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シンクに運ばれる皿、カップの数々を丁寧に一つ一つ洗っては水切り板に載せていく。
ラデルは洗い手、ガエタノは運び手として役割を担い、賑やかだった会場を元の姿に戻し
ていく。最後にテーブルを綺麗なクロスで拭き、食堂での作業は終了。あとは、シンクで
の作業の手伝いをするだけだ。
「テーブルは片付いたよ。ラデル君」
「ありがとうございます。こちらも洗い物があと少しで終わりそうです」
最後の皿を水切り板に載せ、手を拭きつつ食器を拭くクロスに手を伸ばす。それをガエ
タノの手が制す。
「これは吾輩の出番だ。ラデル君は休んでいたまえ」
「……お願いしてもよろしいのですか」
「無論だ。君はいつも働きすぎだ。我々がいるときは、もう少し気を緩めても良いんだ」
そう言ったガエタノはクロスを手に取り、食器を拭き始めた。
「それにしても、今回は大成功だったな。あの笑顔は我々にとって最高の返事だった」
「ええ。立ち直ったご様子でしたね」
グラスを磨き終え、置いたと同時にラデルがそれを所定の場所にしまう。突然の事に驚
いたガエタノだったがまたすぐに微笑む。
「ガエタノ様こそ……ですよ?」
「まさか自分に返ってくるとは……すまない」
ガエタノが拭き終えた食器をラデルが次々にしまい、あっという間に最後の一枚になっ
た。最後に濡れた個所を拭き、丁寧に洗い乾かす。これにて後片付けは完了した。
「お疲れ様。ラデル君」
「ガエタノ様こそ、お疲れ様です」
二人はソファに腰を掛け、労いの言葉を交わす。パーティは楽しいのだが、その後にや
ってくる静寂という名の寂しさがガエタノはあまり好きではなかった。
「この寂しさは何ともならんね……何度もパーティを開催しても拭えないものだな」
「またパーティを開催して、その寂しさをなくしてしまえばいいのではないでしょうか。
その寂しさも、またパーティを開催しようというきっかけになってくれているものだと
私は思っております」
「……なるほど。見方によってはプラスにもなるということか」
髭を整えたガエタノはその言葉を深く刻み込んだ。
「ラデル君、すまないが紅茶をいただけるかな」
「はい、畏まりました」
ラデルはキッチンに向かい、すぐに紅茶を淹れる準備を進めた。運ばれてきた紅茶は先
程口にしたものとは別で風味にしっかりとした輪郭があった。
「……こちらの気持ちを読んだのかね?」
「さぁ……なんのことでしょうか」
知らない事だと惚けるも紅茶にはその答えがしっかりと出ていた。そこまで先回りをさ
れるとは思わなんだとばかりにカップを小さく揺らす。紅茶の香りが湯気と共に鼻腔に吸い込まれ香りの華が次々と開華していく。できすぎた執事だと心の中で思った。
「それと、ガエタノ様。こちらを」
ラデルが一枚のメモと袋に入った何かをガエタノに渡した。それには紅茶のクッキーの
レシピ、袋の中にはレシピに書かれている材料が入っていた。
「ラデル君……レシピに書かれている量より紅茶が多いような気がするが……?」
「それは、併せて飲んでいただこうかと思いまして、少し多めにご用意させていただきま
した」
どこまでも先を読むのがうまい。それができるから執事が務まるのかもしれない。たま
らずガエタノは声に出して笑った。それもここしばらく感じたことのないくらいに。
「本当に、君には恐れ入るよ。まったく」
「お褒めにあずかり光栄です」
何もかもができすぎていて、時々恐ろしいと思う部分もあるがそれでこそこのラデルと
いう悪魔なのだろう。さてと声を漏らしたガエタノは軽く伸びをして紅茶もそこそこに玄
関までゆっくりと歩き出した。
「長居をしてしまうと別れが辛くなるから、吾輩はそろそろお暇するとしよう」
「左様でございますか」
表情を変えずに軽く会釈をし、ガエタノを見送る。次に会うのは何年後になるか……。
「それでは、また会おう」
「お気をつけていってらっしゃいませ」
ガエタノはマントを翻すと同時にたくさんのコウモリに変身、その後弾けるようにして
消えた。
消えた後のつむじ風に余韻を感じながら、ラデルはまた後片付けを始める。そして、片
付けながらふと思った。見た目は悪魔だが、私はこの姿で本当によかったと思える。なぜ
なら人間では感じられない事、永年の付き合いのある友人と出会えたこと、そしてなによ
りこうして心を込めたおもてなしができることに。今の自分がいなければこうした経験は
できなかっただろう。そして、この経験ができたという時間はとても貴重だということ。
「私からも心から御礼申し上げます。ガエタノ様、ジョヴァンニ様」
誰もいないホールにラデルの独り言が響く。次に会うのは人間かそれとも……。それす
らも楽しみにしているラデルの顔に、暖かい光が突き刺さる。
時の経過も忘れてしまう程楽しんだパーティは静かに終わりを告げていた。眩しそうに
目を覆うその手から発せられた合図にて、その屋敷はまた闇を纏う。誰かと会う日まで。
完




