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 紅茶を書斎に届けたあと、給仕はエリに任せ、アオイとミドリは温室へ移動した。


「それじゃあ、結局、言い出せなかったんだ」

「えぇ。途中で、京極様がいらしたものだから。――これくらいで、良いのかしら?」


 ミドリがカゴの中のハーブを見せると、アオイはカゴを受け取り、摘まれたセイジやサルビアを一つずつ確かめつつ、ウンウンと軽く頷いて肯定する。ふたりとも、両手には軍手をしている。


「綺麗に摘めたね。力任せに引きちぎる誰かさんとは、大違いだ」

「よかった。摘んではいけない草まで、摘んでないかしら?」

「それも、大丈夫だよ。――引くから立って」 

 

 アオイが片手を差し出すと、ミドリはその手を握り、引っ張られるタイミングで立ち上がる。

 そして、ふたりは畝に沿って歩き出す。


「絵本の内容だけどさ。よかったら、僕に教えてくれないかい?」

「え~。どうしようかしら」

「お願いだよ、ミドリちゃん。藤村様には黙っとくからさ」


 片目を瞑り、両手を拝むように顔の前に合わせながらアオイが頼み込むと、ミドリはアッサリと話す。


「シノって名前の仔猫が、居なくなった母猫を探す話なの」

「あぁ、なるほど。それは、藤村様に言い辛いな。――よし。乾燥させるから、ここに重ならないように広げていって」

「はい」


 アオイは、乾燥棚から棚板を一枚引き抜き、その上にカゴを置いてから作業台に載せる。

 ミドリは、カゴをひっくり返して中身を棚の上に開けながら、アオイとともに、傷付けないよう丁寧に並べていく。


  *


 アオイとミドリが、温室で仲良くハーブを並べている頃、書斎には、重苦しい空気が支配していた。


「箱庭、ねぇ……」


 藤村は、渋面を作りながら腕を組み、ソファーに背中を預けながら天井を見る。

 その藤村とは反対側で、着流しに羽織りだけ掛けた京極は、アームレストに腰を下ろしながら言う。


「今世紀に入ってから、西洋で言われるようになった理論です。療法としても未発達なことは、否めないところですね」

「いや、そういうことではなくてだね」


 腕を解くと、藤村は京極の方を向いて話し出す。


「今のシノに、無理して社交性を身に付けさせること無いと思うんだ」

「お言葉ですが、そんなことを言ってるうちに、社会に出られなくなりますよ。一生、この屋敷に閉じ込めておくつもりですか?」

「極論を持ち出すな」

「いいえ、正論です。僕としては、十二歳の誕生日がタイムリミットだと考えています」

「あと、半年も無い」

「ですから、決断を急いでいるのです」

「無茶苦茶だ」


 議論が平行線を辿り、気まずい沈黙が流れたところで、ドアの前で黙って控えていたエリが口を開く。


「あの。紅茶のおかわりをお持ちしたいので、いったん席を外してもよろしいでしょうか?」

「あぁ、すっかり冷めてしまったな。お願いしよう」

「はい。では、失礼します」


 エリは、ソファーの前にあるローテーブルに駆け寄り、冷めた紅茶の入ったカップやポットを台車に載せると、ドアを開け、台車を押して部屋をあとにした。 

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