父と娘のものがたり
「お父様っ!待ってください!!」
すれ違ったお父様に意を決して声を掛ける。
声が震えているのが
自分でも分かって怖かった。
顔を向けたお父様に
わたくしは胸元に付けたブローチに手を添えた。
「誕生日プレゼント、ありがとうございます」
お父様は一瞬、驚いたように
目を見開くと真顔に戻った。
「……どうしてそれを?」
『まさか、レンがバラしたのか……』
お父様の声が重なっているように聞こえて
また首を傾げた。
わたくし、疲れているのかしら?
「レンが教えてくれたんです。
わざとではないようなので
怒らないであげてくださいね」
「いちいちそんなことで怒ったりしない」
ため息混じりのお父様にビクッとなる。
『私は臆病だな。娘に「おめでとう」の
ひとことすら言えないのか』
「え?」
『もうとっくに憎しみなど消えているのに
私はいつまで娘を避けている』
まさか、これはお父様の心の声?
『ソレイユ、すまない』
その想いに涙が溢れた。
お父様は、わたくしを許してくださっていた。
それどころか、謝ってくれた。
「どうした、ソレイユ」
お父様の青い瞳が揺れ動き、
肩に手が添えられた。
心配してくださっているのだと一目で分かる。
「お父様、最高の誕生日プレゼントを
ありがとうございます」
人生で1番の笑顔を見せると
お父様は固まった。
『やはり、アイリスに似ている。
今までは似ているからと避けてきた。
しかし』
「ソレイユ……今まですまなかった。
これからは毎年、お前の誕生日を共に
過ごそう。屋根裏部屋ではなく、
あたたかいリビングで」
『似ているからこそ、愛しく思えるのだな』
また、涙がジワリと滲み、
お父様に抱きついた。
お父様はしばらく硬直していたけど
慣れない手つきでわたくしを抱きしめてくれた。
お母様、わたくしを産んでくれてありがとう。
心の中でそう呟くとお母様の楽しそうな
笑い声が聞こえた気がした。
(終わり)




