TIPS3:貞光の憂鬱
夜、園田神社前。やれやれ、兄さんが
”園田神社は自然が美しい場所だようんこ星人”
とか僕に写メして来たから
”うんこ言うな”
とか一人突っ込みしつつも、添付ファイルを凝視して見れば大輪ラフレシアのドアップだったから
”アフリカでやれや”
とか一人腹筋崩壊してたらネタじゃなくてマジで熱帯雨林じゃないかここ。いったいどういう思考回路したらこんなクソみたいな場所に神社を構える気になるんですか兄さん。お陰でアマゾンの奥地にも存在するかどうか怪しい巨大食虫植物に食まれたり吸われそうになったじゃないか、こんな国土地理院も把握してなさそうなとこで養分になってタマるか。しかし熱いな〜、式神乱発してマッハで来たからまだカキ氷は溶けてないよね、よし。薄暗い神社の階段を一歩、二歩とあがり始める。もちろん真ん中は神様がお通りになる道だから左端をあがる。足の捌き方もお尻を見せないように左足から先にね〜。
階段を上りきると現れたのは大きな大きな朱色の鳥居。なかなか立派じゃないか園田神社。一礼してここでも左端を通過するのが作法だよ? しかしあの容姿端麗なお嬢さんが未有鬼ちゃんだったなんてね、貞ジジ(鬼子はこう呼んでいた)は未だに信じられないよ。やはり15年という歳月は長すぎたね。もう”貞ジジおんぶ!”とか言ってくれないよね。あははははは。そうだそうだ、お土産確認しないとね〜、確か美月ちゃんは芍薬の種とベゴニアの苗で良かったよね、兄さんに確認済み。鬼子はイチゴ味のカキ氷で外してないはず、それから美花ちゃんがVRAM2048MBのグラフィックカードだったよね、これも兄さんに確認済み、うんうん。しかし美花ちゃんのだけで飛び抜けて高いんだよね〜日本橋の一番安いとこで9万だよ9万。貞ジジの月給半分だよ。碓井神社と源神社のお賽銭全部消費。今月どうやって生きて行ったら……いやいやいやそんなクソみたいな思考回路してちゃダメだ。姪っ子達の笑顔以上の至福がこの貞光にあろうものか。今月もビスタッチオで乗り切って見せるさ、体重やばいけど。あはははははは。さて〜行こうか?
手水舎の冷水で手、口を清めてまずは拝殿へ。訪れたことを神様に報告するのが礼儀だよ? 2礼2拍手1礼。さていよいよ兄さん達とご対面。え〜っと、”別邸”はどっちだろうか。メールによると……
”拝殿を抜けたらそこで抜き足、差し足、忍び足すると美花が歓迎してくれるよ”
か。まるで不審者みたいだけど美花ちゃんがお出迎えしてくれるなら、貞ジジは泥棒でも鳩山にでもなっちゃうよ。あはははは。あそれ、抜き足、差し足、忍び足……。瞬間サイレンが鳴った。歓迎会の始まりかな?
”侵入者確認! 侵入者確認! 迎撃システム作動! 20mmガトリング砲M61A1ファランクス。スタンバイです!”
ん〜!? このキュートなコールは美花ちゃんかい!?
”ジャキン! ジャキン! ジャキキン!”
すごいね〜枯山水の下から出てきたのは空母の防空システム並のチェーンガンじゃないか。それも6門。え〜っとなになにメールを確認。
”歓迎用のサプライズが出てきても慌てず抜き足、差し足、忍び足”
ふむふむ了解だ兄さん。美花ちゃんとは初対面だから言うとおりにしよう。あそれ、抜き足、差し足、忍び足。
”FCSオンライン。警告。すぐに行動を停止するのです。警告。すぐに不審行動を停止するのです”
”ギュイ−−ン”
ん〜!? 砲身が回転し始めたよ本当に大丈夫かい兄さん? 携帯オープンして次は〜次は〜……
”いよいよ仕上げ。白目を向いてお尻をバンバン叩いてビックリするほど……”
いやこれ神主というか35超えたオッサンがやったらいろいろとマズ……まぁいいか。やるさ、やってやるさ。可愛い姪っ子の歓迎が受けられるなら。それくらいは。
「あそれ、びっくりするほ」
”チュドドドドドドドドドドド”
30分後。
「ご、ごめんなさい叔父さん。美花が勝手なことして本当に」
兄さんに復讐を誓いつつも黒焦げな僕を園田別邸に案内してくれているのは、桜色の浴衣を着た美月ちゃんだ。オレンジ色のリボンがとっても可愛らしい。しかしあの赤ん坊がこんな美しいお嬢さんに育つなんて、未有鬼ちゃんに続いて叔父さんビ〜ックリだよ。
「いやいやいやと〜んでもない。本当に大きくなったね〜美月ちゃん。ボ、僕のこと覚えてるかな?」
人差し指で自分の顔を指しながらドキドキタイムだ。覚えてくれてたら大喜びだよ。いやでもあのとき1歳だったもんね、無理だよね〜。
「もちろん覚えてます叔父さん。それとも”ジジ”のほうが良いですか?」
天使のような微笑でニッコリ。堪えきれずに
「あははははははははは! 傑作だよ! 傑作にも程があるよ!」
泣いちゃダメだ貞光なくな〜貞光。ハッピーなときは笑え貞光。身をよじって笑え。大きくなった未有鬼ちゃんと再開した時みたいに〜!
「それにしても叔父さん、その変な笑い方も相変わらずですね」
クスリと口元に手を当ててる美月ちゃん。よくまぁそんなところまで覚えててくれてって……無理だよ兄さん?
「ううううグス」
「お、叔父さん!?」
玄関に着くと、オレンジの浴衣を着た子猫ちゃんみたいに可愛らしい女の子が、その大きなパッチリ目で僕を柱の陰から見ていた。頭に巻いた同じくオレンジ色したカチューシャスカーフ。上向いた結び目の形がまるでお花が咲いているようでこれまた可愛らしい。こ、この子が美花ちゃんだね!?
「ホラ、美花。叔父さんにごめんなさいは?」
美月ちゃんに促されるとオズオズと僕の前に出て来て
「ごめんなさいなのです」
ペコリ。おお、なんて良い子なんだ!
「いやいや〜気にしないでね? 美花ちゃん初めまして〜」
と頭を撫でているのを美月ちゃんがニコっと確認してから
「それじゃぁ私、お茶の用意をしてきますね」
と赤い花緒が綺麗な草履を脱いで奥のキッチンヘ。ん〜本当に良家のお嬢様という雰囲気がピッタリだね〜と、キッチンへ向かうその後姿を見送って……そういえば
「お父さんとお母さんと、それから、それから〜……未有鬼お姉さんはどこかなぁ?」
聞けば何と、外泊するというじゃないですか兄さん達。いつ美鬼がここに現れるかも知れないのに、全くどういう思考回路をしたらこんな子達を置いてそんなクソみたいなマネが出来るんですか。誡めが解けた美鬼は未有鬼ちゃんと兄さんの二人掛りでも勝てるかどうか分からないんですよ。……。しかし、しかし、我が娘ながら恐ろしく、そして不憫なことじゃないか。大人しくて可愛らしくて、無口で筆談メインだったけど素直で良い子だったのに。どうしてあんなことになってしまったんだろうね。袖から微かにのぞく、右腕に刻まれた古傷を見て思う。美鬼が僕に残した深い爪痕を見て思う。あはははは。どうして美鬼だけが、美鬼だけがあんな恐ろしい子になってしまったんだろうね。美鬼が僕から奪い損ねた、それでもほとんど見えなくなった目で傷を見て思う。何でだろう、どうしてだろうね兄さん。僕には分からないよ。あはははは、は。すっと頬に何か触れた。まるで紅葉の若葉のように小さく、柔らかな手の平。その先で
「ごめんなさいなのです。すごく痛かったのですか? 本当にごめんなさいなのです。だからもう泣かないで欲しいのです」
大きな目を潤ませているのは美花ちゃんだ。ああ、ああ、最低じゃないか。今日が初対面じゃないかこの子とは。全く相変わらずクソみたいな顔してるんだろうな貞光め。変な液体が美花ちゃんの手を汚す前にグスっと袖でぬぐって
「あははははは。大丈夫だよ美花ちゃん。叔父さんは平気だよ平気。すっごい……平気だ。戦艦大和の46cm砲の直撃を受けても掠り傷一つ受けないよ?」
やっと笑ってくれたよ。初めての笑顔だ。あ〜全く、本当にクソみたいな叔父じゃないか。第一声に”ごめんなさい”なんて言わせて今度は泣かせてさ、って、おっと着信だ。誰かな〜? パチンと携帯オープン。
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送信者:桃花
件名:なし
本文:悪い。遅れる。明け方にはつく。
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やれやれ相変わらず色気も愛想も次女だな。どうせまた男にでも絡まれているんだろうね。気の毒にね、もちろん男が。”クンクンクン”と美花ちゃんが鼻をヒクヒクとさせている。
「お姉ちゃんがクッキー焼いてるのですよ〜一緒に食べるのですよ」
視力がほとんどない僕の目を、その大きな瞳が見て
「叔父さん」
ニッコリ。そして紅葉のような手が、傷の入った僕の手を優しく握ってくれた。
「あは、あははははははは! クッキーだって! 傑作だよ! 傑作にも程があるよ!」
「叔父さんはクッキーが好きなのですか?」
「大好きだよ! もう本当に大好きさ美花ちゃん!」
”それじゃぁ冷めないうちに行くのです!”と小さな手が僕をキッチンの方へ引っ張っていった。美鬼が、娘が、この子達と血が繋がっているなら、お父さんはまだ信じても良いですよね? ”美樹”が帰ってくるって。あはははは。
重要キャラなので掘り下げて見ました^^
ゲリラ執筆につき少し荒彫りです。チョビチョビ修正していきます。ごめんなさい。
評価や感想を頂けますと執筆者が号泣しながら返信致します。
次回はここでまた”異次元コント”ですよ〜^^