69.
王城に戻ると、ロザリンドが帰ってきていた。
「お姉さん、帰っていたんですね」
妹設定は続行しているので、お姉さんと呼ぶ。
「ごめんなさいね。街で薬を売った人を見つけて追いかけたら見失っちゃって、アレクシス様ともはぐれてしまったから取り敢えずここに戻ってきたの」
「そうだったのね、でも無事で良かったわ」
ロザリンドが無事だったとこに胸を撫で下ろす。だけど……。何だか腑に落ちない。
「じゃあ、麻薬の売人が街にいることは確かなんだな?」
「ええ。間違いないわ」
ロザリンドはハッキリした口調で答えた。
「あまり無茶しないでくださいよ」
ミゲルもアレクシス様もロザリンドが無事でホッとした様子だけど。
「ところで、その人ってどんな感じの人なの?」
ロザリンドだけが知っている、麻薬の売人の見た目。
一体どんな人なんだろう?
「体格は大きくて、がっしりした感じです。髪の色は茶色で、髭が口の周りに生えてて……」
なんか、街中のどこにでもいそうな、これといった特徴がない印象だわ。
「何だか捜すのが難しそうだな。そんなヤツ街にゴロゴロいるぜ」
アレクシス様が紙とペンを取り出し、ロザリンドがいう特徴で似顔絵をさらさらと描きだした。
さすが元(前世)警察官ね、似顔絵があれば人を捜すのに役立つはず。
出来上がった絵を見てみると、教科書とかに載っていそうなありふれた絵だった。
これは……。画伯だわ。
本当に特徴のない人物画を見てミゲルが溜め息をつく。
「これで捜せって無理ですよ」
確かにどこにでもいそうな男性の似顔絵で人捜しは無理そう。お世辞にも上手とは言えない絵に、自然と笑みがこぼれた。
“コンコン”
談笑していると、ドアをノックされた。
「皆様、晩餐の準備が整っております。薔薇の間までお越しください」
城の使用人に呼ばれ、皆で薔薇の間とやらに向かうと、そこにはミランダ王妃が先に来ていた。
ミランダ王妃に促されて席につくと、見たこともないような豪勢な食事が並べられていた。
食事中、ミランダ王妃が私を見て嘆息した。
「エヴァとか言ったか?そなたは所作が美しいな。商家の娘とは思えん」
ギクッ!それは……。
「ミランダ王妃様、ありがとうございます。妹は物覚えがとても早くて私の自慢でございます」
ロザリンドが機転を聞かせてフォローをしてくれたお陰で、それ以上は何も聞かれなかった。
私も愛想笑いをして誤魔化した。
その後も恙無く晩餐が終わろうとしていたその時、ミランダ王妃の耳飾りが何の前触れもなく落下した。
側近らしき人がそれを拾い、ミランダ王妃に手渡す。
「ああ、とうとう外れたか。他人に預けるのが嫌で、外れかけたまま修理してなかったから……」
どうやら大切なものだったらしく、かなり年季が入っていそうだ。
「折角、陛下が下さったのに……」
どこか寂しそうに呟く姿を見て、私は思わず声を上げた。
「あ、あの、私が修理致しましょうか?」
「そなたが?」
「ミランダ王妃様は、それを他人に預けるのが嫌なほど大切なものであることは承知しております。ですから、王妃様の目の前で修理すれば……」
ロザリンドもアレクシス様もミゲルも、そこにいた全員が私に注目している。私なんかが修理するより、ちゃんとした職人さんが修理した方が綺麗なのは分かるけど、それよりもミランダ王妃のその耳飾りに対する思い入れを大切にしたい。
「後ほど私の部屋に来るといい。何か必要な物はあるか?」
「ペンチなどの工具をお借りできますか?」
王妃の部屋に招かれ、先ほどの耳飾りを預かると、丸カンが捻れていた。無理に戻そうとすれば切れる可能性があるため、慎重に作業しなければならない。
お借りしたペンチに布を巻き付ける。
「何をしている?」
ミランダ王妃が不思議そうに聞いてくるので、
「普通、ペンチの先は把持したものが滑らないようにギザギザになっているのですが、こうして布を巻いておけばアクセサリーを傷つけるのを防げるんです。職人さんならギザギザのついてないペンチを持っているはずですけど……」
と答える。
昔、というか前世でアクセサリーを作るときに失敗したことがあって、ギザギザのついてないペンチを手にいれるまではこうして作っていた。
細かい作業だからできればラジオペンチのような先の細いものがあると良かったけど、さすがになかった。
「以前、壊れかけた指輪を修理に出したことがあったんだ。その時に、指輪についていた宝石を別のものとすり替えられたんだ。それに気づいた時にはその職人は行方をくらましていた。だから、他人に預けられないんだ」
「そうだったのですね……」
ミランダ王妃か人間不信になった経緯を垣間見た気がした。




