第六話:鋼の意志と白き刃の予感
翡翠の迷宮での色葉との邂逅から数日が経った。色葉を連れ戻せなかった悔しさを胸に、ゼルたちは一度態勢を整えるため、人間界にあるゼルの隠れ家へと帰還していた。今の自分たちの力では、洗脳された色葉や組織の幹部たちに及ばないことを痛感したからだ。
「……各々、今のままでは限界がある」
リビングのテーブルを囲み、ゼルが重々しく口を開いた。その視線の先には、仲間たちの真剣な顔がある。
「アルテミス、お前は天界の伝手を使い、組織『カラー』が次に狙う『神の子』の候補や、地下施設の詳細な構造を洗ってくれ。どんなに些細な噂でも構わない」
「御意に、我が主。私の持つ月光の加護を使い、闇に潜む組織の尻尾を必ず掴んでみせましょう。……それと並行して、皆様の装備の調整も進めます」
次に、ゼルはスイとジンに向き直った。
「スイ、お前は冷気を『放つ』だけでなく、先日の特訓のように空間の『湿度』を自在に操る感覚を磨いてくれ。ジン、お前はその隠密性を活かして、俺の魔法を当てるための『誘導』の連携を煮詰める。……二人とも、今の限界を超えてもらうぞ」
「わかった、ゼル。私、もっと強くなって……色葉さんを助ける力になりたい」
「了解だ。……贅沢な囮役、精一杯務めさせてもらうよ」
それから数日間、ゼルたちは過酷な修行に身を投じた。
ゼル自身も、刀に纏わせる雷の圧縮率を高め、一撃の威力を底上げしていく。さらには『感情の終着点』で読み取った敵の負の感情を、瞬時に自身の身体能力の強化へと変換する精度の向上に努めた。
そんな中、アルテミスが重要な情報を持って帰還した。
「ゼル様、組織の地下実験施設の場所を特定しました。そこには、組織の初期ナンバーであり、適合者の調整を担う少女……リアが潜伏しているようです」
「リア……白の15号か」
ジンがその名に反応し、険しい表情を見せる。
「彼女は風を操る能力者です。その風は、鉄すらも切り裂く鋭利な刃となる。……感情を一切圧し殺した、組織の忠実な処刑人だと聞いています」
「風か。……厄介だが、色葉の洗脳を解く鍵はそのリアが握っているはずだ。よし、作戦を伝える。各員の役割を忘れるな」
ゼルは地下施設の図面を指し示し、確固たる口調で命じた。
「アルテミス、お前の月光でリアの『風の刃』の軌道を可視化しろ。あの不可視の斬撃を封じない限り、近づくことすらできん!」
「スイ! お前は広場全体の湿度を上げろ。結露させて風の密度を上げれば、ジンの『ハイド』でも気流の乱れで位置を特定しやすくなる。……ジンの合図に合わせて一気に凍らせ、リアの機動力を奪え!」
「ジン! お前は俺たちが隙を作るまで徹底的に潜伏しろ。リアの『風の鎧』には、必ず魔力の循環が滞る一瞬の継ぎ目があるはずだ。そこを、お前の『魔力を阻害する矢』で貫け」
仲間の顔に迷いはない。修行を経て、彼らの絆と戦力は確実に高まっていた。
「……行くぞ。色葉を、俺たちの場所に連れ戻すために」
一行は夕闇に紛れ、鉄をも切り裂く白き風が吹き荒れる地下施設へと足を踏み出した。




