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【45万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第276話 戦いの観測者達、伝播する混沌

競技場の上空には、無数の水晶球が星座のように浮かんでいた。


ひとつひとつが“覗き窓”だ。

迷宮のどこかで戦う挑戦者たちの姿を映し出し、観客に今この瞬間のドラマを見せつける。


ある水晶球では、爬虫亜人のギュスターヴが金棒を振り下ろし、ジュラ姉がヒールの踵でそれを迎え撃つ。

金属と魔力が激突した瞬間、火花のような光が弾け、観客席から「うおっ!」と短い歓声が上がった。


また別の球では、鬼塚とディオニスがほとんど鼻先が触れる距離で殴り合っている。

拳の軌道は泥臭く、血と汗が飛び散る。

防御も駆け引きも何もない。意地と意地のぶつかり合いだ。

「いけぇぇ!」と叫ぶ声も、「危ないっ!」と息を呑む声も、そこかしこから湧く。


──本来なら、それだけでこの競技場は十分に沸き続けるはずだった。


だが。


観客の視線は、いつの間にか、一つの水晶球へと吸い寄せられていた。


最初は数人だった。

次に十人。百人。

波紋が広がるように、首の向きが揃っていく。

気づけば、スタンド全体が同じ方向を向いていた。


そこに映っているのは──

金の超星(ゴールデン・スター)”ラグナ・ゼタ・エルディナス。

そして、“銀の新星(シルバー・ノヴァ)”アルド・ラクシズ。


二人の戦いは、戦闘という言葉の形を逸脱(いつだつ)していた。


湖面の上を走る銀の残像。

空を切り裂く金の軌跡。

ぶつかるたびに空気が震え、水面が歪み、瓦礫が踊る。

音が遅れて届くほどの速度──にもかかわらず、水晶球は冷酷なまでに克明(こくめい)にそれを映していた。


観客席は、しん……と静まり返っていた。


歓声がない。野次もない。拍手もない。


ただ、息をする音だけが、巨大なスタンドに薄く満ちる。

誰も、喉から声が出ないのだ。

理解が追いつかない。いや、それ以前に、“見ているという実感”が遅れて追いかけてくる。


瞬きすら惜しい。

目を逸らせば、その一瞬で“何か決定的なもの”を見逃してしまう──そんな感覚が、観客を縛りつけていた。


金が、銀へ迫る。

銀が、金の死角へ滑り込む。

ぶつかり、弾け、また交差する。

二つの星が衝突し、火花を散らすような──それは、どこか神話めいていた。


その静寂の中で。

誰かが、ぽつりと呟いた。




「…………す……すげぇ………」




声は掠れていた。

喉が乾き切った人間が、ようやく吐き出した息のように。


だが、その一言が──引き金になった。


次の瞬間。




「うおおおおおおおおおおおッ!!」




競技場が、割れんばかりの歓声に包まれた。

さっきまで抑え込まれていた空気が、一気に解き放たれる。

怒号、歓喜、驚愕、笑い、叫び──すべてが混ざり合い、巨大なスタンドが一つの生き物みたいに震えた。




「何だこの戦い!?」


「こんなの見た事ないわ!!」


「凄いなんてもんじゃねぇ!!まるで──神話の戦いだッ!!」


「ラグナ殿下も!転入生のアルド・ラクシズも!めちゃくちゃ凄ェ!!」




声が声を呼び、波が波を押し上げる。

観客席は、もはや戦いを“見ている”だけではなく、“共有している”。

心臓が同じリズムで跳ねるような熱狂が、スタンド全体を染めていった。


その熱狂の少し外側──

特別席の一角で、リュナはポップコーンの容器を膝に置き、満足げにニッと笑っていた。


口角が上がる。目が細くなる。

それは誇らしさと、どこか子供っぽい意地の混ざった表情だった。




「──ようやく、時代が兄さんに追いついてきたみてーっすね」




周囲の歓声に紛れても、リュナの声は不思議と通る。

彼女は胸を張り、親指で自分を指すようにして、さらに続けた。




「だけど……兄さんの第二婦人の座は、誰にも譲らねーけどな!!」




言い切った瞬間、隣のヴァレンが吹き出しそうになる。

しかしリュナは気にしない。

“宣言”は、リュナにとって冗談でありながら、冗談で終わらない。

自分の立ち位置を、笑いながら守る強さがある。


そして、彼女はほんの一瞬だけ視線をずらした。

水晶球の中──金の輝き。ラグナだ。

その姿を見て、軽く唇を尖らせるように、ぽつり。




「でも、まあ──」




一拍置いて、素直に認める。




「やるじゃん。あの王子サマも」




言葉は短い。

けれどその短さが、評価の確かさを示していた。

敵だろうと、鼻につく相手だろうと、“凄いものは凄い”と言える。

そこに、リュナという少女の器がある。


その隣。


ヴァレン・グランツは、頬杖をつきながら水晶球を眺めていた。


笑っている。ほんの薄い笑みだ。

だがその目は、観客席の誰よりも落ち着いているようにも見えた。




「おいおい……ラグナ第六王子」




低く呟く声は、どこか愉快そうで、どこか警戒を含んでいる。




「いくら力をセーブしてるとはいえ……相棒にここまで喰らいつくかい。こりゃ、皆が沸くのも無理ないって話だろ」




水晶球の中で、銀が閃く。

アルドが、ほんの一瞬だけ笑ったように見えた。


ヴァレンは、その表情を見逃さなかった。




「──楽しそうな顔しちゃって」




その言葉は、責める声ではない。

むしろ、確かめるように。

そして、ほんの少しだけ寂しげに。




「ちょっと、妬けちゃうねぇ……」




冗談めかして言いながらも、ヴァレンの視線は柔らかい。

力を持て余した者が“戦いの中でしか出せない顔”があることを、彼は知っている。

それを誰かが楽しげに見せているとき、置いていかれたような気持ちになるのも──分かっている。


だが。


ヴァレンの目が、すうっと細くなった。


笑みが消える。

頬杖をついていた指先が、わずかに止まる。




(……ん?)




水晶球の中。

ラグナの周囲に渦巻く魔力は、金色だ。

眩しく、まっすぐで、王子らしい煌めき。


──だが、さっきまで。


その金に、僅かに“黒”が混ざって見えていた。

糸のように細い、濁りの筋。

気づかぬ者は気づかない。

気づこうとしない者も、気づかない。


ヴァレンは、そこを見ていた。




(……黒い魔力が……)




目の奥で、何かが引っかかる。




(……消えかけてる……?)




戦いの中で、ラグナの魔力が研ぎ澄まされているのか。

それとも、別の何かが──剥がれ落ちているのか。




(どういう事だ……?)




歓声が渦巻く中で、ヴァレンだけが静かだった。

周囲の熱狂に乗りながらも、その“違和感”を見逃さない。


水晶球の中では、金と銀がまた衝突する。

空気が裂けるような音。

観客席がさらに沸く。


だがヴァレンの視線は、戦いの派手さではなく──

その奥で起きている、目に見えない“変化”を追っていた。


歓声の中で、誰にも聞こえないほど小さく、ヴァレンは息を吐く。




「──この"統覇戦(ドミナンス・カップ)"の裏で……一体、何が起こってるんだ……?」




その呟きは、笑いの形をしていなかった。




───────────────────




ダンジョン・サバイバルの予選会場、その一角。


すでに敗北し、挑戦者としての資格を失った者たちが集められた観覧区画でも、無数の水晶球が宙に浮かんでいた。

そこに映し出されるのは、自分たちが脱落するまでに見てきた戦いの“続き”──そして、もはや同じ舞台に立つことすら叶わない領域の光景だった。


誰も、喋らない。

歓声もない。

ただ、息を潜めるように、水晶球を見つめている。


そこに映る二つの影。

金と銀が、互いを喰らい合うように激突し、離れ、またぶつかる。


速度は常識を逸脱していた。

動きは、技術や魔法という言葉では括れない。

──それは、“到達者”同士の衝突だった。


ラグナ・ゼタ・エルディナス。

アルド・ラクシズ。


その戦いを、脱落者たちは、まるで“別の世界の出来事”を見るような目で眺めていた。


セドリック・ノエリアに敗れ脱落した挑戦者、グレゴール・ゲインは、水晶球の前で、両腕を組んだまま固まっていた。


額には汗が滲み、奥歯が、ぎり、と鳴る。

自分でも気づかぬうちに、呼吸が浅くなっていた。




(──俺様は……)




胸の奥で、言葉にならない感情が蠢く。




(……俺は……井の中の蛙だったってのか……)




かつては、自分の力を疑ったことなどなかった。

強い。誰よりも上だ。自分こそが、"神聖騎士団(セイクリッド・ナイト)"の一員になるに相応しい、天才だ。

そう信じて疑わなかった。


だが、今、水晶球の向こうで繰り広げられている光景は──

その自信を、粉砕するには十分すぎた。




(こんな……こんな領域……)




指先が、わずかに震える。




(俺なんかじゃ……辿り着ける訳が、ない……)




拳を握りしめる。

爪が掌に食い込む感覚すら、どこか遠い。




(どうしてだ……)




問いが、心に浮かぶ。




(アイツらと俺……どうして、こんなにも差があるんだ……)




その瞬間だった。

グレゴールの足元に、ほんの僅か、影のようなものが揺らいだ。

黒い煙のようで、霧のようで、確かに“そこにある”のに、誰の視界にも引っかからないほど淡い。


それは、感情の残滓だった。


──"嫉妬"。


グレゴール自身ですら、それを“魔力”として認識していない。

ただ、胸の奥が、どす黒く、重くなっていくだけだ。



同じ空間に、似た沈黙をまとった男がいた。


ザイード・ジュナザーン。


彼は背筋を伸ばしたまま、水晶球を見据えていた。

姿勢だけ見れば、相変わらずの高貴さを保っている。

だが、その内側では──何かが、音を立てて崩れていた。




(──何が、“優勝候補第3位”だ……)




自嘲にも似た思考が、静かに胸を締め付ける。




(余と、あの二名との間には……)




水晶球の中で、アルドが一瞬で距離を詰め、ラグナの攻撃を紙一重で捌く。




(……天と地程に離れた差がある……)




自覚してしまった瞬間、誇りは、ただの重荷に変わる。




(余の力は……)




喉が、ひくりと鳴る。




(……決して、彼奴らには届かぬ……)




視線を逸らしたい。

だが、逸らせない。




(ああ……妬ましい……)




拳を握る。

力が入りすぎて、関節が軋む。


その足元にもまた、淡い黒の靄が、ゆらりと立ち上った。

誰にも気づかれぬほど微弱で、しかし確かに存在するもの。


そして──それは、二人だけではなかった。


脱落者たち。

自分の限界を知ってしまった者たち。

夢を打ち砕かれた者たち。


水晶球を見つめる視線の奥には、程度の差こそあれ、同じ感情が渦巻いている。


──悔しさ。

──劣等感。

──焦燥。

──そして、嫉妬。


それらが折り重なり、黒いモヤとなって、少しずつ、少しずつ、彼らの周囲にまとわりついていく。


その数は、百を超え、二百を超え、やがて──

脱落者のほとんど、四百人近くにまで及んでいた。


だが。


誰一人として、それに気づかない。


見えないのだ。

見ようともしないのだ。

彼らの意識は、ただ一つの水晶球に縛られている。



そんな中。


ただ一人だけ、まったく違う空気をまとっている者がいた。


ビビアーナ・ロカ。


彼女は、口を半開きにしたまま、水晶球に映る戦いに見入っていた。

瞬きすら、忘れている。




「ラグナ様……」




蕩けたような声が、ぽろりと零れる。




「……かっちょいいのねぇ〜〜……」




口の端から、つーっと何かが垂れた。

本人はまったく気にしていない。


その視線は、金色の軌跡を描く王子に釘付けだ。

風を従え、炎を操り、空を舞うその姿に、ただただ見惚れている。


だが、次の瞬間。

銀の残像が、画面を切り裂く。

アルドが、信じられない速度で距離を詰め、ラグナを体術で追い込んでいく。

ビビアーナの喉が、ごくり、と鳴った。




「……アルド・ラクシズ……」




呟きは、少しだけ慎重になる。




「ブリジットのチームメンバーの……最後の一人……」




その動き。踏み込み。跳躍。

空中での軌道修正。




「あ、あんな動き……」




目を見開く。




「魔獣でも……見た事、無いのねぇ……」




唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。

その瞬間、ふと、胸の奥で何かが腑に落ちる。




(そして……)




ビビアーナは、そっと目を細める。




(……きっと、アイツが……)




水晶球の中で、アルドとラグナが一瞬だけ距離を取り、互いを見据える。

二人の顔が、同時にアップで映し出される。


その口元。

ほんの僅かに浮かぶ、笑み。




「……二人とも……」




思わず、声が漏れた。




「……素敵だねぇ」




次の瞬間、ビビアーナはハッとしたように首を振る。ぷるぷると、勢いよく。




(あ、あたし、何言ってるのねぇ!?)




だが、すぐに、ふっと小さく笑った。

胸の奥が、少しだけ温かくなる。



(これは……ブリジットが好きになるのも……無理ないのねぇ)




水晶球の中では、再び金と銀が激突する。

ビビアーナは両手をぎゅっと合わせた。

祈るように、願うように。




「でも……」




視線は、やはり金色を追っている。




「……やっぱりアタシは……」




きっぱりと。




「ラグナ殿下を応援するのよッ!」




その声には、嫉妬も、憎しみもない。

ただ、純粋な“想い”だけがあった。


黒いモヤは、ビビアーナの周囲には、立ち上らなかった。


それが意味するものを──

この時、まだ誰も知らない。


だが確かに。


同じ戦いを見ていても、同じ“凄まじさ”を前にしても、人の心が辿る道は──決して一つではなかった。




───────────────────




ダンジョン・サバイバル最奥──地下50階層。


そこは、現実と夢の境界が曖昧になったような空間だった。

柔らかく、甘ったるい色彩で塗り固められた壁面。

不規則に歪む床。

星屑のような光の粒子が、意味もなく宙を漂っている。


可愛らしい。

だが同時に、どこか息苦しい。

長く見ていれば、心の奥をじわじわと侵食されていくような──悪夢めいた場所。


その空間に、数え切れないほどの水晶球が浮かんでいた。

大小さまざまなそれらは、ゆっくりと回転しながら、それぞれ別の光景を映し出している。


戦う生徒たち。倒れた挑戦者。

歓声に包まれる競技場。


そして、その中心に、ぽつんと置かれた、あまりにも場違いな玉座。


丸みを帯びたフォルム。パステルカラーで彩られた背もたれ。星やリボンを模した装飾が、過剰なほど施されている。


そこに腰掛けているのは──

マリーダ・フォン教授。


外見は、絵本から飛び出してきたかのような“魔法少女”だった。

大きな帽子に、ふわりと広がる衣装。

しかし、その奥に宿る眼光は、長い年月を生きた者のそれだ。


今、そのマリーダは、一つの水晶球を見つめたまま、わなわなと震えていた。




「……バカな……」




声が、掠れる。




「……バカな、バカな、バカな、バカなっ!!」




水晶球の中では、金と銀が交錯している。

ラグナとアルド。

もはや“学生同士の戦い”という枠を完全に逸脱した、超音速の衝突。


マリーダの喉が、ひくりと鳴る。




「制限時間までは……まだ、まだ1時間以上あるというのに……」




玉座の肘掛けを、ぎゅっと掴む。




「もう、49階層まで来ている、じゃと……!?」




声が、甲高く跳ね上がった。




「ラグナ殿下は……まだ、よい……!」




歯噛みするように、唇を引き結ぶ。




「だが……最初の到達者が……」




視線が、水晶球の中の銀色の影を捉える。




「……アルド・ラクシズ……」




吐き捨てるように。




「あの、憎き“色欲の魔王”の使徒じゃと……ッ!?」




ドンッ!!


マリーダは玉座の手すりを叩いた。

その衝撃で、大きな帽子がぐらりと揺れる。


水晶球の中では、ラグナが後退し、アルドが間合いを詰めている。

一瞬の判断ミスが、致命傷になりかねない速度。

マリーダの表情が、歪んだ。




「ヴァレン・グランツ……!」




名前を呼ぶ声には、明確な怨嗟(えんさ)が込められている。唇が、震える。




「かつて……ワシから……愛しい人を奪った(・・・・・・・・)……憎き魔王……!」




その指先が、水晶球に向けられる。

マリーダは、ぎり、と歯を食いしばる。




「その使徒が……またしても、ワシの推しであるラグナ殿下を……ッッ!!」




水晶球の中で、アルドの一撃が障壁を削る。

ラグナが歯を食いしばり、耐える。

マリーダの呼吸が、荒くなる。




「それに……」




声が、次第に低くなる。




「……何なのだ……?」




視線が、鋭く細められた。




「……こやつの、底知れぬ力は……ッ!?」




マリーダは、両手を広げる。

声に、誇りと執着が混じる。




「ワシの……ワシが生涯をかけて研鑽(けんさん)してきた……”迷宮組曲(ラビュリントス)”……!」




ゆっくりと、その名を口にした。

空間が、かすかに脈動する。




「……その規律(ルール)ですら……縛りきれん程の……ッ!?」




指先が、震えながら下がる。

信じられないものを見る目だった。


自分が創り上げた“世界”。

その支配者であるはずの自分。

そのすべてを、無造作に踏み越えていく若者たち。


胸の奥に、どす黒い感情が芽吹く。


それは──怒りではない。

恐怖でもない。


もっと醜く、もっと粘ついた感情。


──"嫉妬"。


マリーダ自身、それを認めることはない。

だが、感情は正直だった。


彼女の足元から、ゆらり、と黒いモヤが立ち上がる。

煙のようで、霧のようで、しかし確かな“魔力”。

それは、ゆっくりと彼女の周囲を取り巻き始めた。




「……っ」




その瞬間。

マリーダの身体が、ぴくりと震えた。

まるで、何かに触れられたかのように。




「……?」




彼女は、別の水晶球へと視線を移す。

先ほどまで、意識にも留めていなかった、小さな水晶球。


そこに映っていた光景を見た瞬間──

マリーダの目が、大きく見開かれた。




「……なんじゃと……?」




声が、裏返る。




「49階層への到達者が……」




ごくり、と唾を飲み込む音が、やけに大きく響く。




「……もう一人……いる……!?」




玉座の周囲で漂っていた黒いモヤが、一瞬、ざわりと揺れた。

マリーダは、水晶球を凝視したまま、動けずにいた。


計算外。想定外。

想像すらしていなかった“三つ目の異常”。


ダンジョン・サバイバルは、まだ終わっていない。


そして──

混沌は、さらに深く、静かに、広がり始めていた。

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