第4話 歴史-1
この世界は大きく分けて3つの国に分かれている。国土面積が大きい順に、ユーマニア帝国、砂岩王国デザート、カルセニア王国だ。
砂岩王国デザートは、名前の通り巨大な砂漠、〈無限砂漠〉を所有しており、年中暑い気温は他国の来訪を拒む。国土面積は大きいものの、他国との交流が少ない分技術力が乏しい為に砂漠の大半を持て余していた。無法地帯のようなところもあり、危険な魔獣がうろついているだの盗賊に私物を取られただのという被害報告が相次いでいる。首都であるカルノーラのみが唯一他国との交流を行なっていて、他の都市の者はわざわざカルノーラまで出向いて貿易品などの購入をしなければならなかった。
ユーマニア連合国は数百年前に急激に成長した国で、元々7つあった国のうち砂岩王国デザートとカルセニア王国を残した4つの国を吸収して1つの国となった。高い技術力は他国の追随を許さず、今ではユーマニア連合国の王=世界の王という風潮があるほどだ。技術力と広い国土面積を持ったこの国に手出しをする者など、愚の骨頂なのである。
カルセニア王国。この国は、人口約10万人ほどの非常に小さな国だ。決して技術力があるわけでもなく、戦闘力に長けているわけでもない。そんな大した特徴もないこの国が存在出来ているのは、立地に恵まれていたからであった。カルセニア王国は、砂岩王国デザートとユーマニア帝国に挟まれているため、情報や貿易品の行き来だけは極端に多い。それを生かし、中継貿易を行うことによって莫大な利益を得ることに成功したのだ。ユーマニア帝国と砂岩王国デザートの間には無限砂漠があり、横断は困難を極める。そのため、双方が渡る際にはカルセニア王国を中継して行くのが主流であった。ユーマニア帝国に吸収されるのを恐れた国王は、国家の全財産をはたいて貿易路を整備した。国を破滅に導きかねないその行動は物議を醸し出したが、おかげで貿易路の管理はカルセニア王国に一任されることとなる。当然その道を通る貿易品は彼等が管理することとなり、結果、ユーマニア帝国に吸収されることもなく、中継貿易という形をもって、カルセニア王国は発展の一途を辿ることとなった。
北のユーマニア、南のデザート、中心のカルセニアと来て、ユーマニアと隣接するように西に広がる大地がワールドエンドだ。誰にも手をつけられていないにもかかわらず、その地には草木一本生えることはない。ワールドエンドにあるいくつかの火山は活火山であり、それらが全て噴火することは、世界の破滅を意味するすると言われていた。そんな不毛の大地に足を踏みいれようとする物好きなどいるはずもなく、管轄はユーマニアが担っているが、それは形だけのものであった。
だが、30年前に出来た1つの森が、世界中に激震を与えることとなる。草木が生えることのないはずの土地に、カルセニア王国とほぼ同等の面積を誇る森が、突如として現れたのだ。問題なのは、それが出来た場所だった。いくつかある活火山の中でも最もユーマニア帝国に近い場所にある火山の隣に出来たことで、危険視して最初は誰も近づけなかった。しかし、その森から1人の男が出て来たことで、対応は大きく変わることになる。男は、ユーマニア帝国まで歩いてきた。森を観察していた帝国の監視人がそれを見つけて王に報告すると、直ちに調査団が派遣され、男に話を聞くことになる。
・・・
ユーマニア帝国の王ユウマは、いわゆる異世界人だった。ユウマは転生してから、あるチート能力を持ってこの世界を支配し、20歳にして国王となった。能力を持たない国民を支配することは、いとも容易いことだった。国名をユーマニア帝国と改め、自分の意のままに世界を変えることに決めた。そこで絶望したのが、この世界の生活水準だ。中世の西洋のような家に、大きな城。当時、電気機器もないのによく生活できるなとむしろ感心したものだ。それでも、ユウマのチート能力を持ってすれば、異国由来の車やテレビ、電気機器やらの生活必需品を次々と開発し、出来るだけ元いた国の生活に近づけた。戦闘機は戦車など、戦争が起こっても分ける事がないように新たな戦闘技術も開発した事で、誰もこの国に逆らう者はいなくなった。次に武力を背景に国を脅し、4つの国を吸収した。なのに、2つの国だけは脅しに屈しはしなかった。今まで全て上手くいっていたユウマにとって、それは屈辱的なことであり、すぐに武力を持ってねじ伏せようと考えた。しかしユウマはバカではないので、2つの国の有用性について考える。それらの1つカルセニアは、砂岩王国デザートとユーマニア帝国を繋ぐ貿易路として必須であり、最近急激に発展して来ていた。ここで吸収を拒否されると、最悪貿易路が使えなくなり危険な無限砂漠を行くことになる。あの場所は歩けば死ぬし、戦闘機で飛ぼうとも魔物に墜落させられたことがあった。カルセニア王国までなら辿り着いて侵略出来ようとも、砂岩王国デザートを侵略する上でカルセニアの許可は必須。面倒な未来を思い浮かべ、ユウマは2つの国を放置したのだった。ここまでが、ユウマが転生して来てから90年の出来事である。
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ユウマは、満たされた気持ちで台座に深く腰を下ろし溜息をはく。それはこれまでの苦労故の溜息なのか、これから訪れることになる苦労を見越してのことなのか。
バンとドアが開け放たれると共に、焦った様子の兵士が走ってきた。ノックもせずに入ってきた無礼な行動にイラつきながらも、無言で兵士の言葉を待つ。
「申し上げます。魔法大国レグザイアに動きが見られたとの情報が入りました。」
ちっ…ユウマは小さく舌打ちをすると、兵士に下がれと伝える。部屋から退出する兵士を見送り、ユウマはまずいことになったと頭を抱えた。人間側の世界はほぼ制圧したも同然だったが、どうしても思い通りにならない事が一つだけあった。それが、魔法大国レグザイアの存在だった。ユウマが王となったちょうど同じ時期に、ユーマニア帝国の西に突如として出現した国。国土はカルセニア王国とほぼ同じでユーマニアの首都ほどの大きさしかない。だが、そこに住む住民は全て能力者なのだ。ユウマも同じように能力を持っているが、自分が統括するこの国に能力者はユウマ1人しかいない。そもそも、転生してきた自分しか能力は持てないと思っていた。だからこそ、魔法大国レグザイアが出来たことの影響は計り知れない。もしも向こうから攻めてきたら、勝てるかどうかもわからなかった。幸運なことに、魔法大国レグザイアの王はこちらと敵対する気は無いようだし、それ以前に人類と関わる気もないようだった。不可侵条約の締結を提案されたユウマは、すぐに了承した。これはチャンスだと他国と自分の国の住民にさえも魔法大国の存在を隠し、体裁だけは不可侵を保ちながら、彼らをどうにか利用できないかと貪欲にも考えていた。思えば、それが間違えだったのだろう。ユウマは愚かにも、魔法大国レグザイアに対して戦争を仕掛けた。ただ、最初の方はユーマニア帝国が優勢だった。能力者は確かに強いが、戦車や戦闘機などの技術力は能力者をも上回った。戦況が大きく変わったのは半数以上の能力者が死に、こちらも兵の3分の1を失った頃だった。突如として現れた1人の能力者によって、ユーマニア帝国の兵士は皆殺しにされることとなる。白い髪に白い目が特徴的な若い男。そいつの能力は液状化だった。体を液体に変えたり、触れたものを液体に変えたりと。その力は猛威を振るい、次々と戦車を無力化していく。それでも、戦闘機には敵わなかった。油断したそいつは上空からの攻撃をもろにくらい、体の大半を持っていかれた。血の海と化した戦場に倒れ、そいつはもう虫の息だった、はずだった。トドメを刺しにいった兵士が、誰の目にも映ることもなく、消えた。代わりにそこに立つのは、失った体を地面から吸い上げた血で再構築する姿。髪は漆黒に染まり、瞳には獰猛に真紅に染まる。戦争が終わるのに、それから5分もかからなかった。そいつが目を見開くと同時に、目の前の戦車が溶けてなくなる。目があった歩兵を片っ端から液体に変えて行く様に、誰もが戦慄を覚える。目を合わせないように後ろに逃げ帰ろうとするものも関係なく、一度そいつを見た事があるものは液体に変えられていった。唯一見ていないのは、レーザー越しにそいつを捉えていた戦闘機の乗組員。彼らは焦らず標準を合わせ、砲撃を開始する。銃弾は狙い違わずそいつの体へ吸い込まれていくが、1発も当たることはなかった。銃弾が当たる直前、そいつはしっかりと銃弾を見た。それだけで、全ての弾が液体に変わり威力を削ぎ取られる。次の瞬間そいつの姿が搔き消え、次に現れたのは上空だった。マッハ2を超える戦闘機に軽々と飛び乗り、液体になり機内に侵入する。何もできない乗組員を溶かし、機外に出る。一連の動作を4回繰り返した時には、空を舞っていた機械は全て機能を停止して墜落していった。この時点で、人間側の生存者は0。それでも、そいつは止まらなかった。次に狙うのは能力者たち。理性の飛んだ化け物には、彼らが元々仲間だったことを理解する脳は残っていなかった。ただ本能に従って、殺す。後に駆けつけた精鋭部隊によって始末されたが、能力者の被害は300人を超えた。誰も得をしない争いは、これを持って終わる、、ことはなかった。




