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【50万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第322話 "銀の新星"を狙え!

───────────────────


地下会議室の空気は、酒と土と、閉じた場所特有の湿り気が混じったような匂いに満ちていた。


石造りの壁に囲まれたその部屋の中央には、傷だらけの長机が一つ。

その周りを囲むのは、ザキ、ギュスターヴ、ロール、ディオニスの四人だった。


机の上には簡易的なルセリアの地図と、明日の本戦ルールを書き写した紙束が広げられている。

蝋燭の火が揺れるたび、四人の影も壁の上で歪に揺れた。


その沈黙を最初に破ったのはザキだった。




「──試合開始直後、アルドくんに奇襲をかけたい? 本気で言うてんの? ギュスターヴくん」




驚いたような、呆れたような。

けれど声の芯には、明確な警戒があった。


対するギュスターヴは、石像みたいに無骨な顔をほとんど動かさず、短く答える。




「……そうダ」




その一言に、ザキは深々とため息をついた。


ロールは呪符の巻かれた目を伏せるようにして、二人のやり取りを心配そうに聞いている。

ディオニスはというと、椅子へ半ば寝そべるような姿勢で酒瓶を傾け、面白そうに口元を歪めていた。


ザキは机に肘をつき、指先でこめかみを押さえる。




「俺、言わんかったっけ? アルドくんは、ラグナと同等……下手したら、それ以上の危険人物なんやって」




それから、まっすぐギュスターヴを見た。




「友達になったから言うてるんちゃうで? プロの目線でも、アレは刺激したらアカンやつやねん。アンタッチャブルや」




言葉を選んでいるようでいて、実際はかなり強く止めていた。

ザキはもう、アルドを“真っ向勝負で勝てるかもしれない相手”の棚には置いていない。

触れていい怪物と、触れてはいけない怪物の区別くらいはついている。


だが、ギュスターヴは一歩も引かなかった。




「──お前に『ラグナを殺す』という目的があるのと同じク、俺にも目的があル」




低く、重い声だった。




「俺の目的ハ……“強欲の魔王”に滅ぼされタ、我が一族の復権。それだけダ」




その言葉が出た瞬間、部屋の空気がほんの少しだけ沈んだ。


ギュスターヴにとって、それは冗談でも、見栄でもなかった。

爬虫人(リザードマン)としての誇り。

失われた一族の名誉。

生き残った者としての執念。




「ジゼル・デル・エルディナスに手を貸すのモ、目的を果たす為の手段に過ぎなイ」




そこでディオニスが、酒瓶を口から離して愉快そうに笑った。




「第四とはいえ、エルディナの王子の後ろ盾でもありゃあ、爬虫人(リザードマン)が盛り返すのも難しかねぇかもな」




ギュスターヴがギロリと睨む。

だがディオニスは、まるで意に介した様子もない。


ギュスターヴは視線をザキへ戻し、さらに言葉を続けた。




「──その為には、必要なのダ……ジュラシエル……“凶竜”の名を持つ、彼女ガ……!」




言いながら、無骨な頬がぽっと赤く染まる。

そして何故か視線は斜め上へ。

その表情だけ妙に乙女めいていて、部屋の空気が一瞬だけ変な方向へ滑った。


ザキは、こめかみを引きつらせたまま、隣のロールへ小声で囁く。




「な、な。これギュスターヴくん、何言うてんの? 一族の復権と、惚れた女に付き纏うん、どういう関係あるん?」




ロールは困ったように小さく首を振った。




「さ、さあ……? 私にも分かりかねます……」




ザキは「やろなぁ……」みたいな顔で天井を仰ぎ、それから改めてギュスターヴへ向き直った。




「ギュスターヴくんの意見はわかっ……てはおらんけども、とにかく、アルドくんに手出しするんは悪手や。賛成はできひんよ」




今度の声は、さっきよりさらに真面目だった。




「アルドくんは──あれは、真っ向から戦ったらアカン存在や。ラグナと同じく、な」




ギュスターヴはその真剣な声色に、一瞬だけ押し黙った。


ザキが本気で言っていることは分かる。

分かった上で、それでも引けないのがギュスターヴだった。




「──貴様にも悲願があるだろウ」




爬虫類特有の縦長の瞳孔が、じっとザキを射抜く。




「これが、俺にとっての『それ』ダ」




それを言われると、ザキも強くは返せない。

彼自身、ラグナを殺すという目的のために、ここへいるのだから。




「それを言われると、なぁ……」




頭をかきながら、ザキは困ったように眉を寄せた。

重くなりかけた空気を破ったのは、ロールだった。




「ディオニスさん。いつまでもお酒ばかり飲んでいないで、貴方も何か意見を言ってみては?」




ザキも視線を向ける。




「ディオニスくん、君ぃはどう思う?」




ディオニスは空になりかけた酒瓶を逆さにし、最後の一滴まで口へ落とし込んだ。

ごくりと喉を鳴らして飲み下すと、にやっと笑う。




「俺だってよぉ、ラグナと同レベルの化け物とやり合うなんざゴメンだぜ」




そこまでは、いつもの軽口みたいな言い方だった。

だが、次に続いた言葉には妙に筋が通っていた。




「だがよ……条件によっちゃ、ギュスちゃんの案に乗るのもアリだと思うぜ?」




ギュスターヴが「ほウ……?」と目を見開く。

ザキも、少し楽しそうな顔になった。




「──聞かせてもらおか。君ぃの考える、条件ってのをな」




ディオニスは、空いた手で机の上の簡易地図を指差した。




「いいか? 本戦は予選上位チームからスタート位置を決めていくルールだ。俺たちは三位。ラグナたちと、“銀の新星(シルバーノヴァ)”のチームの後だ」


「だが、ヤツらは同率一位。同時にスタート位置を決める事になる。位置関係がどうなるかは、誰にも予想がつかねぇ」




ディオニスは一本指を立てる。




「俺らの目的は、“銀の新星”をラグナにぶつけて漁夫の利を狙う事だろ?」




そして二本目の指。




「ってことは、だ。“銀の新星”のスタート位置がラグナと近ければ、ヤツらが勝手に潰し合うのを期待して、俺らはほどほど離れた位置からスタートして静観」




三本目の指。




「もし、ラグナと“銀の新星”のスタート位置が離れてたなら……ちょっかいかけてラグナの位置まで誘導する、ってぇならアリじゃねぇか?」




しん、と一瞬だけ会議室が静まった。


ザキ、ロール、ギュスターヴの三人が、揃ってディオニスを見る。

その顔には「お前そんなこと考えられたんか」がそのまま浮かんでいた。


最初に口を開いたのはザキだ。




「ディオニスくん……君ぃ、やっぱり、ただのアル中やなかったんやね」




ディオニスは胸を張るでもなく、椅子にもたれたまま肩をすくめた。




「ったりめぇよ。酒は友、酒は叡智だぜ?」




そう言いながら、どこからともなく新しい酒瓶を取り出し、もう飲み始める。


ザキは静かに顎へ手をやった。

案そのものは、筋が通っている。

理屈だけで言えば悪くない。

問題は、その実行役だ。




「いや……だとしても、やはりギュスターヴくん一人でアルドくんに挑んで誘導する言うんは、危険過ぎる」




ギュスターヴはムッとした不満そうな顔をした。

だが、予選会で見たザキの実力を思い出したのか、そのまま言葉を飲み込む。


するとディオニスが、明るく割って入った。




「なーに言ってやがる」




そう言って、嫌がるギュスターヴの肩へ腕を回す。




「俺も付き合ってやるぜ、ギュスちゃんよ」



「離セ、酔っ払イ」



「いくら“銀の新星”が化け物だっつっても、二人がかりで行きゃあ、いざとなりゃなりふり構わず逃げるくらいは出来んだろ!」




ギュスターヴは鼻を鳴らした。




「フン……俺はおめおめと逃げ帰るつもりは無いガ……その策、乗ってやル」




ザキも、最後は渋々ながら頷く。




「そういう事なら……まあ、やってみる価値はありそうやね。ただ、アルドくんを本気で怒らせたらアカンで。マジで」




その忠告だけは、最後まで崩さなかった。

ディオニスはギュスターヴへ無理やり肩を組んだまま、けらけら笑う。




「任せとけ任せとけ! 俺とギュスちゃんのコンビの力は知ってんだろ? ホラ、予選会の時だって……」




そこまで言って、ふと口を止めた。




「──あん?」




ディオニスが眉をひそめる。




「なぁ、ギュスちゃんよ。俺ら……予選会でも、手を組んで強敵に立ち向かったよなぁ?」




ギュスターヴも、わずかに首を傾げた。




「……? 何を言っていル。そんな事、無かった……だろウ……?」




そう答えながらも、言葉の最後が少しだけ鈍る。

二人とも、何か引っかかっている。

記憶の中にぽっかり空いた穴のような、気味の悪い違和感。

だが、その正体には辿りつけない。


ザキは二人を見比べて首を傾げた。




「二人とも何言うてんの? まあええか。決まりやな」




そこで会議は、ひとまず形としてまとまった。

だが、まとまったのは作戦だけで、思惑までは揃っていない。


ザキは内心で、小さく息を吐く。




(アルドくんには、ちょっと申し訳ないけども……)




だが彼の中で優先順位は決まっている。




(ラグナを確実に殺すためや。アルドくんには、ラグナとぶつかって、少なくとも隙を作ってもろう)




ギュスターヴはまた別のことを考えていた。




(“凶竜”ジュラシエルが惚れ込んだ男、アルド・ラクシズ……その力、直接この目で見極める)




爬虫類じみた横顔に、妙な熱がこもる。




(あわよくば、俺がヤツを倒し……ジュラシエルの心を、俺に向けさせる……!)




やっぱり理屈がおかしいが、本人の中では繋がっているのだから仕方ない。


ディオニスはそんな二人を横目で見ながら、酒瓶の口元を指で弾いた。




(コイツらは、この“統覇戦”そのものを目的としてねぇ)




口元がにやりと吊り上がる。




(だが、俺の目的はまた別にある……“統覇戦”そのものの優勝だって、諦めちゃいねぇぜ)




彼の視界には、ラグナも、アルドも、全部“勝つための障害”として映っている。




(隙がありゃ、ラグナも“銀の新星”も食っちまって、優勝を掻っ攫ってやるぜ)




ロールはそんな三人の様子を、何も言わずに見つめていた。

呪符に覆われた目は表情を隠しているけれど、空気の揺れだけで分かる。

彼女は少しだけ、不安そうだった。


かくして、それぞれの思惑が交差するザキチームの作戦は成立した。




───────────────────




現在。


鏡像領域、第一領域。

フォルティア街道沿いの商店街を見下ろす建物の屋上。


ディオニスとギュスターヴは、石造りの屋根の縁に立ち、下を歩く一人の少年を見下ろしていた。


銀色の髪。

気の抜けたような歩き方。

観光気分みたいに、きょろきょろと街並みを見回している。


アルド・ラクシズ。


ディオニスは酒瓶を傾けながら、ニッと笑った。




「……ったく。思いっきりラグナと逆方向のスタート地点を選んでくれちゃってよぉ」




ごくり、と喉を鳴らす。




「こりゃ、俺たちが誘導してやらなきゃなぁ」




ギュスターヴは黙ってアルドを見据えていた。

その片手では巨大な金棒が軽々と回されている。

金属の塊が唸りを上げながらくるくると回る様は、普通の人間が見ればそれだけで怖気づくはずだ。


だが、ギュスターヴの意識はその武器よりも、目の前の銀色の少年へ向いていた。




「──その前ニ」




低く呟く。




「ヤツの力……俺が見定めてやル……!」




そう言って、くるくると回していた金棒を肩へ担いだ。

ディオニスは横目でその様子を見て、口の端を上げる。




「祭りの前座にしちゃあ、随分豪華だな」



「前座では無イ。本番ダ。俺にとっては──ナ」



「はいはい。じゃ、派手にいこうぜ、ギュスちゃん」




二人は目配せを交わす。


次の瞬間。


屋上の縁を蹴り、商店街の通りへ向かって一気に飛び降りた。


その先にいる銀色の少年が、自分たちの想定を遥かに超えた怪物だと、この時の彼らはまだ知らなかった。

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