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夜は歪みでできている  作者: たそ


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1/7

プロローグ「気配」

最初は、ただの気のせいだと思っていた。


夜道で、後ろに誰かいる気がする。

振り向いても、誰もいない。

--よくある話だ。

「……はぁ」

有栖朔(ありすさく)は溜息をついた。


仕事帰り。街灯はあるのに、やけに暗く感じる道。

転職してから1ヶ月程しか経っていない。

未だに慣れない環境、憂鬱な人間関係。

昔の職場にいた頃よりはマシだなんて思っていたが、結局……

「どこ行っても同じか」

なんて、小さく呟いてみる。


誰かと話すのがもうしんどい。気を遣うのも、顔色を伺いながら過ごす日々も。

だから、この時間が1番楽なハズなのに。

「……またか」

足音がした。自分のものではない、もう一つのリズム。

コツ、コツ。

半歩遅れて着いてくるような音。

立ち止まる。音も止まる。

「……」

振り向くがやはり、誰もいない。

分かっていたことだ。

それでも確認せずにはいられない。


「気のせい…だよな?」

そう言いながら、再び歩き出す。

コツ、コツ。--また鳴る。

今度はさっきより少し近くなった気がした。

「……はは」

乾いた笑いが込み上げる。

きっと、疲れてるんだ。

そういうことにしておくのが、1番楽だ。

これ以上、考えなくて済むから。でも……

(こんなにはっきり聞こえるか?)

1歩進む。

コツ。

1歩進む。

コツ。

ピッタリ合わせてくる。いや、違う。

"合わせているんじゃない"

最初から後ろにいる。そんな気がした。

「……やめてくれよ」

誰に言ってるのか分からないまま、口に出す。

答えはない。代わりに、コツ。

一歩分、近付いた音がした。

反射的に振り向く。街灯の下。

誰も…………いや、

「……」

なにか居た気がした。人の形をしたなにかが。

でも、輪郭が曖昧で、うまく認識が出来ない。

見た瞬間に、"見えなくなる"

そんな違和感。

「……なんだよ、今の」

心臓がうるさい。

ただの見間違いで片付けるには、嫌な感じが残る。

(帰るか)

そう思って、前を向いた瞬間。



「ねぇ」

声がした。すぐ後ろから。

今度は足音じゃない。はっきりとした、人の声。

「それ」

振り向くより先に、後ろの声が言う。

「振り向いたら、ダメなやつだよ」

声の主が、朔の目の前に来る。

そこにいたのは--月城いろはだった。

「……は?」

「もう1回、振り向いちゃったでしょ?」

いろはは、後ろ--朔のさらに後ろを見ている。

「それ、あと二回でおわり」

「何がだよ」

「君が」

さらっと言った。

「死ぬのが」

--意味が分からない。分からないハズなのに、

「……はは」

乾いた笑いが喉の奥から出た。

妙に納得してしまっている自分がいた。

「なぁ」

喉が少しだけ震える。

「後ろ、いるよな」

聞くと、いろはは少しだけ目を細めた。

「うん」

あっさりと肯定する。


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