしょう。
いくら、私とは血縁上イトコにあたるとはいえ、貴方は公爵の嫡子……礼儀をわきまえなさい」
「……くっ、失礼いたしました。
陛下、マリーシア王女殿下」
ディアスは、顔をしかめながも頭を下げた。
「それで、要件は?
ご覧の通り、お父様は忙しいので、私が聞きましょう」
「……では、さきほどの謁見の間で行われた、異世界人の鑑定に間違いがありました」
「どういう事かしら?」
「鑑定の水晶に細工がなされ、ジョブは下位のジョブとなり、スキルは写し出されておりませんでした。
これらは全て、前魔道士長フィガロが仕組んだモノと」
「……なるほど、それで貴方は何をおっしゃりたいのかしら」
「陛下を謀った罪により、フィガロ及び異世界人を、陛下の下へ連れ戻したく。
また、その為、陛下に王国騎士の貸し出しの許可をいただきたく存じます」
「……そうですか。
しかし、フィガロと異世界人連れ戻してどう「いいだろう」……お父様?」
「構わぬ、騎士を貸し出そう。
20名でよいか……そのかわり、必ず、連れ戻せ」
素早く、騎士貸し出しの書類を書き、秘書に渡し、ディアスに渡る
「ありがたき存じます……では」
ディアスは書類に目を通し、ニヤリと笑い部屋を出た。
「……よかったのですか?」
ディアスが出たドアを見ながら、マリーシアは、国王に問う。
「……ふん、こうなる事は読めていた。
……言っただろ?
姉上が出てくるほうが面倒だ。
ならば、好きにさせればよい。
……おそらく、間に合わないだろうがな」
「そうですね」
マリーシアは、冷めた紅茶を再び手に取り、口に含んだ。
冷めた紅茶は確実に味が落ちていた。
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