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金色の誘惑  作者: イブスキー
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第36話 (ジェイド)

 食堂に来た二人は、接待しようとするクロエを大事な話があるからと言って追い払った。ユーリィは俯いたまま顔を上げない。見られたことがよほどショックだったのだろう。


「聞いていい?」

「何を?」

「二人は恋人同士なの?」

「違う!!」


 普段は表情を崩さないユーリィが、顔いっぱいに怒りを露わにして声を荒げた。遠くでクロエが心配そうにこちらを窺っている。


「だったら、さっきのあれって……」


 言いにくくなり、ジェイドは言葉を濁した。


「初めの日にヴォルフが、今回の成功報酬であれを要求したから、仕方なく支払っただけ」

「少なくても、ヴォルフさんは君を好きってことだよね?」

「勘違いするな。ヴォルフが好きなのは僕じゃなくて、金髪碧眼なんだ」


 その話はジェイドにも聞こえていたが、ヴォルフがしどろもどろに呟いていた言葉を考えると、彼はユーリィだけを好きだと言っていたと思うのだが。けれどそれを指摘すると、ユーリィは更に激高しそうなので、ジェイドは敢えて口にはしなかった。


「で、君はどう思ってるんだよ?」

「僕は誰も好きになれないから、別に何とも思ってない」


 好きでもない相手にあんなことをするのかな、とジェイドは疑問に思った。


「そもそも二人って、どうして出会ったんだ?」

「それは……」


 ユーリィは雨の森で出会って、ヴォルフが薬の飲ませる為に強引にキスをしたことや、それから何故か彼に欲情するヴォルフの様子を、ポツリポツリと語ってくれた。


「ふぅん、そういうことか」

「ずっと追いかけられてるんだ、アイツに。だいたい薬をああいうふうに飲ませること自体、ヴォルフは変態だ」

「まあ、そうだね……」


 ヴォルフをずっと紳士的だと思っていたジェイドにしてみれば、疑うわけではないがユーリィの話がおよそ信じられなかった。


「僕は男だぞ? それに僕は人に好かれるタイプじゃない。ジェイドだって僕が嫌いなんだから、それは分かるだろ?」

「あー、まあ、そうかな」


 教会の前で紹介された時は確かにムカついたし、その後も横柄な態度に腹を立てていたジェイドだったが、今はそれほどユーリィが嫌いではない。特にフェヴァン邸で見せつけられた決意に、彼の強さを認めざるを得なかった。口は悪いが悪意はないらしいし、性格も慣れてしまえば、案外面白いかもしれない。けれどそれを本人に言うのもしゃくに障るので黙っていた。


「まさか金髪碧眼が原因だとは思わなかった」

「人の趣味は様々だからね」

「金髪に青い眼なんていっぱいいるのに、何で僕なんだろう……」


 ジェイドはユーリィの顔をじっと見た。

 口を開かなければ少女に見えなくもない。白い肌とやや吊り気味の大きな目、それに形の良い唇を可愛いと思う奴もいるだろう。特に白目が少ない青い瞳は特徴的だ。エルフのそれに少し似ている気がするし、年齢よりもかなり幼く見えるのは、その血が入っているからだろうか。


「なんだよ」


 見つめられて恥ずかしくなったのか、再びユーリィは顔を赤らめた。


「ヴォルフさんの気持ちを考えて眺めてみた」

「やめろ、眺めるな、気持ち悪いから。いいか、僕は生まれてからずっと、他人とは殆ど話したことがないから人の気持ちなんて分からない。だから口が悪くて性格も悪いんだ。見た目がどうであろうとそれは問題じゃない」


 その言葉にジェイドは、自分をユーリィと勘違いしたフェヴァンが話したことを思い出した。


『実はわたしも君と同じで庶子でね、君がきっと辛かっただろうことは分かる』


 庶子、つまり妾腹ということだ。

 彼は彼なりに苦労をしてきているんだと思えば、その性格も仕方がないとジェイドは思った。


「分かった、さっきの事は忘れる」

「本当に?」

「ああ」

「良かった。これで心置きなく旅立てるよ」

「旅立つ? どこに?」

「どこにって、もう仕事は終わったんだし、別れるんだ」

「あんな状態のヴォルフさんを置いて?」


 ジェイドの言葉にユーリィはやや目を細めた。


「だって、ジェイドがいるから平気だよ。ジェイドだって僕がいない方がいいだろ?」

「オレ一人だと怪我人の面倒はちょっと大変なんだけど。それに爆発させたのは君だよ?」

「それはそうだけど……」

「しばらく一緒にいようぜ。オレも一度、家に帰らないといけないし。オレの両親と弟妹を紹介するよ。家の中で追いかけっこするガキ共だから、凄くうるさいけど」

「追いかけっこ?」

「友達とやらなかった?」


 ユーリィの顔から表情がフッと消える。それが何を意味しているのか、ジェイドもようやく理解した。


「じゃあ、ウチでやろうぜ」

「迷惑じゃないの?」

「オレの親は昔から、オレが友達を連れてくるのは大歓迎だから大丈夫だよ。いいだろ?」

「あ、うん……」


 下を向いて頷いたユーリィを見て、ジェイドはヴォルフの気持ちが何となく分かった気がした。もちろん、自分はそんな気は全く起こらないけれど。


(でもヴォルフさん、きっと苦労するだろうなぁ)


 ユーリィの性格を考えれば、すんなりと愛が成就するとジェイドには思えなかった。だからこそ二人がこの先どうなるのか、しばらく見ていたいという野次馬根性がある。特にユーリィがどう変化するのか興味をそそられた。


「ヴォルフさんが動けるようになったら、早速出発しよう」


 ジェイドの言葉に、ユーリィは再び小さく頷いていた。



 三人の旅がここから始まる。

 この先どんなことが待ち受けているのか、まだ誰も知らない。


ご閲覧ありがとうございました。

今作には次作の伏線が入っています。

もしお時間がありましたら、よろしくお願いします。

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