2_5.
伯爵家に手紙を送ってから3日後。
伯爵から返事が返ってきた。
支援がとてもありがたい、と。この恩は一生忘れないと。
好きな人の父という色眼鏡を外しても、伯爵の素晴らしい人柄は変わらない。
いや、この人の娘だからラナ嬢はあんな風に笑えるのだろう。
今まで俺が逃げていた女性の多くは、親にそうあれと求められるままに暮らしていた結果心から笑えなく
なってしまっただけなのかもしれない。
確かに俺にとっては苦手な心を殺したような笑い方は、多くの人に美徳とされる。
逆に俺が好きになったあの無邪気でほがらかな笑顔を下品とする人もいるだろう。
でも本当に幸せなのは、心から笑っているラナ嬢の方だと思うのだ。
...と、現実逃避していたのだが...さすがに断られるのが怖いという理由で手紙を読まないわけにはいかない。
先日使用人たちに散々なフラグを立てられまくったせいで精神に大きなダメージを食らっている。
あれがただの冗談で済めばいいのだが...。
...婚約の件ですが、こちらとしてはもちろん大歓迎です...
「執事」
「どうなさいましたか、旦那様」
「大歓迎と書かれていたのだが、私の目が悪くなっていないか、もしくは、頭が現実逃避していないか確かめて欲しい」
「大丈夫ですよ、ぼっちゃま。ようやくご結婚ですね」
「ぼっちゃまはやめろ」
「結婚なされてからは呼べないので今のうちにと思いまして。ところで、お返事は書かなくてよろしいのですか?」
「...そうだな、書こう」
3時間かかった。
さっきから嬉しさで手が震えてまともに字が書けなかったからだ。
「書き終わりましたか」
「ああ」
「実は、もう1通手紙があるのですが...」
「ラナからではないか!なぜ出してくれなかったのだ!?」
「出したらその後他のことが何も手につかなくなると思ったからです」
「...ありがとう」
執事には全てお見通しだ。
さすが、実力主義の我が家でトップの座を十数年譲っていないだけある。
気を取り直して手紙を開いた。
柔らかく可愛らしい文字が並んでいる。
きっと悩んで書いてくれたのだろう、所々でインクが溜まっている。
内容は支援に関する礼、それから、少しでも公爵様の役に立ちたいという可愛らしいものだ。
可愛い。
可愛すぎる。
そうやって悶絶していたせいで、文脈のわずかな違和感に気づかなかった。
当然だ。
まさか彼女があんな勘違いをしているだなんて、気づけるはずがないのだから。




