2₋15.
事態が動いたのは、日も傾きかけていた頃。
森の奥まで来たものの、成果は出ず、そろそろ帰らなければいけないという時間だ。
転移魔法を使えばすぐに屋敷に帰ることもできるが、使える人は半数くらいで、残りの人達をおいていくわけにはいかず、かといってその人達を魔法で運ぶには魔力の消費が多すぎる。
出来ないわけではないが、何かあったときのことを考えると選ばないほうがいい手段だ。
伯爵の屋敷に向かって引き返そうとしたとき、一人の騎士の声が響いた。
最初は魔物が現れたのかと思った。
それくらい驚きに満ちた声だったからだ。
だがそうではなかった。
彼は転移陣を見つけたのだ。
大昔から人の訪れることのない森だ。
どう考えても今回の件と関係があるだろう。
それにパット見た感じではつい最近まで使われていた形跡がある。
複雑な魔法陣だから時間がかかりそうではあるが、解析すれば何を転移させるのに使われたかもわかるだろう。
転移陣を見ていると、少し離れたところから俺を呼ぶ声が聞こえた。
「公爵様!こちらにも転移陣があるようです!」
「何!?今行く!」
呼ばれた方へ行くと、先程よりも少し大きいが、単純な図柄の転移陣がある。
こちらも比較的新しそうなものだから主の発生関係で使われたものだろう。
このまま解析を行いたいところだが、日が暮れてしまう。
どうしすればいいのだろうか。
「…あの、公爵様。転移魔法を使えるものだけを残して、使えないものだけを返してはいかがですか。主がいない今、公爵様がいなくても危険ではないでしょう」
「そうだな、そうしよう。ありがとう」
今まで思いつかなかったのが不思議なくらいの単純な案だ。
それくらい俺たちは一向に進まなかった調査に精神的にやられていたのだろう。
騎士たちに指示を出して一部のものを帰らせたあと、単純な方の転移陣に向き合う。
この程度ならおそらく半刻ほどで解析できる。
残った騎士たちに見張りをさせているため、俺は解析だけに集中して取り組める。
思ったよりも早く解析が終わった。
討伐達成の少しあと、ラナから届いた手紙でとある侯爵家で発生しているはずの主が見つからないという知らせが入ってきていたが、やはりそれと関係があるようだ。
設置されたタイミングはその侯爵家で魔物が増えた時期とも重なっている。
もう一つの転移陣の解析はまだだが、魔物を自領に送りカモフラージュとするために使ったのだろう。
全く、趣味の悪いことをする。
なんの恨みがあるか知らないが、なぜそんなことをしようと思うのか。
そもそもこちらが主を倒さない限りあちらの魔物も絶えないのだから、領民たちの命が、生活が犠牲になっていてもおかしくない。
絶対侯爵家を取り潰しにしてやる。
そう思っていたのが顔にでてしまっていたのか、騎士たちが少しずつ後退していくのに気づいたのは、だいぶ後のことだった。




