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【50万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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292話 幼馴染と、衝撃の事実

悠天環を模した亜空間は、相変わらず気持ちがいい。


雲ひとつない青空の下、浮島の縁から吹き抜ける風が、草の匂いを運んでくる。

さっきまで山が吹き飛ぶだの、時間が止まるだの、物騒なことをしていたのが嘘みたいだ。


俺は土魔法でササッと作ったテーブルと椅子を見下ろしながら、満足げに頷いた。

うん、即席にしては悪くない出来だ。

そのテーブルの向こう側で、ルシア──いや、グルーシャは、椅子に腰掛けたまま、ぼんやりと空を眺めている。


眠たげな目。

力の抜けた姿勢。

戦闘中とまるで別人だ。


ああ、これこれ。

このボーッとした感じ。

悠天環にいた頃の、いつものグルーシャ。


俺は背中を向け、簡易キッチン代わりに作った魔法の作業台へ向かう。

どんぶりを二つ並べ、湯気を立てる鍋から麺をすくい上げる。




「よっと……天空落とし!!」




網を振る。中⚪︎屋スタイルだ。

チャッチャッチャッ、と軽快な音を立てて湯切りをするたび、麺がきらりと光を反射する。

スープを注ぎ、具を乗せて、完成。

俺はどんぶりを一つ手に取ると、振り返ってニッと笑った。




「ヘイお待ち!」




勢いよく、ドン、とテーブルに置く。

グルーシャの前に置かれたどんぶりから、立ち上る湯気。

醤油と脂の香りが、青空の下にふわりと広がった。

俺も自分の分を置いて、向かいに腰掛ける。


グルーシャは、どんぶりをじっと見下ろしている。

しばらく無言。

そして、小さく呟いた。




「……なにこれ」




俺は肩をすくめて笑う。




「いやー、久々の再会を祝して、俺からの奢りだよ!食べて食べて」




彼女は一度だけ俺の顔を見てから、またどんぶりに視線を落とす。

しばしの沈黙の後、静かに手を合わせた。




「……いただきます」




箸を取り、麺を持ち上げる。


ズルル……


音を立てて、麺を啜る。


そして──


一口目の途中で、カッ!と目が見開かれた。


……お?


次の瞬間、グルーシャは無言のまま、ズルル、ズルルと勢いよく麺を啜り始める。

間も置かず、スープを含み、また麺。

箸が止まらない。




「……」




俺は思わず、その様子をじっと見つめてしまった。


よしよし。

気に入ったみたいで、よかった。


内心でそんなことを思いながら、うんうんと一人で頷く。


俺も箸を取り、自分のラーメンを啜った。

懐かしい味。

地上で覚えた、俺なりの一杯だ。


しばらく、麺を啜る音だけが、青空の下に響く。

やがて俺は、ふっと息を吐いて、何気ない調子で口を開いた。




「色々聞きたい事はあるけどさ」




グルーシャの向かいで、箸を動かしながら言う。




「グルーシャ、いつからこっち──地上に降りて来てたの?」




彼女は麺を啜りながら、ほんの一瞬だけ考える素振りを見せてから、ぽつりと答えた。




「……人間の(こよみ)で、半年くらい前」



「へぇー」




俺は感心したように声を上げる。




「結構前からいたんだねぇ。それにしても、グルーシャも人間変化の魔法が使えたなんて、ビックリだよ」




そう言って、呑気にスープを啜る。

その時だった。

グルーシャの箸が、ピタリと止まった。

空気が、わずかに変わる。

彼女は視線をどんぶりに落としたまま、淡々と告げた。




「……わたしが人間変化の魔法を使えるのは、主にアルドのせい」



「えっ?」




思わず声が裏返る。




「俺?」




グルーシャは顔を上げず、そのまま言葉を続ける。




「アルドが星降りの宝庫で魔法を勉強してる時……何か疑問に思うたび」




箸先で麺を持ち上げながら、静かに。




「『ねぇ、グルーシャ。これ、どう言う事だと思う?』って、いちいち聞いてきた」



「……」




あ、あー……。

俺は視線を逸らし、頭を掻く。




「そ、そんな事も……あったかもねー……」




冷や汗が一筋、背中を流れた。

グルーシャは再び麺を啜りながら、淡々と続ける。




「そのせいで、わたしも、いくつかの人間の魔法を覚えちゃってた。だから、人間にも簡単に変身できた」




ズルル、と音を立てながら、実に事も無げに。


……言われてみれば。

悠天環にいた頃、他の真祖竜は、話しかけても返事すら返さず、ただぼーっとしてるやつばかりだった。

ただのしかばねかな?ってくらい、返事が無かったのよ。

その中で、唯一、言葉が通じたのがグルーシャだった。


彼女も基本的には、ずっとぼーっとしてたけど。

でも、話しかければ、ちゃんと反応はしてくれた。

だから俺は、何かあるたびに、彼女に話しかけていたんだ。


……無自覚に。


思い出して、胸の奥がちくりと痛んだ。




「ご、ごめんね……!」




俺は思わず、そう言っていた。

すると、グルーシャは少しだけ顔を上げて、俺を見た。

相変わらず淡々とした表情。

でも、声は──ほんの少しだけ、柔らかい。




「いい。別に、嫌ではなかったし」




その一言に、俺は少しだけ目を見開いてから、ふっと笑った。




「……なら、よかったよ」




それだけ言って、俺はまたラーメンを啜る。


ズルル。


青空の下。戦いの後。

幼馴染と並んで、ラーメンを食う。


……悪くない時間だ。




 ◇◆◇




ラーメンを半分ほど平らげたところで、俺はふと思った疑問を口にした。




「……っていうかさ」




箸でどんぶりの縁を軽く叩きながら、何でもない調子を装う。




「そもそも、なんでグルーシャが大学にいるの?」




グルーシャ──今はルシアとして人間の姿をしている彼女は、黙々と麺を啜っている。




「しかもさ、ラグナのチームに入って“統覇戦(ドミナンス・カップ)”にまで出てるなんて、正直ビックリなんだけど」




俺は肩をすくめた。




「まあ、俺も他人のこと言えないけどさー。グルーシャも、地上を見てまわりたくなって、悠天環を抜け出して来ちゃったの?」




その言葉に、グルーシャの箸がピタリと止まった。

湯気だけが、静かに立ち上る。


一瞬。いや、ほんの数秒かもしれない。

でも、その沈黙は、やけに重かった。


やがて彼女は、箸を持ったまま、静かにラーメンを啜る。


ズルル……


そして、淡々と答えた。




「……わたしが大学に通ってるのも、ラグナのチームに入ったのも」




眠たげな目が、一瞬だけ、鋭く光った気がした。




「“真祖竜”としての仕事の一環」




──その瞬間。

俺の手が、完全に止まった。

箸を持ったまま、固まる。


……あ。


そうだ。

久々の再会で、すっかり浮かれて忘れてたけど。

グルーシャ……さっきまで、俺にガチで殴りかかってきてたんだった。


面倒くさがりの極みみたいなグルーシャが。

理由もなく、あんな手間のかかることをするわけがない。

脳内で、嫌な想像が一気に膨らむ。


えっ……?やっぱり、真祖竜の上層部とかが、


「アイツ、宝めちゃくちゃ盗んでったし、"七大怠惰戒律セブン・スロウス・コード"も破りまくってるし、数え役満(やくまん)で死刑!」


みたいな感じで……俺を消すために刺客を差し向けてきた、とか……?




背中に、じわりと汗が滲む。


俺が無言で固まっているのを、グルーシャはじっと見つめていた。

眠たげな目が、じっと俺の顔を捉える。


そして、ぽつり。




「……別に、アルドが“星降りの宝庫”から持ってったお宝については」




ズルル、と一口啜ってから、続ける。




「悠天環の誰も気にしてない。というか……たぶん、気づいてもいない」



「……」




一瞬、時が止まった。




(あっぶねぇぇぇぇ〜……!!)




心の中で、全力で叫ぶ。




(真祖竜が怠け者一族で助かったぁ〜……!!)




俺は大きく息を吐き、胸を撫で下ろした。

危なかった。

冷静に考えたら、あの宝物庫、誰も管理してなかったもんな……。鍵もかかってなかったし。


だが、安堵したのも束の間。




「……えっ?」




俺は顔を上げた。




「それじゃ、グルーシャは、何で俺に殴りかかって来たの?」




素朴な疑問。

本当に、それだけだ。

グルーシャは静かに箸を置き、どんぶりをテーブルの上に戻した。

湯気が、ふわりと上がる。




「それは……」




一瞬だけ視線を伏せてから、静かに言う。




「確認するため」



「確認?」




俺は眉をひそめた。




「何を?」




グルーシャは顔を上げ、真っ直ぐに俺を見た。

その目には、さっきまでの眠たげな色はない。

真剣な眼差し。




「……それは、まだ言えない」




そう前置きしてから、はっきりと言った。




「そういう“命令”だから」



(言えない……?)




俺は内心で首を傾げる。




(守秘義務がある仕事、とか?

真祖竜にも、そういうのあるんだな……)




勝手に納得しつつ、口に出す。




「というか、命令って……誰からの?」




その問いに、グルーシャは一瞬だけ、空を見上げた。

そして、静かに告げる。




「……悠天環の女王」




その言葉だけで、空気が変わった。




「真祖竜の頂点に立つ、原初の竜」




彼女は、淡々と、しかし確かな敬意を込めて名を告げる。




「──“聖妣竜(せいひりゅう)”マーテラクシア様」




うわぁ。

名前からして、もう伝説感がすごい。




(マーテラクシア……この世界のマスタードラゴン的な存在なのかな……?)




俺は、悠天環にいた巨大な成竜たちを思い出す。

ただでさえデカいのに、基本的に誰も動かず、喋らず、存在感だけが圧倒的だったあの連中。


……あの中に、いたのかな。

マーテラクシア様。


そんなことを考えつつ、俺は首を傾げた。




「でもさ」




箸を持ち直しながら言う。




「なんでグルーシャが、そのマーテラクシア様からお使い……というか、仕事を任される事になったの?」


「俺と同期(?)だしさ。グルーシャも、真祖竜界の中では、めちゃくちゃ若手だよね?」




すると、グルーシャはあっさり言った。




「それは……人に変身する魔法を覚えてたのが、私だけだったから」



「……」




俺は、言葉を失った。




(あー……)




脳裏に浮かぶのは、星降りの宝庫での記憶。

俺が魔法書を広げては、いちいち横にいたグルーシャに質問していた光景。




(俺に付き合って魔法覚えちゃってたから、逆に、真祖竜の中では異端みたいになっちゃったのかも……)




胸の奥で、ちくりとしたものが走る。




(なんか……ごめん!)




内心で、深く謝った。

グルーシャを見つめながら、俺は思う。




(グルーシャも、頑張ってるんだなぁ……それにしても……)




究極の面倒臭がり種族である真祖竜たちが、

わざわざ使いを出してまで、人間界でしなきゃならない仕事。

しかも、その途中で、俺を殴りに来る必要がある仕事。


……結局、理由はよく分からない。


俺は少し考えてから、肩をすくめた。




(ま、いっか)




真祖竜たちの考える事なんて、どうせ分かんないし。


今は──

久しぶりに会えた幼馴染との再会を、素直に喜べばいい。


俺は、そう結論づけて、再びラーメンを啜った。


ズルル……


温かいスープが、妙に沁みた。




 ◇◆◇




はー……と、思わず深いため息が漏れた。


ラーメンの湯気が、青空に向かってふわりと溶けていく。

俺はどんぶりを両手で持ち、気の抜けた調子でズルズルと麺を啜りながら言った。




「しかし……」




啜る音の合間に、ぼんやりとした独り言みたいに。




「真祖竜に女王なんて、いたんだねぇ……」




スープを一口飲み、遠くの空島の縁を眺める。




「悠天環の大人の真祖竜達ってさ、基本的に誰も何も喋らないし、ただジッとしてるだけで、ほとんど動きもしないじゃん?」




思い出すのは、あの光景だ。

巨大な成竜たちが、空に浮かぶ大地の上で、ただそこに“在る”だけの姿。




「正直、そんな人……いや、竜? がいるなんて、全然知らなかったよ」




本当に、心の底からの感想だった。

ズルズル〜ッと、もう一度勢いよく麺を啜る。

その、次の瞬間。




「知らなかった?」




向かいから、あまりにも何でもない声が飛んできた。




「アルドのお母さんなのに」



「へぇ〜……俺のお母さんなの……」




反射的に相槌を打ちかけて──


ブーーーーッ!!!!


盛大な音と共に、口の中のラーメンが噴き出した。




「!?」




視界の端で、ルシアがサッ!と素早く動く。

まるで戦闘中の回避行動みたいな切れ味で、自分のどんぶりを横へスライドさせた。


セーフ。完全にセーフ。

俺はアウトだけど。


吹き出したスープと麺は、テーブル上に盛大に散らばっただけだった。




「ゲホッ! ゴホッ!!」




俺は前屈みになり、鼻から麺を垂らしながら激しくむせる。




「おっ……お母さん!?!?!?」




涙目で顔を上げ、叫ぶ。




「俺の!? お母さんなの!?

真祖竜の女王が!?!?」




混乱。完全なる混乱。

心臓がバクバクと暴れ、頭の中が真っ白になる。


対するルシアは、相変わらずだった。

無表情。落ち着き払いすぎていて、逆に怖い。




「うん」




アッサリとした一言。




「アルドのお母さん」




まるで、「箸、落ちてるよ」くらいのテンションで言われた気がする。

俺は、その場で固まった。


……。


…………。


………………。


数秒。

いや、十秒くらいは、そのままフリーズしていたと思う。


脳内で、今までの情報が、ガラガラと音を立てて組み替わっていく。


真祖竜。

悠天環。

女王。

原初の竜。

聖妣竜マーテラクシア。


そして、その息子、俺。




「……えっ?」




ようやく、声が出た。




「えっ!?!?じゃあ俺……」




ゴクリ、と喉が鳴る。




「俺、真祖竜の……王子様だったの!?!?」




自分でも信じられない叫びだった。


だって、俺が?

地上でカレー作って、ラーメン作って、犬の散歩して、大学に通って、二股のオロチとか不名誉なあだ名付けられてた、この俺が?


ルシアは、そんな俺をじっと見てから、あっさりと頷いた。




「そう。」




それだけ。

世界が、音を立ててひっくり返った。

俺は鼻から垂れた麺を指でつまんで引き抜きながら、呆然と呟く。




「えっ……なんで俺は今までそれ知らなかったの?」



「……さぁ。」




真祖竜の王子。

いや、聖妣竜マーテラクシアの息子。


この事実が、これから何を引き寄せるのか。

この時の俺は、まだ知らなかった。


ただ一つ確かなのは──

平穏な学園生活が、また一歩、遠ざかったってことだけだった。

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― 新着の感想 ―
そういうこと てっきり怠け者一族で唯一訓練してたから普通より強いのかと思ってたけど、血筋だったのか〜
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