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夜は歪みでできている  作者: たそ


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7/7

第6話「最初に見えたもの」

それは、子供の頃の話だ。

「朔、ちょっと来て」

母に呼ばれた。まだ、小学生の頃。

今よりもずっと、人の顔色を伺っていた時期。

「何?」

「近所の神社に行くわよ」

断る理由がなかった。というより、この頃の自分は断るという選択肢を持っていなかった。

夕方の薄暗くなり始めた道。

母に手を引かれて歩く。

「……ここ?」


小さな神社だが、この頃はとても巨体に見えたのを覚えている。

この世とは隔絶されたような静けさが辺りを包む。

母は、どこか落ち着かない様子で言う。

「ちゃんと挨拶しなさい」

言われるままに頭を下げる。なぜ頭を下げるかはよく分からない。その時……

(あれ)

"何か"がいた。本殿の奥。

暗がりの中だが、ヒトの形をしていると何となくわかる。でも、動いてない。

母の袖を引きながら問いかける。

「……ねぇ、あそこに」

「言わなくていい」

言いかけた瞬間、母に遮られる。初めて見る、強い顔だった。

「いいから、何もいないって思いなさい」

意味が分からなかったが、逆らえなかった。


(見えてるのになぁ)

もう一度、そっちを見る。"ソレ"と目が会った。

その瞬間、"ゾワっ"と、体の奥が冷えた。

「……っ」

怖い。母の袖を強く握る。

「帰るわよ」

恐怖を察したのか、母が強く手を引いた。

逃げるみたいに、神社を出る。

振り返らなかった。理由は分からないが、振り返ったらダメな気がした。


「……今のなに?」

神社から出た後、ねぇねぇと聞く。

しばらく沈黙が続き、そして。

「"アレ"が見えたの?」

と、母が小さく聞く。

「……うん」

言った瞬間、少しだけ後悔した。言わない方が良かった気がした。

「……そう」

母は、それ以上何も言わなかった。でも、

手を握る力が、少しだけ強くなった。


その日から、"何か"を感じる事が増えた。

夜道。学校。家の中。

あらゆる所に"何か"がいる気がする。

でも、誰もいない。

「気のせいだろ」

と、周囲の人々は口にする。だから、

(気のせいってことにしよう)

そう決めた。見えても、見えないふり。

感じても、無視する。それが1番楽だった。

そして、人の顔色も同じだった。

怒ってるかもしれない。嫌われてるかもしれない。

でも

(気にしない)

そうやって、全部"なかったこと"にしてきた。


--結果、

「人間関係、向いてねぇのかなぁ」

大人になって、そう思うようになった。

見えてるのに、見てないふりをする。

その癖は消えなかった。そして今。

「それ、昔からでしょ」

いろはの声。気づけば、いつもの場所。

「何の話だよ」

「見えてるのに、無視するやつ」

図星だった。

「怪異に対しては、便利だけどね」

でも、と続ける。

「人間には、あまりよくない」

朔は、何も言えなかった。

「だから君、両方に中途半端なんだよ」

と、いろはは少し笑う。

「……うるせぇな」

否定しなかった、というよりできなかった。

母の事を思い出しながら、その日は帰路に着いたのだった

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