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師走も後半に入り、いよいよ年の瀬が迫ってきた。
「ここでの仕事に、だいぶ慣れてきたわね、ミドリさん」
「エリさんの教え方が上手だからですよ。お母様やお作法の先生みたいに、愚痴や自慢を垂れませんから」
給湯室で、仕事が一段落したエリとミドリが、ほうじ茶とカステラで一服している。
そこへ、甘い匂いを嗅ぎつけたのか、アオイがひょっこり顔を出す。
「ミドリちゃんは、手際が良くて、飲み込みも早いよね。――僕の分は?」
「それより、先に報告すべきことがあるでしょう? 人化の術の習得は、どこまで進んでるの?」
「もう少しだね。変身できても、その姿が安定しないんだ。――ありがとう」
エリとアオイが話しているあいだに、ミドリはアオイの分のほうじ茶とカステラを用意した。
アオイは、湯呑みを口に運び、冷え切っていた喉を温める。
「ずいぶん、時間が掛かるのね」
「スパルタで北風タイプの誰かさんと違って、僕は褒めて伸ばす太陽タイプだからね」
「悪かったわね、冬将軍で」
そう言って、エリが拗ねたような態度をとってカステラを口に入れると、ミドリとアオイは顔を見合わせ、揃ってクスクスと笑った。
エリは、そのふたりの態度を面白くなさそうに見やる。その時、ふとアオイの上着の内ポケットに封筒が挟まっていることに気付く。
「その手紙は何、アオイくん?」
「ん? あぁ、忘れてた。ポストに入ってたんだ。――はい、ミドリちゃん」
「えっ、わたし宛てですか。ありがとうございます」
アオイは、懐から封筒を出してミドリに渡す。
受け取ったミドリは、誰からだろうと思い、封筒を裏返す。そこには、左下に「靑栁」の二文字だけが書かれている。
その封筒の中身を、エリは、表面では無関心を装いつつも内心で気にし、アオイは、あからさまに興味津々の様子で訊ねる。
「誰からなの?」
「おそらく、伯父様です。お父様より十歳以上年上の兄で、今は、わたしの戸籍上の父にあたる人物です」
「ふぅん。どんな人?」
「お会いしたことは無いの。北鎌倉に住んでらっしゃるんだけど、お母様は伯父様が苦手らしくて」
「なるほど。で、手紙の内容は?」
「ちょいと、アオイくん。私信なんだから、そのくらいにしなさい」
アオイが手紙の開封を催促したので、エリはアオイの後ろ襟を掴んで引っ張って制した。
「なんだよ。エリちゃんだって、心の中では気になってるくせに」
「心のうちに秘めておくことと、それを態度に出すことには、雲泥の差があるのよ」
「ちぇー」
アオイがつまらなさそうに膨れっ面をすると、ミドリは眉を下げて申し訳なさそうにしながら、残ったカステラをアオイの皿に載せて言う。
「ひょっとしたら見られるとまずい内容かもしれないので、お部屋で読んできます」
「そうね。読み終わったら、すぐに降りて来てちょうだい」
「問題無かったら、あとで教えてね」
「はい。失礼します」
ミドリは、胸の前で封筒を抱え、足早に屋根裏部屋へと向かった。




