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【45万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第274話 神々の水面に、金と銀の二つ星

地下四十九階層──湿り気を含んだ石の通路に、規則正しい足音が静かに響いていた。


水の匂いが濃い。壁の目地からじわりと滲み出した雫が、床に張った浅い水溜まりへぽたり、ぽたりと落ちる。そのたびに薄暗い通路の奥で、輪のような波紋が広がっては消える。


だが、その陰気さを気に留める者は一人しかいない。


ラグナ・ゼタ・エルディナスは、まるで散歩でもしているかのように、悠々と歩いていた。

背筋は自然に伸び、呼吸は乱れない。肩に余計な力が入っていないのは、緊張していないからではなく──この程度の階層を“危険”として認識していないからだ。




「──第49階層……ここまで来れば、もうアガリだね」




声は穏やかで、どこか退屈そうだった。

ラグナは濡れた天井を見上げ、薄く笑う。




「正直、40階層まで潜れば、深度ボーナスで本戦出場は確定したようなもの……それ以降のフロアは、言わば『やり込み要素』みたいなものだからなぁ」




一人ごとのように言いながら、視線は前へ。

通路の先は相変わらず暗い。だが、彼の歩みは一切迷いを含まない。道を知っている者の足取りだ。




「特に……この先のフロア……通称、“神々(かみがみ)水面(みなも)”。」




その言葉に、ほんの少しだけ眉間が寄る。

不快というより、面倒くささを思い出した時の表情だ。




「あそこは、31体いる巨神像を全て倒さないと、最終フロアである50階層への扉が開かない仕様になってる。……面倒なんだよねぇ」




吐息のように言い終えて、ラグナは口元を歪める。

勝てる勝てないではない。時間と手間の問題だ。




(──ま、僕が本気を出せば、一瞬でクリアするのは訳ないんだが)




心の中でそう呟く時、彼の表情はさらに静かになる。

自信というより、当然の前提。水が流れるのと同じくらい自然な感覚。




(本戦前にあまり観客席に手の内を見せるのもなぁ。ここは適当に流しておくのがベストかな?)




“見られている”という意識が、彼の判断を冷やしていた。

自分の力は、いずれ披露する。

だがそれは、勝負を決定づける時でいい。

今は、勝つだけでいい。


足元の水をすり抜けるたび、さざ波が小さく立つ。

その波紋のように、ラグナの心もまた、静かに――だが確実に、先へ向かっていた。


やがて。


通路の先が、ふっと開けた。

空気が変わる。湿気はそのままに、広がりのある冷気が肌を撫でた。




「……ああ、ここだ」




広いフロアへの入口。

暗闇の向こうに、巨大な空間が口を開けている。


ラグナは肩を軽く回し、伸びをした。

気負いはない。準備運動というより、退屈な作業に取りかかる前の儀式のように。




「さて……さっさと巨神像どもを破壊して、“全クリ”といこうかね」




その声音には、遊び心すら混ざっていた。

──だが。


一歩、フロアへ踏み込んだ瞬間。


ドォォォォーーン……!


地の底が鳴るような轟音が、はるか奥から響いた。


空間そのものが震え、足元の水面が揺れる。

遠すぎて姿は見えない。だが“巨大な何かが倒れた”と分かる重い音だった。


ラグナは、白い橋の上でぴたりと足を止めた。


呆然。

その言葉が一番近い。




「──は?」




口からこぼれた短い音が、彼自身の耳にすら信じられないように響く。

顔が固まる。瞳が、奥の暗闇へ焦点を結ぶ。




(──49階層の巨神像どもは、フロアに最初に立ち入った者を集中的に狙う仕様になっているはず)




思考が急激に回り始める。

条件反射のように、脳内の“攻略情報”が引き出される。




(その巨神像が、既に戦闘を開始しているという事は……)




喉がひくりと震えた。


理解が追いつくより先に、感情が先走る。

皮膚の奥から熱が込み上げてくる。

──頭が。頬が。耳の裏が。


じわじわと、燃えるように熱くなっていく。




「……ッ」




奥歯が、きしんだ。




「──僕よりも先に、このフロアに到達したヤツが……いるというのか……ッ!!」




ギリッ、と歯噛みする音が、自分でも分かるほど大きく聞こえた。

胸の奥が、嫌な形でざわめく。心臓が、静かな怒りの拍動を打つ。


そして。


その怒りに、ある名前が形を与える。


銀髪の少年。

あの──妙に軽い口調で、それでいて妙に堂々とした、あの男。


ラグナの脳裏に、無意識に浮かび上がった瞬間。

理性が、ほんの一歩遅れた。




「──貴様だろうッ!!アルド・ラクシズッッ!!」




叫びが、広大なフロアに反響する。

同時に、ラグナの身体から、凄まじい金色の魔力が噴き上がった。

光の柱のように立ち上り、白い橋の周囲の水面をざわりと荒立てる。


金色。王の色。祝福の色。


……だが、その内側に。

僅かに、"黒い筋"が混ざっていた。


たとえば、澄んだ金色の絵具に、ほんの一滴だけ墨を落としたような。

それは確かに“異物”なのに、混ざり込みすぎて本人には見えない。


ラグナは気づかなかった。

気づけなかった。

今、彼の視界にあるのはただ一つ──“先にいる者”への憤りだけだった。


水面が、大きくうねる。

巨像が、動く。

ラグナに気づいたように、二体の巨神像が近づいてきた。

水面から半身を現し、波を押し広げながら進む姿は、まるで海から立ち上がる古代の神々。


一体は、ビルのように巨大な斧を担いでいる。

刃先は欠けもなく、濡れた石肌に鈍い光が走る。


もう一体は、槍。

槍の穂先だけで塔のような長さがあり、動かすたびに風を切る音がした。


二体の巨像が、同時に武器を振り上げる。

その影が橋の上に落ち、ラグナの全身を覆う。


普通の人間なら、それだけで足が竦むだろう。

だが、ラグナは違った。

彼は冷たい目で二体を見上げ、吐き捨てるように言った。




「──退()け。お前達ガラクタに構ってる暇は無い」




その声音には、怒りすら無い。

ただ、邪魔だという事実だけがある。




「“魔杖指(フィガー・ケイン)”……」




ラグナは静かに両手を持ち上げ、五指同士を合わせた。

指先が触れ合う瞬間、金色の魔力が細い糸のように絡みつき、空気に緊張が生まれる。


ラグナは、息を吐くように告げた。




「“十戒(テン・コマンドメンツ)”。」




次の瞬間。


五本の指先が、光を孕む。

まるで星の核を指先に圧縮したような、危険な輝き。


そして──放たれた。


十条の光が、一斉に発射される。

レーザーのように直進し、途中でわずかに軌道を変える。

狙いは揺らがない。逃げ道を塞ぐように、追いすがり、食い込む。


光は“現象”ではなく、“意志”を持つ様だった。

直撃するより早く、周囲の水面が蒸発し、白い霧が噴き上がる。


巨像二体が、刹那、反応しようと身を捻る。


だが、遅い。

十発の核撃が、五発ずつ──それぞれの巨像へと突き刺さった。


空間が、爆ぜた。


音が消えるほどの破壊。

上半身が、消し飛ぶ。

石が砕けるのではない。“存在”が削り取られるように、巨像の胸から上が空白になった。


水柱が天井へ突き上がり、遅れて轟音が落ちてくる。


ドォォォン……!!


巨像は、下半身だけになって、水面へ崩れ落ちた。

巨大な脚が沈み、白い橋が大きく軋む。

波が、フロア全体を揺らした。


そして、無機質なアナウンスが響く。




『モンスター、2体討伐。ラグナ・チーム、10×2=20ポイント獲得。』




だが、ラグナの意識はポイントに向いていない。

彼は、水滴の落ちる音すら聞かないまま、遠く──轟音のした方角を睨んだ。

その瞳は、金色の魔力の中でなお鋭く、冷たい。




「バカにしやがって……」




言葉が、噛み殺されるように低い。




「僕を下に見るなんて……許してたまるか……ッ!!」




胸の奥で、何かが軋む。

憎しみというより、ずっと昔から染みついた痛みが、怒りの形を取って吹き上がる。




「本戦を待たずに……ここで決着をつけてやるぞ……アルド・ラクシズ……ッ!!」




言い終えると同時に、ラグナは足元の空気の流れを変えた。

風魔法だ。大雑把な突風ではない。

繊細な羽根のように、必要なだけの揚力を生む精密さ。


彼の身体が、ふわりと浮き上がる。


水面が遠ざかり、白い橋が下に沈む。

金色の魔力が風と絡み、まるで天使の翼のように揺らめいた。


そして。


ビュンッ──!


風を切る音だけを残し、ラグナは一直線に飛び去った。

狙いはただ一つ。


フロアの奥。

先に到達した“銀の新星”へ。


その背中に、黒い筋が混ざった金色の魔力が、なおも気づかれぬまま――燃えていた。




───────────────────




巨神像たちが倒れ、砕け、湖面に沈んでいく中で──

それでも、このフロアはまだ“終わり”を見せていなかった。


白い橋の上に立つアルドの正面。

水面からゆっくりと姿を現した一体の巨神像が、長大な杖を掲げる。


それは戦士でも、破壊者でもない。

賢者、あるいは神官を思わせる造形。

巨大な石のローブが水を滴らせ、杖の先端に嵌め込まれた水晶が、不気味に明滅した。


次の瞬間──


ゴォォォ……ッ!!


空気が歪む。

熱が、音を伴って集束していく。




「……え?」




アルドは一瞬だけ目を瞬いた。


杖の先から放たれたのは、光線──

いや、“光線”などという生易しいものではない。


直径数メートルはあろうかという、極太の熱線。

白熱した奔流が一直線に伸び、湖面を焼き裂きながら、アルドへと迫ってくる。


水が一瞬で蒸発し、進路上に白い霧の壁が立ち上った。




「そういうやつもあるの!?」




思わず、素直な声が出た。

当たってもダメージは無いだろうが、ネームプレートは無事では済まないかもしれない。

驚きはしたが、恐怖は無い。

身体は既に、次の動きを選んでいた。


アルドは横目で、すぐ脇に転がっている“それ”を見る。

先ほど叩き落とした、首を失った巨神像の上半身。




「……よし」




言うが早いか。


ボゴォッ!!


アルドの蹴りが炸裂した。

人の身で放つにはあまりにも重すぎるはずの蹴撃が、数十メートル級の石の巨体を下から叩き上げる。

首を失った巨像の半身が、まるで意思を持ったかのように強制的に起き上がり、ぐらりと前へ傾いた。


次の瞬間。


ズドォォォン!!


極太レーザーが、巨像の半身に直撃した。


ビビビビビッ……!!


凄まじい熱量が石を焼き、表面が赤熱する。

だが、その巨体は“盾”として機能した。

レーザーは巨像の半身を貫ききれず、その場で押し留められる。


石が悲鳴を上げ、砕け、崩れ始める。

だが、その一瞬の猶予があれば──十分だった。

アルドは、その背後で腰を落とす。




「せーのっ……」




脚に、ぐぐぐっと力を込める。

筋肉が軋み、床の白い橋にひびが走る。




「よいしょっっ!!」




ドンッ!!


爆発するような踏み切り。

アルドの身体が弾丸のように飛び出す。


縦に立ったままの巨像の半身──

その背中に、アルドの身体が一直線に突き刺さった。


ドガァァァンッ!!


凄まじい衝撃音。

数十メートルの石の塊が、信じられない速度で前方へと吹き飛ばされる。


盾だった巨像の半身は、そのまま──

杖を構えた巨神像へと激突した。


ドォォォォンッ!!


衝突の瞬間、双方の巨像が同時に砕け散る。

石片が雨のように降り注ぎ、巨大な水飛沫が天井近くまで噴き上がった。


熱線は霧散し、湖面には破壊の余波だけが残る。

そして、無機質な声が響いた。




『モンスター、1体討伐。ブリジット・チーム、10×1=10ポイント獲得。』




アルドは、砕け散る石片の中に着地し、軽く肩を回した。




「……はぁ」




周囲を見渡す。

倒れた巨像、沈みかけた残骸、まだ水面の向こうで蠢く影。




「これ……何体いるのよ……」




呆れと疲労が、半々で混じった声。




「倒しても倒しても、終わらないんだけど……」




白い橋の先。水面の向こう。

どこを見ても、下へ続く階段らしきものは見当たらない。




「下の階層への階段っぽいのも無いし……」




アルドは首を傾げ、きょろきょろと視線を巡らせる。




「ここが……実質、最後の階層って事なのかなぁ」




その瞬間だった。

アルドの足が、ぴたりと止まる。

表情が変わる。

空気の流れ。魔力の揺らぎ。


──“何か”が、来る。


アルドは、反対側の宙空を見据えた。




「──来る」




低く、確信に満ちた一言。

次の瞬間。


ゴォォォ……!


風が鳴いた。

ただの突風ではない。

精密に制御された、魔力を纏う風。

水面が渦を巻き、白い橋の影が揺れる。


その中心に──

人影が、現れた。


金色の魔力をまとい、風に乗るように空を舞う青年。

背筋を伸ばし、視線は鋭く、感情を孕んだ眼差し。


ラグナ・ゼタ・エルディナス。


彼は、戦場の空に静かに降り立つように浮かび、アルドと正面から向き合った。


二人の間に、言葉はまだ無い。

だが、空気は明確に変わった。


巨神像たちの破壊音とは別種の、

張り詰めた緊張が、このフロアを支配し始めていた。




 ◇◆◇





アルドは、宙に浮かぶ青年の姿をはっきりと視認した瞬間、思わず目を見開いた。




「えっ!?」




驚きが、そのまま声になる。




「もう追いついてきたの!? 俺、だいぶ本気で急いだんだけど……!?」




自覚はある。

地下に入ってからの移動は、完全に“競技”の範疇を逸脱していた。

近道も、強引な突破も、多少の反則じみた手段も──使っている。


それでもなお、追いつかれた。


その事実に、アルドは驚きと同時に、ほんの少しの感嘆を覚えていた。


だが──




「……」




ラグナの表情が、ぴくりと歪む。


その一言が、彼の耳には“驚き”ではなく、別の感情として届いていた。




「──ここに僕がいる事が……そんなに不思議か?」




低く、抑えた声。

しかし、その奥に滲む感情は、明らかに穏やかではない。




「アルド・ラクシズ……!」




憎々しげに吐き捨てるような口調。

金色の瞳が、鋭くアルドを射抜く。

アルドは内心で、思わず叫んでいた。




(いや、そりゃ不思議だよ……!)


(割と反則みたいな手を使って、割と本気の力で、ここまで全力疾走してきたんだぞ?)


(それを……ただの人間のラグナが、普通に追いついてくるとか……!)




驚き。困惑。

そして──ほんの少しの、尊敬。


ブリジットの件もあり、感情的には決して好意的とは言えない。

腹が立つ部分も、正直、かなりある。

それでもなお。




(……すげぇな、コイツ)




アルドは、ラグナを“脅威”としてだけでなく、純粋に“強者”として見ていた。


だが──


その視線、その沈黙、そのわずかな感心の間。

ラグナは、それを“侮り”として受け取っていた。


彼は、ゆっくりと周囲に視線を巡らせる。

砕け散った巨神像の破片。

水面に沈みかけた巨大な残骸。

まだ熱を残す破壊の跡。


そして再び、アルドを見る。




「……認めるよ」




その声は、静かだった。

だが、静けさの下で、感情が煮えたぎっている。




「アルド・ラクシズ。お前は……『シナリオに無い強敵』だ」




一瞬の間。




「だが……」




ラグナの声が、跳ね上がる。




「僕を……この僕を……!」




拳が、ぎり、と握り締められる。




「ラグナ・ゼタ・エルディナスを……『下に見る』事は……!」




金色の魔力が、噴き上がる。




「何人たりとも、させはしないッッ!!」




怒声が、フロアに反響する。

アルドは思わず、一歩引いた。




「えっ!? い、いや……!」




慌てて両手を上げる。




「別に下には見てないけど!? 何で急にそんな話になるの!?」




完全に本音だった。

だが、その言葉は、ラグナの胸には届かない。

彼の内側で、別の記憶が、静かに蘇っていた。


変わり者。浮いた存在。

理解されず、笑われ、下に見られ──

ひとりぼっちだった、前世の記憶。

"日本"で生きていた頃の、抑圧と孤独。


ラグナは、それを“思い出している”という自覚すらない。

ただ、胸の奥に溜まり続けていた感情が、今、噴き出しているだけだった。




「僕は……!」




髪を振り乱し、叫ぶ。




「僕は、この世界の……ラグヒス6の主人公……!」




声が震え、張り上がる。




「ラグナ・ゼタ・エルディナスだッ!!」




金色の魔力が、さらに激しく燃え上がる。

その中に──僅かに、黒い筋が混ざっている。




「もう二度と……!」


「僕のことを……馬鹿になんて、させてたまるかッッ!!」




アルドは、半目になった。




「えぇー……」




思わず、ぼそりと漏れる。




「だから、馬鹿にはしてないって言ってるのに……」




首を傾げる。




「ていうか……ラグヒスシックスって何よ? なんか、どっかで聞いた事あるような……」




内心では、別の疑問が、静かに、しかし確かに渦を巻いていた。




(コイツ……)




アルドは、無意識のうちにラグナを観察していた。

怒りに歪む表情。

力を誇示するような魔力の昂ぶり。

それでいて、どこか必死で、余裕がない。




(なんか……実は、自己肯定感……めちゃくちゃ低いのかな……?)




ブリジットに振られた件は、確かにある。

だが、それだけで説明できるほど、単純な苛立ちではない。


容姿は整っている。

王子という立場もある。

実力だって、間違いなく本物だ。




(全部、持ってるじゃん……それなのに……)




アルドは、胸の奥に引っかかる違和感を、言葉にできずにいた。




(なんで、こんなに……必死なんだ? なんで、こんなに……誰かに“認めさせよう”としてる?)




その問いは、ラグナに向けられたものだった。

だが──


アルドは、気づいていなかった。


その疑問の一部が、そのまま自分自身(・・・・)にも向けられる問いであることに。


二人とも、その身に宿す力とは裏腹に、前世日本人の記憶を持つが故に抱えた歪み。

「満たされていなかった側」の感覚。

「ちゃんと評価されたい」という、拭いきれない渇き。


だが、その共通点を、今はまだ互いに知らない。

知るには、二人距離は、あまりにも遠すぎた。


ラグナは、ゆっくりとアルドを見下ろした。


その動きには、王子然とした気品があった。

だが同時に、視線の奥には、焦燥と猜疑が滲んでいる。


両手を前に構え、指先に魔力を集束させる。

空気が、目に見えない圧力を帯びていく。




「決着は……」




低く、噛みしめるような声。




「本戦で、つけるつもりだった」




一瞬の沈黙。

ほんの刹那、迷いがよぎったようにも見えた。


だが──




「……だが」




その言葉が、全てを切り捨てる。




「計画変更だ」




風が唸りを上げる。

金色の魔力が圧縮され、密度を増し、周囲を歪ませる。

その中に、黒い筋が混じっていることを、ラグナ自身は知らない。




「この場で……」




感情が、声に滲む。




「ケリをつけてやるぞ……!」




ラグナの鋭い視線が、アルドを射抜く。




「“銀の新星(シルバー・ノヴァ)”……アルド・ラクシズッッ!!」




その名を呼ぶ声は、挑発であり、宣告だった。

アルドは、内心で、ほんの小さく息を吐いた。




(……急に強くなるのも、不自然だし……弱化魔法も、ここで切るわけにはいかないよな……)




冷静に、状況を整理する自分がいる。

それは、逃げでも油断でもない。




(……ま、何とかなるか)




肩の力を、ふっと抜く。

そして、表情を切り替えた。




「──まぁ、敵チーム同士だしさ」




一歩、前へ。




「出会った以上……戦うしか無いのは、その通りだよね」




腰を落とし、構えを取る。

足裏が、水面の感触を正確に捉える。


視線は、真っ直ぐ。

逃げも、誤魔化しもない。




「──やろうか」




低く、しかしはっきりと。




「“金の超星(ゴールデン・スター)”……ラグナ・ゼタ・エルディナス」




金と銀。

二つの異なる輝きが、正面から向かい合う。


二人の視線が、真正面で交差した。


その瞬間──

神々の水面は、ただのダンジョンではなくなった。


ここはもう、

伝説が衝突する場所なのだ。

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強い主人公自らデバフで戦うなんて 茶番じゃないですか
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