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【45万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第275話 アルド vs. ラグナ(2戦目)① ──交差する銀と金──

ラグナ・ゼタ・エルディナスは、白い橋の上空でふわりと身を翻し、風に身を預けたまま静止した。

足元には果ての見えない水面が広がり、砕けた巨神像の残骸が点々と浮かんでいる。

その光景を見下ろしながら、彼はゆっくりと息を吐いた。




「……”魔杖指(フィンガーケイン)”……」




低く、抑えた声。

続けて、噛み締めるように言葉を紡ぐ。




「……”十戒(テン・コマンドメンツ)”……!」




両腕を持ち上げ、十本の指を天へ向ける。次の瞬間、空気が震えた。

ラグナの頭上、数メートルの位置に、十個の巨大な火球が同時に出現する。

それぞれが馬車ほどの大きさを持ち、赤熱した核を中心に、灼熱の揺らぎを纏っていた。

火球はゆっくりと円を描くように配置され、まるで天に浮かぶ災厄の輪のように回転を始める。


その光景を、水面の上から見上げていたアルドは、思わず目を見開いた。




「おおっ……!本当に十発同時に魔法を発動した……!」




感嘆混じりの声が、思わず漏れる。

だが、その表情はすぐに真剣なものへと変わった。




(複数の魔法の完全無詠唱、同時発動……)




水面を蹴りながら、アルドは一気に前へと踏み出す。

シュバババッ、と白い水飛沫が帯を引き、彼の進路をなぞる。




(これがラグナのスキルの効果か……? いや……それだけじゃない感じがする)




さらに、もう一つの違和感が脳裏を掠める。




(それに……ダンジョン内じゃ”飛翔”の魔法は封じられてるはずだよな…… じゃあ、どうやって飛んでるんだ?コイツ)




考えながらも、足は止まらない。

アルドは水面を叩くように疾走し、一直線にラグナとの距離を詰めていく。


その動きを、ラグナは即座に察知した。




(来る……!)




十個の火球を頭上で回転させたまま、風の流れを踏み替える。

身体を包む風魔法を精密に制御し、後方へと一気に滑るように移動した。

距離を保つ──それが、この局面での最適解だと判断したからだ。




(身体強化を使った接近戦……!?)




ラグナの視線が、一直線に迫ってくる銀髪の少年を捉える。




(アルド・ラクシズ……あれほどの魔力を有しながら、近距離戦闘タイプのキャラなのかッ!?)




警戒心が、背筋をひりつかせる。


ラグナは宙で両手を構え、粘土をこねるように、ぐりん、と円を描く動きをした。

すると、頭上の十個の火球が呼応するかのように加速し、互いに引き寄せられていく。


空が、赤く染まった。


火球は一つの巨大な渦を形成し、49階層の天井一面に、赤い渦巻き状の光の天蓋が現れる。

熱が、空間そのものを歪める。空気が焼け、唸りを上げた。


ラグナは、その中心で指揮官のように腕を振り下ろす。




「……”灼天弾幕インフェルノ・バラージ”……!」




刹那。


キュドドドドドドッ──!!

轟音と共に、赤い渦から炎の槍が次々と射出された。

一本一本が大木ほどの太さを持ち、空を裂きながら雨のように降り注ぐ。その軌道は無秩序に見えて、しかし全てが、ただ一人──アルド・ラクシズへと収束していた。


アルドは、降り注ぐ炎を見上げながら、口元を僅かに歪める。




(こりゃ、なかなか凄い規模の攻撃だな……)




足を止めることなく、進み続ける。




(ヴァレンの”獅子座流星群(レオニード・メテオ)“みたいだ……!)




炎の槍が水面に突き刺さり、爆ぜる。

轟音と共に、水柱が幾重にも立ち上がる。その隙間を縫うように、アルドは走った。




(それに……“全魔典(パンマギア)”を読んでた俺が、見たことも無い魔法だ……)




純粋な感嘆が、胸を満たす。




(すげぇな……!)




口にした言葉は、どこか呑気ですらあった。




「まるで、ミサイルの雨だね」




そう呟いた瞬間、アルドの足運びが変わる。

──ギアが、一段階上がった。


ダダダダダダダッ!!

水面が悲鳴を上げ、爆ぜるような水飛沫が連なっていく。

炎の槍が迫るよりも速く、アルドの身体は前へ、前へと滑るように突き進む。


ラグナは空中で身を翻し、必死に距離を取った。風魔法を幾重にも重ね、アルドの進路から逃げるように飛翔する。




(み、水の上を……走ってる!?)




信じられない光景に、思わず目を見開く。




(何なんだ、コイツは……ッ!?)




次々と放たれる炎の槍。そのすべてを、アルドは紙一重で、あるいは余裕すら感じさせる動きで躱していく。爆風が背中を掠め、水柱が視界を遮る。それでも、速度は落ちない。


距離は──縮まっている。

ラグナは、歯を食いしばった。




(近づかせるな……! 近づかせたら──)




その先の想像を、彼自身が拒絶する。

空と水、魔法と肉体。

相反する二つの異常が、今この瞬間、同じ軌道へと収束しつつあった。


49階層の空は赤く燃え、水面は白く砕け、そして二人の間の距離は、確実に、削られていく。




 ◇◆◇




ラグナ・ゼタ・エルディナスは、風を蹴るように宙を滑りながら、背後から迫る気配をはっきりと感じ取っていた。


──速い。


想定していたより、はるかに。




「チッ……!」




歯噛みしながら、彼は空中で半身をひねる。

逃げるだけでは距離が詰められる。

ならば──削るしかない。




「”追跡光束(トラッキング・レイ)“ッッ!!」




叫びと同時に、ラグナの指先が鋭く弾けた。

次の瞬間、虚空に走る光。

八条のレーザーが同時に放たれ、空中で不規則にうねりながら、獲物を捉えんと進路を変えていく。白熱した光束は蛇のように曲がり、逃げ道を塞ぐかのようにアルドへと収束していった。


アルドは、それを一瞥しただけで進路を変えた。

水面を一直線に走るのをやめ、巨神像の残骸が密集する区域へと急旋回する。


ザバァッ!!


水飛沫が横に跳ね、彼の身体が低く沈む。




(来る……!)




巨神像の崩れた腕、砕けた胴体、折れた頭部。

数十メートル級の瓦礫が無秩序に転がるその間を、アルドは縫うように走った。

レーザーが背後から追い縋り、軌道を変え、瓦礫の隙間へと潜り込む。


ドォンッ!!


一発が巨神像の破片に命中し、爆発する。

衝撃で瓦礫が跳ね上がり、破片が雨のように降り注いだ。




(……なるほど)




アルドは走りながら、冷静に分析する。




(あのレーザー、着弾すると爆発するタイプか)




だからこそ、瓦礫の多い場所は“盾”にも“罠”にもなる。

アルドはさらに速度を上げ、別の瓦礫群へと突っ込んだ。


ラグナはその光景を上空から見下ろし、思わず息を呑む。




(”追跡光束(トラッキング・レイ)“より……速く走ってる……!?)




あり得ない。

ホーミングを含めたあの速度を、人間が地上移動で上回るなど──。




(化け物め……ッッ!!)




額に、じっとりと汗が滲む。

それでもラグナは、手を止めない。空中で姿勢を保ちながら、指先に魔力を集束させる。次の一手を、頭の中で組み立てる。


その瞬間だった。


アルドが、巨神像の破片の一つに跳び乗った。

ザザァァーーッ!!

巨大な石の上で強引にブレーキをかけ、水と粉塵が一気に舞い上がる。


後方から、七条の光が迫る。




「――あーたたたたたたたっ!!」




気合い混じりの叫びと共に、アルドの拳が唸った。

両腕を連打のように振るい、目の前の巨神像の瓦礫を殴って砕く。

拳が触れた瞬間、石は粉砕され、拳圧だけで内部から弾け飛んだ。




「ハイヤァーーッ!!」




アルドはそのまま、身体の前方で両腕をぐるりと一回転する。

空手の回し受けのような動き──だが、その両掌に込められた力は、常軌を逸していた。


ドンッ!!


双掌打が放たれた瞬間、衝撃波が空間を裂いた。

砕かれた巨大な瓦礫の破片が、まるで散弾銃の弾丸のように前方へと射出される。

数十メートル級の石塊が、雨のように、嵐のように、レーザーの進路へと殺到した。


次の瞬間──


ドドドドドォォンッッ!!


レーザーが瓦礫に次々と命中し、空中で連鎖的な大爆発を起こす。

閃光が瞬き、爆風がうねり、破片が四方八方へと吹き飛んだ。

水面が叩き割られ、巨大な水柱が何本も立ち上る。


その光景を、ラグナは言葉を失って見下ろしていた。

喉が、ひくりと鳴る。




「……何なんだよ……」




知らず、声が漏れる。




「……貴様は……ッ……!?」




冷や汗が、頬を伝って落ちる。

魔法でもなく、障壁でもなく、回避でもなく──

瓦礫を武器にして、魔法を撃ち落とす。

その発想と、それを成立させるだけの身体能力。


ラグナの胸の奥に、恐怖と、そしてそれ以上の──

抗いがたい昂揚(こうよう)が、じわりと灯り始めていた。




 ◇◆◇




アルドは、砕け散った瓦礫の上に立ちながら、ふっと息を吐いた。

水面に広がる爆煙が、ゆっくりと晴れていく。




「……そろそろ」




小さく、だが確かな声音。




「こっちからも、仕掛けてみようか」




次の瞬間だった。


ダァァーーンッ!!


雷鳴のような衝撃が、フロア全体を震わせた。

アルドの踵が、足元の巨神像の瓦礫を踏み抜いたのだ。


それは、ただの踏み込みではない。

中国拳法の“震脚(しんきゃく)”──地を鳴らし、内部から破壊する技。

さらに、アルドはそこに地面系魔法を重ねていた。


圧縮された衝撃が地中を走り、次の瞬間。


ブワッ!!


周囲に散乱していた数十メートル級の瓦礫が、水飛沫とともに一斉に宙へと跳ね上がった。

破片、岩塊、砕けた神像の腕や胸部──

それらが重力を忘れたかのように浮き上がり、弧を描いてラグナの周囲へと迫る。




「っ……!」




ラグナは思わず肩を跳ねさせた。

一瞬だけ、確かに怯みが走る。

だが、すぐに表情を引き締め、鼻で笑った。




「ハッ……!」




浮遊する瓦礫を一瞥し、余裕を装う。




「瓦礫を浮かび上がらせただけか……!

こんなもので、僕にダメージを与えられるとでも?」




口元に、挑発的な笑み。

その瞬間。




「いいんだよ」




静かな声が、下から届いた。




「それは……」




アルドは、低く重心を落とす。

膝を曲げ、背中を丸め、全身に力を溜める。




「──『足場(・・)』なんだから」



「──何だとッ!?」




ラグナが叫ぶより早く。


ドンッ!!


空気が爆ぜた。

アルドの姿が、消えた。




「……どこだッ!?」




ラグナは反射的に周囲を見回す。

魔力を解放し、索敵に意識を集中させる。

風を通し、空間をなぞり、存在を探る──


だが。




「ここだよ」




耳元ではない。頭上でもない。


──背後、斜め上。


ラグナが振り返った、その視界に映ったのは。


宙に浮かぶ瓦礫に、片手で掴まり、同時に両足を瓦礫に乗せて、全身を引き絞るアルドの姿だった。


筋肉が盛り上がり、空気が震える。




「何ッ!?」




驚愕が言葉になる前に──


ドンッ!!


瓦礫を蹴り砕く勢いで、アルドが飛んだ。


一直線。

超音速で放たれる飛び蹴り。




「チィッ!!」




ラグナは舌打ちし、即座に風魔法を操作する。

空気を歪め、身体を滑らせるように移動。

紙一重で、アルドの蹴りが頬を掠めた。


だが、終わりではない。

アルドは外した勢いのまま、別の瓦礫に着地する。


ドンッ。


間髪入れず、次の瓦礫を蹴る。


ドンッ!!


また飛ぶ。


ガガガガガガガガッ!!


空間が裂けるような連続音。

瓦礫、瓦礫、瓦礫──

宙に浮かぶ即席の足場を使い、アルドは全方向から襲いかかる。


前。後ろ。右。左。

斜め上。死角。


飛び蹴り。飛び突き。

体当たりに近い一撃。


その一つ一つが、必殺級。




「馬鹿げてる……!」




ラグナの声が、初めて揺れた。




「何だ、この攻撃速度は……!?」




風魔法で回避し、距離を取り、逃げる。

だが、アルドは止まらない。

逃げ場を読んで、先回りし、追い詰める。


徐々に、ラグナの回避が──

間に合わなくなっていく。


次の瞬間。

ラグナの視界に、影が落ちた。


真上。


そこにいたのは──

踵落(かかとお)としの姿勢で、真下へと落ちてくるアルド。




「ッ!!」




反射的に叫ぶ。




「”防壁の魔杖指フィンガーケイン・バリアフィールド“ッッ!!」




ラグナの前に、九重の魔法障壁が展開される。

透明な層が幾重にも重なり、神々しい輝きを放つ。

次の瞬間。


ドガァァァァンッッ!!


アルドの踵が、障壁に叩き込まれた。


バチバチィィィッ!!


雷光が炸裂し、空間が白く染まる。


一枚……砕ける。

二枚……割れる。

三枚、四枚……耐えきれず崩壊。


五枚目が、粉砕されたところで──

衝撃が止まった。

アルドの身体が、空中で弾かれる。




(……ウソだろ)




内心で、思わず呟く。




(紅龍さんクラスの力で打ち込んでるのに……防がれた!?)




一方、ラグナも──




(バカな……ッ!?)




喉が、ひくりと鳴る。




(大罪魔王級の攻撃でも防ぐ“防壁の魔杖指フィンガーケイン・バリアフィールド“を……)


(ただの踵落(かかとお)としで、半分以上抜いてきた……!?)


(……化け物め!!)




だが──

その驚愕のさらに奥で。


言葉にするにはあまりにも原始的で、理屈で整理するには、あまりにも純粋な感情が、二人の胸の奥で、ゆっくりと形を取り始めていた。



アルドは、空中で体勢を立て直しながら、ふと気づく。


──恐怖が、無い。


"命を奪うかもしれない"という、恐怖が。


ダンジョンという安全装置。

敗北しても、死は確定しない場所。


その前提があるからこそ、初めて──躊躇(ちゅうちょ)なく力を振るえる。




(──力をセーブした、縛りプレイみたいな状態ではあるけどさ……!)




抑え込んだ力の中ではある。

それでも、限界に近い速度と衝撃を解放して。

それでも、誰かの人生を終わらせる心配がない。




(……こんな感覚)




胸の奥が、じんわりと熱を持つ。




(この世界に来てから、初めてかもしれないな……!)




ただ強い相手と向き合い、ただ技をぶつけ合い、ただ勝敗を競うだけの時間。


使命でもない。

守るためでもない。

誰かを救うためでもない。


──今この瞬間、ただ、戦うために戦っている。



一方、ラグナもまた、息を整えながら、同じ熱を感じていた。


障壁が破られた瞬間。

心臓が跳ね、血が駆け巡る。




(……来た)




そう思った。

命の危機ではない。

だが、確実に──敗北の可能性がある。


自分と同じ高さ。

あるいは、それ以上。


これまで、どこかで“勝つ前提”だった戦いとは違う。

油断すれば、読まれ、詰められ、叩き落とされる。


その緊張感が、前世の記憶を、鮮明に呼び覚ます。

大好きだったゲーム、"ラグナロク・ヒストリア"シリーズ。

攻略サイトも見ずに、夢中になってバトルコンテンツに打ち込んだ。


──初見の強敵。

──攻略法が分からないボス。

──負けるかもしれないが、それでも挑まずにはいられなかった、あの瞬間。




(……ああ)




胸が、熱い。




(──これだ。)




勝ちたい。証明したい。だが、それ以上に。




(……楽しい)




自分が“主人公”であることを疑わなかった頃の、あの純粋な昂揚。


気づけば、二人とも──

互いを睨み合ったまま、

ほんの僅か、無意識に。


口の端が、吊り上がっていた。


笑おうとしたわけではない。

余裕を見せようとしたわけでもない。


ただ。抑えきれない高揚が、自然と表情を歪ませただけだった。


銀と金。

二つの"異常"。


神々の水面は、もはや試練の場ではない。


ここは今──

二人にとっての、最高に純粋な“遊び場”になりつつあった。

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― 新着の感想 ―
激熱!! 展開が最高すぎる!! アルド今までよくよく考えたら戦いだけに集中することができてなかったけど、縛りはあるとはいえ単純に戦闘を楽しめてることも最高だし、ラグナもまた同じように楽しんでるのも最高…
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