12.
お妃教育の一環として、私に侍女が二人就くことになった。アンナだけで十分と思っていたのだけど、将来人の上に立つ者は、人に仕えられることも覚えなきゃいけないとの理由をつけられて、了解せざるを得なかった。
「「お嬢様、よろしくお願い致します」」
今日から私付きの侍女となった二人が、揃いのお仕着せをきて挨拶をする。
黒髪の子がメリー、茶色い髪の子がキャロルと名乗った。
「王太子妃様にお仕えすることができて光栄です」
と、メリーが言う。本当に嬉しそうだ。
一方、キャロルはそんなメリーを冷やかな目付きで見ている。それも一瞬でメリーはキャロルの視線に気づかなかったようだ。
「まだ王太子妃ではありませんが、仲良くしてくださいね」
(主にメリーとキャロルが)
とだけ、淑女の微笑みを浮かべておいた。
二人とも最初はアンナの指示のもと仕事を覚えてもらう。そのうち、私の身の回りの事などをしてもらう予定でいる。
私には前世の記憶があるという秘密がある。今はアンナだけが知っているが、秘密がバレるのは望ましくないように思う。とりあえず、気取られないようにしなければ……。
「メリー、今日の予定は?」
「はい、今日は午前中は家庭教師による歴史の授業、午後からはダンスレッスンとなっております」
「キャロル、オーダー表はできてる?」
「はい、こちらがバザー用の刺繍のオーダーで、こちらがキーホルダーのオーダーでございます」
二人とも仕事を覚えるのがとても早い。アンナも今では安心して仕事を任せるようになっていた。
私はというと、相変わらず刺繍とレース編みとキーホルダー作りは続けていた。月一回のバザーも欠かさないように参加している。
「お嬢様、クリストファー殿下とは本当にお会いしてないのですか?」
素朴な疑問といった様子でメリーが聞いてきた。
彼女たちに、断罪イベントの事など、到底話せる内容ではない。やはり、『お妃教育のため』と答えるしかなかった。
「それでしたら、殿下と手紙のやり取りなどはなさっていますか?」
これまたなんというか、メリーは。
「殿下からお手紙の一つも来ないんですもの。私からお手紙を出したところでお相手にされませんわ」
「そうでしょうか?仮にもお嬢様は殿下の正式な婚約者ですもの。お手紙を頂いたら殿下だって、きっとお喜びになられますよ」
両手に拳を握り力説するメリーを見て、まあ、仕方ないか。という気持ちにさせられた。
「そうね。お手紙を書くくらいなら……」
婚約者となっても、今まで一度も手紙のやり取りなどしたことはなかったのに、今さら気恥ずかしいったらないんだけど。
書き上げた手紙はメリーが出しに行ってくれる。『私が手紙を書くことを勧めたから』とその役を買って出てくれた。
キャロルはというと、無表情でそのやり取りをみていた。
何か掴めないんだよね。キャロルって子。仕事はすごく出来るんだけど、なんというか。時々、メリーや私にも冷たい視線を送っている。それも気のせいかって思うほど一瞬。メリーは気付いてないみたいだけど。
……気のせいならいいんだけどね。
アンナにそれとなく二人の印象について尋ねてみたけど、『二人とも仕事はすごくできる優秀な子たちですよ』と答えが返ってきた。
アンナが優秀と認めた二人なので、もうしばらく様子を見ることにしよう。




