42 生誕祭が始まった
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すでに会場には招待客で溢れ賑わっている。
自国の貴族、有力な商人、他国の権力者、大陸の王子が、各自国の正装やドレスに身にまとい、参加者は給仕の運ぶグラスに入ったカクテルやシャンパン、ワイン等を手にし、顔をあわせ、談話し優雅なひとときを楽しんでいる。
そのひとときを盛り上げる、静かでゆったりとしたオーケストラの生演奏も一役かっているであろう。
その会場で二段高い場所の中央に綺羅美やかで豪華な玉座があり、その横に一段劣るが色採りどりな宝石を散りばめながらも上品にまとめられている椅子が置かれていた。
が……まだ、その二脚に座る主役である国王と王女は、まだ姿を現していなかった。
だが、いつの間にか二脚の横に1人の男性が立っている。
この国の宰相である。
宰相は軽く右手を挙げ、オーケストラに見える様に、捻り拳を握る。
その行動とともに、自然と流れ、リズムのよいオーケストラの演奏はやむ。
そして、談話する声も、笑いあう声もやみ、皆、中央の玉座に視線が集まった。
「ごほん……今宵、我がプレリューム王国27代国王陛下ガルシア・ウォン・プレリューム様、ならびにマリーシア・エレム・プレリューム王女殿下が登場なされます。
皆様、是非に盛大な拍手をもってお迎えを」
宰相が端まで声が届く様にと作られた拡声マイクを持って説明する。
ガゴンッ。
玉座の後方にある、そで口の出入口ではなく……会場の玉座の対となる入り口の3メートルもある大きな扉が開き。
「『ガルシア国王陛下』ならびに『マリーシア王女殿下』が、ご入場なされます」
と、
大きな扉から現れた国王陛下は淡い紫の上質の布でこしらえた衣装をまとい、その上を真っ白なマントを両肩にかけていた。
国王の50歳としては恰幅のよい身体をゆったりとした衣装で隠す様であり、ややスッキリとした体型の様に見える。
マントは金糸、銀糸に赤や、青い糸で縫いプレリューム王国を象徴する花が刺繍され、それだけでも1つの絵画の様に芸術作品といえるだろう。
王女殿下は、輝く金の髪を後頭部に結い纏め、光沢のある鮮やかな蒼のドレスに身を纏わせ、玉座の方へ一歩歩く度に、星が煌めく様に淡い光がこぼれ落ちる。
2人は玉座までたどり着くとその場を反転した。
「本日は、50となる我が生誕祭を祝いにお越しいただいた事を、また、各国より……また遠路である大陸から代表で参られた方々にも感謝する。
すでに用意した食事も、各飲み物も楽しんでいると思うが、この後も盛大に楽しんでいただきたい」
陛下は端から端までを見渡し、来賓者の顔を見て頷く。
「だが、我も50……いつ倒れる事になりかねないと思うと、今後が心配でたまらぬ。
ゆえに、我になにかがあった場合、我の横にいるマリーシアを正式に……この場をかりて次期国王に任命する事を宣言する」
ぱち…………ぱち……ぱち、パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチーーーーーーーーーーーーーー……。
次第に盛大となる拍手の音が会場中を鳴り響きマリーシアを称えた。
「……謹んでお受けいたします」
マリーシアも最初は戸惑った顔をしていたが、次第に把握していき、満面の笑顔で美しいカーテシーで一礼した。
「意義を申しつける。
その宣言は取り下げていただこう!」
その割りきれんばかりの拍手の中、2人の歳めいた男女が国王の前に姿を現す。
「……マルチーノ公爵、それに(姉上か)」
姿を現した人物を見て、国王ガルシアはため息をはく。
「マルチーノ公爵、どういうつもりで国王陛下の言葉に意義をつけるのです」
国王の祝いの席に泥を塗り、盛り上がる会場を静まらせたマルチーノ公爵達を、宰相は睨み問う。
もともと、宰相……クロード・クロスは、マルチーノ公爵と同じ四公爵の1つ、クロス公爵家の当主であり、国王ガルシアと同じ年齢であり、幼き頃よりともに過ごしてきた乳兄弟でもある。
また、ガルシアの姉であり、王位継承権を返上しマルチーノ公爵の妻となっても、あれこれと内政に口を挟むマルシアが嫌いであった。
半年ほど前の禁術、異世界勇者召喚の時も、息子のディアス・マルチーノの威厳をあげさせる為、また、当時この国最高の魔道士フィガロを排除させる為、息子の案をガルシアに無理矢理通してきた。
そして失うのはフィガロのみとわかった為、ガルシアは面倒臭がって案を聞きいれたが、クロードは最後まで反対していた。
今回もおそらく。
「決まっている!
我が息子であり、この国一番の魔道士であるディアスのほうが、そこにいるマリーシアよりも優れている。
それに我が妻マルシアは王位継承権を返上はしたが、国王ガルシアの実の姉、その血を受け継ぐディアスは現王国の唯一の男児!
ならば、しょせん女のマリーシアが次期国王となるよりもふさわしいに決まっている」
マルチーノ公爵は、自身の言い分が正しいと決めつけ、マリーシアを敬称もつけず呼び捨てにして、女だからだと馬鹿にする。
その隣で、婦人マルシアはニヤニヤと笑う顔を扇で隠してガルシアを見ていた。
「……言いたい事は、それだけか?
マルチーノ公爵?」
ガルシアは声を低く、それでいて会場全域に聞こえる様に問う。
あまりの威圧でマルチーノ公爵は怯む。
「だとしたら、愚かだな。
我とて、なにも考えずに我の娘マリーシアを次期国王に選んだ訳ではないわ!
マリーシアには幼き頃より、マリーシアの意思に伴い、国王にふさわしい知識、礼儀、振る舞い、その他諸々学ばせてきた」
段々と声が大きくなっていき、玉座から立ち上がり言葉を叩きつける。
「単に魔力が代々の国王に近いというだけで、魔道士となり、この国一番?
笑わせる……あの手この手と自分より実力が上の者を排除してなったものがなんになる?
また、時間が経てばまともになるかと期待し、決めるまでどれだけ待った事か!
貴様の愚息にこの国を任せては滅びに向かうだけであるわ!」
「ひいっ?」
あまりの威厳の乗った威圧にマルチーノ公爵夫妻は足をよろめかせ、余裕で愚かにも馬鹿にした顔は真っ青となり、尻餅をついた。
そこに。
「なにをしているんだ?
父上達……この様な場でなんて愚かな事を」
事を聞きつけ、会場に現れたディアスは両親の前に回り込み、両親を責める。
だが、その行為は国王を背にしており、王の御前で行う態度ではない。
「……ディアスか。
貴様、この場に現れたという事は、話を聞き及んできたのであろう?
貴様にも問おう……その2人の言う通り、貴様が、この国を受け継ぎ、次期国王となるつもりか?」
背にしている事には触れず、ガルシアはディアスにも問いかける。
「私が……この国の国王に?
くふふ……この私がですか?
それもいいです、ねっ!」
その言葉を聞き、肩を震わせ、突然振り返りざま、無詠唱で炎の魔法をガルシアに向け打ち放つ。
「むっ?」
巻き込まれれば一瞬で焼きつくす突然の魔法攻撃に驚き、ガルシアは立ちつくす。
「はあ!」
気合いを込め、ガルシアの前に隠密術をといたシヤが鉄棍に魔力を纏わせ打ち払い、炎を消滅させた。
「シヤ!」
マリーシアはシヤの介入に喜び声をかけた。
「……マリーシア様、ご無事ですか?
アルベルト総団長、国王陛下とマリーシア様、宰相閣下を安全なところへ」
油断なくディアスを見たまま、同じ様にガルシア達を守っているアルベルトに伝えた。
「わかった!
今、この会場にいる方々は至急避難してください。
我ら騎士団の者が、皆様をお守りいたしますので、速やかに指示を聞き、安全なところへと向かってください」
アルベルトも声を大にして叫ぶと、会場にいる騎士が扮する侍女や給仕達が、近くにいる貴賓客達に声をかけ、避難させていく。
残ったのはシヤ、対峙するディアス、未だ尻餅をついているマルチーノ公爵夫妻。
それに、アルベルトに守られていて避難しなかった国王ガルシア、マリーシア、クロード宰相だけであった。
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