68.
ロズウェル商会のロザリンドの妹として紹介されたのは、紛れもなくエヴァだった。
ずっと会いたいと思っていた彼女に、こんなところで会えるとは……。
今すぐにエヴァの前に出ていって抱き締めたい衝動に駆られる。
しかし、私は今はミランダに捕らわれた下僕だ。
私が今、エヴァたちの知り合いで、ルディスタンの王太子だとバレたら非常にマズイ。
どうにかしてエヴァたちと接触しなければ……。私がいなくなって随分心配かけただろうし。
その間……、エヴァはあの彼と何か進展があっただろうか?
何かあったとしても、エヴァは……エヴァだけは譲れない。
ミランダが彼らに、王城に滞在するように勧めたことで、エヴァと接触する機会は何とかして作れそうだ。問題は、私についているミランダの腹心をどうやって撒くか、だけど……。
私が考え込んでいると、ナルディは『庭を散歩してきます』と言って出ていった。
そういえばあの眠り薬、ナルディが持っていたな。
今なら部屋にこっそり忍び込めるか……?ん?あれは……。
ナルディの上着だ。散歩するのに上着も羽織らず行ったのか。
ナルディの上着のポケットを探ると、小瓶が出てきた。
私が捕まった時にかけられた眠り薬と同じ小瓶。これで、見張りを撒ける。
エヴァたちが宛がわれた部屋に案内されて出ていくと、早速ミランダから呼ばれた。
ナルディは庭に行ったと告げると、「そうか」と一言だけ返ってきた。
「お前の言う通り、王城に召喚したがロズウェル商会だったとはな」
「ご存知だったのですか?」
「ああ、あのロザリンドとは何度か取引したことがあるし、その際は、この城に滞在してもらうこともある」
「そうだったのですね」
「ロズウェル商会のロザリンドは好奇心旺盛だからな、単なる興味本位であの土地を調べていたに違いない」
ミランダは、心配して損したというような表情で
ロザリンドと一緒に来た者たちがエヴァたちでなければ、私もそう思うかも知れない。だけど……。ここでは同意しておくに限る。
ミランダの言葉に無言で頷いた。
ミランダの前を辞し、廊下を歩く。エヴァたちにどうやって接触するかだが……。ふと、窓の外を見るとエヴァのはちみつ色の髪が光に反射して煌めいているのが見えた。
あの先は、確か図書館があるところだ。
さて……。
「あいたたた……」
急にしゃがみこみ、胸が苦しいフリをする。
案の定、ミランダの腹心が何事かと駆け寄ってきた。
「どうかしたのか?」
「急に胸が……」
“シュッ”
ナルディのポケットから拝借したモノを一吹きすると、私を見張っていた男はすぐに眠りに入ってしまった。
本当に良く効く薬だな。
眠りこけた男を倉庫に押し込め、エヴァの後を追う。
周りに誰もいないことを確かめて、図書館に入る。
「じゃあ私は二階を探してきます」
エヴァの声が静かな図書館に響く。
誰かと一緒にいるのか?
さっき見たときは一人だと思っていた、というよりはエヴァしか見えていなかった。
とにかく、エヴァが一人になったのを見計らって後ろからそっと近づく。
エヴァがびっくりして悲鳴を上げないように口元を押さえる。
「!?」
「しっ。静かに」
エヴァと視線が合う。
「で、でん……んっ!」
変装したままだというのに、私に気付いてくれた。それが凄く嬉しくて、私を呼ぼうとした唇を唇で塞いだ。
ただ単にキスがしたかっただけというのもあるけど……。
久しぶりのエヴァの感触に、その唇を夢中で貪り、抱き締める腕に、もう二度と離すまいと力を込めた。
すると、エヴァも私を抱き締め返してくれた。
少しだけ唇が離れ
「会いたかった……」
と囁く。
「私も、お会いしたかったです」
ああ、エヴァも私に会いたいと思ってくれていた……。
このまま時間が止まればいいのに……。
と、感慨に耽っていると、
「エヴァさん、何か見つかりましたか?」
いつの間にかミゲルが二階へと来ていて、エヴァと抱き合っている姿を目撃されてしまった。
「で、殿下?」
エヴァとの邂逅は無粋なヤツに邪魔されて終わりを告げた。
その後、エヴァたちから何の目的でアガザエルトに来たのかを聞き、ロザリンドが薬で自我を失い、エヴァに襲いかかって、その時の症状が国境付近の住民の状況に似通っており、その薬を流通させないためにアガザエルトに調査に来たとのことだった。
やっぱりか、と言う他なかった。
おそらく、呪術とその薬が関係しているだろうとは思うものの、決定的な証拠はない。どうにかして証拠を手にいれなければ……。
そして、ミランダがランシュアとジョエルを呪い殺すのを止めさせなければ……。




