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3_8.

 相変わらず一の鐘が鳴る前に目が覚めた。

 今はメイドじゃないと分かっているからこんなに早く起きる必要はないのだけれど、癖みたいなもので目が覚めてしまうのだ。


 今日は旦那様が遠乗りに連れて行ってくれる。

 旦那様の愛馬を紹介してくださるらしい。


 そういえば、昨日この家にお迎えした猫はベルと名付けられた。

 可愛い雄の子猫である。

 ベルはやんちゃな子で部屋中を駆け回っているが、部屋から勝手に出ないのはすごく頭がいいからだと思う。

 やっぱり旦那様に似ている気がする。

 まあそれは誰にも話していないのだけれど。


 旦那様は珍しく遅く起きてきた。

 二の鐘がなる頃に朝食を2人で食べる。

 大きなテーブルでは話がしづらいから、と旦那様にお願いして小さいテーブルを運び込んでもらった。

 だから今はお互いが手を伸ばせば届くくらいの大きさである。


 相変わらずここの食事は美味しい。

 それが好きな人と一緒に食べるものならばなおさら。

 でもそれは旦那様には教えてあげない。

 恥ずかしいし、何より私は今まで好きって告げてくれなかった旦那様に拗ねているのだ。

 ちょっとくらい意地悪してもいいだろう。


 カトラリーを動かしながら他愛ない話をする。

 好きな食べ物、綺麗だと思うもの、...。

 私たちはお互いのことを何も知らなかった。

 だからこれから知っていくのだ。


 今まではかっこいいというイメージが強かった旦那様だが、意外と可愛らしいところもある。

 負けず嫌いだし。

 毎日のように王様から送られてくる手紙を添削して送っていたのを見かけた時には、必死で紙を手で隠していて、そのくせ隙間から結構な範囲が見えていて、必死な様子がひどく可愛かった。

 そんなことであきれたりしないのに。


 朝食を食べ終わった後レナに着替えさせてもらった。

 馬に乗ることを考えて動きやすいズボンにしたが、上質な素材でおしゃれも追求している。

 さすが公爵家と言うしかない。

 どこにも文句の付け所がないのだから。


 旦那様は、いつもの騎士服より装飾は少ないが上等な素材で落ち着いた色の服に着替えていた。

 旦那様は顔もスタイルもいいから何でも似合う。

 かっこいいなと思って見ていると、旦那様は私の方を見て可愛いと言いながら頭を撫でてくれた。

 セットした髪が崩れないように絶妙な力加減で。

 やっぱりできる男は違う。


 旦那様に手を引かれて屋敷の裏の方へ向かう。

 そこには馬小屋があった。

 こんなところに馬小屋があるなんて知らなかった。

 この屋敷はすごく広いから。

 私としたことがもふもふを見逃してしまうなんて...誠に遺憾である。

 

 旦那様の馬は一番右側の囲いの中にいた。

 真っ黒な凛々しい顔つきをした大きな馬である。

 ただでさえ背の高い旦那様がこの馬に乗ったら、きっとすごい迫力がある。

 このまま遠乗りに行くのかと思ったら、旦那様は私の手を引いて馬小屋の奥へ向かった。


 「ラナ、この子が君の馬だ」


 そこにいたのは栗毛色の優しい瞳をした馬だ。

 私はてっきり旦那様の馬に2人で乗るのかと思っていたが、わざわざ私のために馬を用意してくれるなんて。

 そもそも私が馬に乗れることを知っているなんてびっくりだ。


 そう思って旦那様の顔を見ると、伯爵からラナは馬に乗るのが好きだと聞いた、と教えてくれた。

 旦那様、私の脳内まで読めるのだろうか。


 相変わらず旦那様は有能すぎて、私の好きはさらにつのっていった。

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