表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/69

 Ⅵ 真夜中の安宿会談(1)

ほんの短く輝いた瞬間、キャメロットという名の場所があったことを忘れてはならない。

       アラン・ジェイ・ラーナー&フレデリック・ロウ『キャメロット』より



挿絵(By みてみん)

 旧トゥルブ家邸博物館を正体不明の騎士団が襲撃したその日の深夜……


 石上刃神はキャメルフォード近郊にあるINNの一室で、あまり上等ではないベッドの上に腰掛け、目の前の古ぼけたソファに座るうら若き女性をものすごく不機嫌そうな顔で睨んでいた。


「……で、なんで、てめえもここにいんだよ?」


 さらに陰険極まりなく眉根をしかめ、刃神はどすの利いた声で呟く。


「うーん…なんでと問われれば……成り行き? ほら、あんな戦闘した後だし、慌てて逃げて来たから、どっか落ち着ける場所で一息入れたいかな~と思って」


 しかし、刃神の鋭い視線の先にいる女性――マリアンヌは、まるで意に介することなく、惚けた調子でそんな風に答える。


「だからって、なんで俺の宿で一息入れなきゃならねえのかって訊いてんだっ! 休むんだったら自分の宿で休みやがれ!」


「それはまあ、なんていうか、なんとなく一緒の方向へ逃げてきちゃったし……それにあたし、お宝いただいたら、すぐにここを発つ予定だったから宿とってないのよね」


 声を荒げる刃神に、平然とマリアンヌは着替えその他諸々の入った革の四角い旅行鞄を見せて言う。彼女の服装はというと、先刻、旧トゥルブ家邸博物館に忍び込んだ時に着ていたクリーム色のドレスに赤いフリジア帽という奇妙な格好そのままである。


「知るかっ! んな、てめえの都合わよおっ! ……んまあ、千歩譲って、てめえは同業者だから、納得はいかねえがまだいいとしよう……だが、なんでおめえまでついて来てんだよ⁉ ええ⁉」


 刃神は苦々しげに、今度はマリアンヌの左隣に座る人物へと視線を向ける。


「いやあ、こちらもなんと言いますか……やっぱり、成り行きっすかねえ?」


 そこには、旧トゥルブ家邸博物館に住み込み、ハンコック博士の助手として丘城(ヒルフォート)遺跡の発掘調査をしていたマーク・ポプキンことアルフレッド・ターナーの姿もあった。


「いいか? 俺達はあの博物館に忍び込んだ盗人だぞ?それに対して、おめえはあの博物館の人間だろうが。なのに、なんで俺達について逃げて来てんだよ?」


 正体不明の騎士団にエクスカリバーを奪われた挙句、危うく現場で警察に包囲されそうになった刃神は、前もって取っておいたこのパブの二階にある安宿へと避難したのだった。


 しかし、どうしたことか商売敵の女怪盗と、さらには被害者の博物館関係者まで一緒について来てしまい、今、こうして狭い部屋の中で三人がバカみたいに顔を突き合わせているというわけだ。ちなみに三人は二階の窓からこっそり部屋に入ったので、宿の者やパブの客には目撃されていない。


「それはその……突然、あんな予想外の事態が起こっちゃったんで、ちょっとばかし動揺しちゃいまして……それに、こちらもあんまし警察のご厄介にはなりたくなかったりするものですから……」


 アルフレッドはなぜか恥ずかしそうに頭を掻くと、少々言い淀みながら小声で呟く。


「あん? ……そう言えば、あんな場に居合わせたってのに、カタギのわりにゃあ、やけに落ち着いてるな」


 その意味深な言葉を耳聡く拾い、刃神はアルフレッドに疑念の目を向ける。


「ああ、そう言われてみればそうね……あなた、ほんとに考古学者の助手?」


 それを聞くと、マリアンヌも彼に不審を抱き始める。


「ハァ……本来なら何がなんでも誤魔化し通すのが職分ってもんですがね、こうなったらこの際、正直に全部包み隠さず申し上げますよ。ええ……実は、ハンコック博士の助手マーク・ポプキンというのは仮の姿。本当はアルレッド・ターナーっていう米国生まれのケチな詐欺師でございまさあ」


「詐欺師?」


 一つ溜息を吐き、覚悟を決めたように告白するアルフレッドに、刃神とマリアンヌの二人は顔をしかめて同時に呟く。


「詐欺師? なんで詐欺師が遺跡の調査なんかやってんだよ? ……って、おい、ちょっと待てよ。ってことは、あの遺跡もエクスカリバーも、もしかして真っ赤な偽物…」


「あ、いえ、それについては少々話が立て込んでまして……本物とも偽物とも言い切れないというか……あ、遺跡の方は正真正銘、本物っすよ? 俺が言うんだから間違いありません…って、嘘言う商売の人間が言っても説得力ないっすね、テへへ」


 詐欺師が旧トゥルブ家領遺跡に関わっていたという事実から、お目当てのエクスカリバーが完全なる偽物である可能性を推理する刃神だったが、そんな彼の口をアルフレットが慌てて塞ぐ。


「何、どういうこと? あたし達にもわかるように最初から詳しく説明してくれる?」


「ええ。よござんすよ。そもそもはっすね、俺がロンドンのカジノで大勝ちしようとしてた時のことなんすが――」


 可愛らしい眉間に皺を寄せて尋ねるマリアンヌに、アルフレッドは少々無用な部分まで話しながらも、順序立ててこれまでの経緯を一から十まですべて語って聞かせた。


「――なるほどな。つまりは現在の所有者であるディビッド・アダムスに依頼されて、あのエクスカリバーや他のアーサー王伝来の宝が本物っぽく見えるよう、てめえがいろいろ小細工してたってことか」


「ところが驚いたことに、遺跡を捏造しようとして丘を掘ってみたら、本当にアーサー王の時代の丘城(ヒルフォート)跡が出てきちゃったと……だいたい、そういうことね?」


「ええ。そんなとこっす。まさに〝嘘から出たまこと〟ってやつっすよ。ま、おかげでこっちの手間は省けて大助かりだったっすけど、あれにはほんと、たまげましたねえ。偶然とはいえ、まさか本物の遺跡が出てきちゃうとはなあ……しかも、キャメロットの可能性がある丘城(ヒルフォート)とわかって、俺は咥えてた煙草ポロだったし、ハンコック博士なんかもう、天を仰いでむせび泣きながら感謝の祈りを捧げてましたからね」


 簡単に要約して確認する刃神とマリアンヌに、アルフレッドはその時のことを思い出して、興奮気味に相槌を打つ。


「だが、それ聞いて安心したぜ。そんじゃ、あの剣がアーサー王のエクスカリバーだっていうトゥルブ家の伝承も、まるっきりの嘘ってことじゃねえわけだ。それに五世紀の丘城(ヒルフォート)までほんとに出てきてるとなりゃあ、偽物どころか逆に本物の可能性が強まったってことじゃねえか? こりゃ、俄然、おもしろくなってきたぜ……」


「ま、そのアーサー王のお宝はついさっき、バイク乗った変な騎士達に持ってかれちゃったんだけどね」


 口元に不敵な笑みを浮かべ、アルフレッドの話にむしろ喜んでいる様子の刃神であったが、そんな彼の気を削ぐようなコメントを不愉快そうにマリアンヌは挟む。


「ケッ! つまんねえこと思い出さすんじゃねえよ。また胸糞が悪くなってくるじゃねえか……ま、俺様のエクスカリバーはすぐにでも取り返してやるけどな」


「え? ってことは、さっきのやつらにやっぱり何か心当たりがあるんすね⁉」


 吐き捨てるようにして返す刃神の言葉に、パッと目を輝かせるアルフレッドだったが。


「いや、ない」


 短く、一瞬にしてその期待は裏切られる。


「な、ないんすか……」


「ないが、俺様の獲物に手を出したんだ……そんなふざけた野郎は生かしちゃおけねえ」


 刃神は尖った歯をぎりぎり言わせながら、凶悪な顔で脇に置いたダヴィデの剣の鞘を強く握り締めた。


「あ、あの、そちらのお嬢さんも、やっぱし心当たりは……」


 落胆したアルフレッドは、一応、マリアンヌにも尋ねてみるが。


「あるわけないじゃない! あったら今頃、あいつら全員蜂の巣にして、あたしのお宝奪い返してるわよ!」


 こちらも期待した答えは聞けず、代わりにヒステリックな怒鳴り声を浴びせられた。


 ここがホテルやB&B(ベッド&ブレッグファースト)だったならば、夜の静けさにその声はよく響いていたことだろうが、幸い今なお下のパブから騒音の聞こえてくるこのINNでは、先程からの彼らの大声もそれほど目立ちはしない。


「そうっすかあ……何か知ってればと思ったんすけどねえ……ハァ…せっかく苦労してここまでお膳立てしたってのに、肝心の商品(・・)がなくなっちまっちゃあ商売あがったりっすよ。ハンコック博士は殺されちまうし、それにこの失態が知れたら、俺もアダムスの旦那に何されるか……あの人なら、簀巻きにしてテムズ川へ放り込むなんてこともしないとは言い切れない……おお、怖っ……」


「そう言うあなたはどうなのよ? あなたの方こそ何か心当たりないの? そのアダムスって人を恨んでたヤツとか、旧トゥルブ家のお宝を前々から狙ってたヤツとかさ?」


 肩を落として落ち込んだり、今後待ちうける自分の不運な未来を幻視して身震いするアルフレッドに、今度はマリアンヌの方から尋ねる。


「それがこっちもさっぱり……っていうか、因業な金貸しのアダムスを恨んでるやつなんか星の数ほどいますからね。トゥルブ家の家宝を狙ってる盗賊がいるなんていう話もまるで聞きませんでしたし……ま、実際にはあの妙な騎士達や、お二人のような方々がいたわけっすが」


 首をふるふると横に振ってそう答えると、アルフレッドは何を思ったか、刃神とマリアンヌの顔を交互にまじまじと見つめた。


「あの、先程からご拝見するに、お二人はプロの盗人稼業の方とお見受けしましたが、ご同業者の間で、ああいった盗賊団についての噂話とかはないもんなんすかねえ?」


「あんな変なやつら聞いたこともないわ。ま、あたしが知らないだけかもしれないし、一応、それについては後で当たってみるつもりだけどね。期待薄だけど……」


「おお! そうだった。心当たりはねえが手掛りだったら一つあるぜ!」


 そんな時、アルフレッドの問いに答えるマリアンヌの前で、何かを思い出したのか、刃神が突然、声を上げる。


「手掛り?」


 マリアンヌとアルフレッドは、二人声を揃えて反復する。


「ああ。そこから判断すりゃあ、やつらが次に仕事をしそうな場所を絞り込める。うまくすれば、やつらの先回りをして取っ捕まえられるかもしれねえ……」


「ねえ、なんなの? その手掛りって」


「ああ、それはだな。どうやら、やつらが狙ってる物ってのは……」


 声を弾ませて尋ねるマリアンヌに、思わず答えそうになる刃神だったが。


「おっと、危ねえ危ねえ。危うく話しちまうところだったぜ。ヘン。商売敵に教えてやる義理はねえよ」


「何よ、そこまで言っといて、このケチっ!」


 途中で話をやめる刃神に、マリアンヌは頬を膨らまして抗議する。


「うるせえ。てめえと俺とは同じ獲物狙ってる敵同士だぜ? それなのに、なんでそんなてめえに俺様が貴重な情報教えてやらなきゃいけねえんだよ。お宝が欲しけりゃ、てめえはてめえで、ちゃんと自分の頭で考えな」


「うううう……あ! そうだ!」


 優越感に浸る刃神を睨みつけ、恨めしそうに唸るマリアンヌだったが、しばし後、何か良い考えを思いついたのか不意にポンと手を叩く。


「ねえ、ものは相談なんだけど……ここは一つ、この三人で同盟を組むってのはどう?」


「はあ? 同盟だあ?」


「同盟……ですか?」


 突然の予期せぬ提案に、刃神は頓狂な声を上げ、アルフレッドは驚きの表情を浮かべる。


「ええ、そうよ。ここにいる三人はあの騎士達からお宝を奪い返したいっていう同一の目標を持ってるわ。それに一人一人じゃ役に立たなくても、各々が持っている独自の情報源を合わせれば、きっとあいつらの尻尾を摑むことができると思うの。それに、あの物騒な集団相手に一人で遣り合うってのもちょっとキツイしね。となれば、ここであたし達が協力しない手はないと思わない?」


「ちょっと待て。確かに俺達三人の目標は一緒だが、ってことはつまり、俺達の利害は相反するってことでもあるんだぜ?獲物は一つだってのに、どうやって仲良くしろってんだよ?」


「そうっすね。俺もお力をお借りしたいのは山々なんすが、さりとて、お二人にトゥルブ家の家宝を持って行かれては本末転倒ですし……」


 その提案の矛盾を突いて、即座に反論する刃神とアルフレッド。だが、マリアンヌは愉快そうに笑みを浮かべると、澄ました顔でその問題解決策を口にする。


「そこはそれ。いろいろやり方はあるわ。ねえ、あなた。あなたが欲しいのはエクスカリバーなのよね? だったら、エクスカリバーについてはあなたに譲るわ」


「何っ⁉」


 意外なマリアンヌの発言に、刃神は思わず声を漏らす。


「その代わり、他のアーサー王関連のお宝はあたしがもらうっていうのでどう? なかなかいい交換条件だと思うけど」


「それはまあ……他のもんはついでだったからな。エクスカリバーさえ手に入りゃあ、それで俺は満足だが……」


 会えば口論となる相性の悪さであるが、案外、マリアンヌは彼の性格をよく理解しているようである。彼女の出した譲歩案を、消極的ながらも刃神は肯定する。


「それからあなた! あなたの利益を守るのに、こういうのはどうかしら? もし、あの騎士達からお宝を取り戻せたら、先ずは一旦、あなたの所へ返すわ。それであなたが仕事を終え、アダムスからしっかり報酬をいただいた後で、改めてあたし達がお宝を頂戴する。勿論、その時は盗み出しやすいようにいろいろ便宜ははかってもらうけどね」


「俺に二重詐欺をやれって言うんすか? こりゃ、詐欺師も真っ青な悪知恵だ……ま、そういうの嫌いじゃないっすけどね。ええ。儲けさえちゃんといただければ、俺はそれでも全然OKっすよ」


 アルフレッドもマリアンヌの出した条件に軽いノリで首を縦に振る。


「どうやら決まりね。ここに〝アーサー王のお宝奪還同盟〟成立よ。じゃ、そういうことで、早速、その手掛りってのがなんなのか教えてもらおうかしら?」


 二人の同意を得たマリアンヌは満足げに微笑み、刃神に先程の話の続きを催促する。


「ああ、いいだろう。教えてやるぜ。だが、ちゃんとてめえらも知ってることがあったら俺に教えろよ?」


「わかってるわよ、そんなの。さ、勿体ぶらずにとっとと言いなさいよ!」


「チッ…ったく、どこまでも可愛い気のねえ小娘だな……おい、お前ら。やつらがなんでエクスカリバーやトゥルブ家の家宝をかっぱらってったのかわかるか?」


 きつい口調で急かすマリアンヌに舌打ちする刃神だったが、交互に二人の顔を見つめると、ようやくそのことについて語り始めた。


「それはな、アーサー王の持ち物(・・・・・・・・・)だったからだ」


「アーサー王の持ち物? ……って、当たり前じゃない。何を今更言ってんのよ?まあ、真偽の程はともかくとしても、だからそれなりには価値があると思って、あたしも目を付けたんだし、あなただってそうでしょ?ディビッド・アダムスだって、それだから、わざわざこの詐欺師さん雇って小細工しようとしてたんでしょうに」


「いや、そういう意味じゃねえよ。やつらはな、アーサー王関連の遺物を集めてるんだ」


 呆れたという顔をして、どうやら真意を理解していないらしいマリアンヌに、刃神はもう一度、別の言葉で言い直す。


「……どういうこと?」


「あいつらは自分達のことを〝円卓の騎士団〟だとぬかしてやがる」


「円卓の騎士団?」


 アリアンヌは、それでもまるで訳がわからないといった表情で呟く。


「てめえは聞かなかったかもしれねえが、俺と遣り合った野郎は自分のことをサー・ランスロッドだなんてほざいてやがった。同様に、てめえがドンパチしてた騎士もサー・ガウェインだとな。やつらの着けてた盾に紋章が描いてあっただろ? そう言われてみりゃあ、あれは各々、円卓の騎士達の紋章だ」


「ああ、あの五芒星とかの? どこの貴族さんかと思ったら、そういうことだったの……」


「そんでもって、自称ランスロット野郎は〝アロンダイト〟っていう、アーサー王伝説に出てくるランスロット卿の愛剣を持っていやがった。俺が目をつけてたってのに、どっかの阿呆に先越された代物だ。それだけじゃねえ、てめえの相手もガウェイン卿の剣〝ガラティーン〟を持ってるって言ってたな。その上、俺様の持つこのガラハッド卿のダヴィデの剣までよこせとふざけたことをぬかしやがる。今回のエクスカリバーやトゥルブ家の家宝を奪ったのもそのためだ……やつらはな、そうやってアーサー王絡みのお宝を集めてやがんのさ」


 刃神はそう説明するとダヴィデの剣を持ち上げ、二人の前へと突き出して見せた。


「えっ? ってことはっすよ。なんすか? あの騎士の格好したやつらは、アーサー王に関わりのある品を専門に盗んで廻ってる強盗団だっていうことっすか?」


 アルフレッドが、その常識はずれな犯行目的に少々慌てた様子で聞き返す。


「ああそうだ。俺もこの際、アーサー王関連の剣を集めてみようかと考えていたが、やつらはそんな気楽な思い付きじゃなく、どうやらもっと何か、こう、強い拘りみたいなもんがあるように感じた。なんせ、わざわざ、あんなコスプレまでしてやがんだからな」


「じゃあ何? 自分達は円卓の騎士団だからって、あんな中世の騎士みたいな格好してたってこと?まあ、槍と馬の代わりに銃とバイクで武装してたけど……」


「遊びでやってるのか、それとも本気でそう思ってる頭のイカレた連中なのかはわからねえがな。いずれにしろ、やつらがアーサー王伝説に拘って盗みを働いてのるのは確かだ。まったく、とんだアーサー王マニアだぜ」


 そこまで言うと、刃神は嘲るように鼻で笑った。


「でだ。そうなってくりゃあ、やつらが次に現れそうな場所も多少は検討がついてくるってもんだ」


「なるほどね……わかったわ。それじゃ、あなたはその方面でやつらが次に襲いそうな場所を絞り込んで。あたしの方は同業者連中廻って、そんなアーサー王狂いのヤツらの噂を聞いたことないか尋ねてみるから」


 刃神の話を聞き、飲み込み早くマリアンヌは頷くと、すぐさま次の具体的な行動を考え、お返しとばかりに指示を与える。


「ああ、言われなくてもそうするぜ……ってか、なんでてめえに指図されなきゃなんねえんだよ!」


 そんなマリアンヌにいつもながら声を荒げる刃神だったが、言うだけ無駄と思ったか、今度は視線をアルフレッドの方へと向ける。


「……で、そっちの詐欺師はこれからどうすんだ?」


「え? 俺っすか? うーん……まあ、一応はアダムスの旦那のとこへ今回の件の報告に行くつもりです。警察にいろいろ訊かれるの嫌だったんで思わず逃げ出して来ちまいましたが、このまま姿くらましたら、俺もやつらの共犯だとアダムスの旦那に疑われかねないっすからね。あの人、半分マフィアみたいな人っすから、そんな誤解受けちゃあ、マジで命が危ねえ……ま、ついでにその円卓の騎士団とアダムスが何か関係ないか探りを入れてきますよ」


「ええ。よろしくね。それについては、あなたにしかできない仕事だからね……それで、三人の繋ぎはどうつける?」


「俺は訳あってまだ使える携帯電話(モバイオ)がねえし、ま、てめらの番号聞いといてもいいんだが、やっぱ直接会って話できた方がいいな……そうだ、何かわかったら緑男の骨董展(グリーンマンズ・アンティーク)に集合ってのでどうだ? あそこなら、俺達みたいな稼業のもんでも秘密は無用だし、それにあのオヤジに訊けば、もしかしてあいつらのことも何かわかるかもしれねえ」


 マリアンヌの問いに、刃神は少し考えてからそう答えた。


「あ、それは名案ね! ウォーリーのことをすっかり忘れてたわ。あそこなら確かに最適の場所よ!」


 刃神のその提案をマリアンヌも大賛成する。


「なんすか? そのグリンピースだか、アイアンマンだかって?」


緑男の骨董展(グリーンマンズ・アンティーク)、ピカデリーにある骨董屋だ。裏で盗品のブローカーとその筋の情報屋もやってる。とはいえ、表向きはカタギの骨董屋で通ってるから、場所がわかんなかったら、誰かそこらにいるやつにでも訊きな」


 一方、不可解な顔で尋ねるアルフレッドに刃神はそう説明した。


「ええ。ま、なんとか場所はわかると思います」


「じゃ、各人、こまめに緑男の骨董展(グリーンマンズ・アンティーク)には繋ぎを取ってね。えっと、アルフレッドさんだったかしら? そこのウォーリーって老店主に言えばすぐにわかると思うから」


「はい。了解っす……あ、そういえば、お二人のお名前をまだ聞いてませんでしたね」


 頷いたアルフレッドは、今更ながらだが、二人の名をまだ知らないことに気付いた。


「ん? そういやそうだったか……フン。特別教えてやるからありがたく聞きな。俺はジンシン・イソノカミ。日本人の〝魔術武器使い(マジック・ウェポナー)〟だ」


「マジック・ウェポナー?」


「俺の造語だがな。魔術に使う道具や魔法の力を秘めた武器――魔術武器(マジック・ウェポン)を使う者っていうような意味だ。あの騎士の野郎どもじゃねえが、そういった物を蒐集すんのが俺の専門なのさ」


「つまりは危ないカルトってことよ」


「誰がカルトだ! コラッ!」


 マリアンヌの補足説明に、すでにお約束となりつつあるツッコミを刃神は入れる。


「はあ……つまり簡単にいうと、その魔術武器(マジック・ウェポン)とかいうのの専門の蒐集家(コレクター)さんなわけっすね」


 それでも、そんな二人の無駄な言い争いは無視し、アルフレッドは自分なりに咀嚼して、簡潔に理解したようだ。


「ま、簡単にいうとそういうことだ。で、こっちのはコソ泥の怪盗小娘だ」


「誰がコソ泥で小娘よっ!」


 今のお返しとばかりに紹介する刃神のその呼称を、マリアンヌも即座に否定する。


「マリアンヌだって言ってるでしょう? ムシュー・ターナー、いい? こいつの言うことなんか信用しちゃだめよ。あたしはそんじゃそこらの下等な盗人なんかとは違う、世界を股にかけて歴史とロマン溢れるお宝を捜し求める優雅で華麗なトレジャー・ハンター……フランスが生んだ自由の怪盗マリアンヌ。それがあたしの名前よ」


「トレジャー・ハンターで怪盗っすか……なんだかわかったような、わからないような感じですが、とりあえず憶えました。マドモワゼル・マリアンヌっすね」


 自画自賛なマリアンヌの自己紹介にアルフレッドは苦笑を浮かべていたが、なんとなくどんな人物かはわかったようである。


「ええ。その通りよ。ふぁ~あ……それじゃ、無事、同盟も結べたことだし、今夜はいろいろあって疲れたからもう寝るわ。さ、ムシュー・イソノカミ、そこをどいてくださる?」


 今後の方針が一通り決まり、自己紹介も滞りなく終わると、マリアンヌはそこに座る刃神を押し退け、その部屋に一つしかないベッドの中へ潜り込もうとする。


「ん? ああ、それじゃ、俺も自分の部屋に戻って…」


 そのあまりにも自然な動きに違和感なく場所を譲る刃神だったが、数秒の後、それがひどくおかしなことに気付く。


「ちょっと待て! ここは俺の部屋で、それは俺のベッドだろうがっ!」


 だが、もうすでに遅し。マリアンヌはしっかりと毛布(ブランケット)に身を包み、心地良さそうに頭を枕の上へ置いている。


「それじゃ、俺もちょっと仮眠を取らせてもらいまさあ。明るくなる前には出てきますんで。あ、このソファ貸してくださいね」


 その上、アルフレッドまで座っていたソファの上で足を投げ出すと、持っていたソフト帽を顔に載せて、早々眠る態勢に入ってしまう。


「おい! 起きろっ! 寝るんだったら、どっか他所へ行って…」


 刃神は怒号を吐きながら、マリアンヌの毛布(ブランケット)を引き剥がそうとしたのだったが。


 カチャ…。


「な……」


 彼の鼻先に、突然、ワルサーP5の銃口が突き付けられた。


「一応言っとくけど、もし変なことしようとしたら、あなたのタマ(・・)にこの鉛の弾をぶつけてやるからね。それじゃ、お休みなさい」


 マリアンヌはそう脅し文句を口にすると、銃をしまって再びベッドの上で目を閉じる。


「……な、なんて、下品な小娘だ……っていうか、おまえら、いい加減にしろよ……」


 刃神独り立ち尽くすINNの部屋の中には、階下のパブから聞こえてくる賑やかな酔っ払い達の笑い声だけが響いていた――。

To Be Continued…

A suivre…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ