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1-23 色々値踏みしてみた。

 みんなじっと俺とグラスコーを見ている。

不安そうな顔だ。

そりゃそうだよな。

俺がこいつを殴れば、取引ができないかもしれない。

この無主の土地じゃ手に入らない物はいっぱいある。

鉱山もなければ、畑だって作れない。

生えてるのは、人間の食えない草ばっかりだ。

水にだって事欠いている。

「おい。心配しなくて良いぞ?お前に殴られたくらいでハンスとの取引をやめたりしない。」

 俺は、グラスコーの顔を見る。

無表情だが、どこか疲れているような雰囲気を感じた。

とりあえず、この場で手を出すのは間違っているような気がする。

この男が言っていたのは、表現はともかく間違ってない。

安い物を高く売り、高い物を安く買う。

商売の基本は、詐欺に近いものがある。

 でも、それは商売をする側の苦労を無視すればと言う話だ。

それに何となくだが、こいつ殴られたがってるように見えるんだよな。

「マゾを殴るほど俺も、お人好しじゃねえよ。」

 あー、マゾって通じるんだろうか?

「誰がマゾだ!!失礼な奴だな!!」

 お、通じた。

グラスコーは初めて表情を変えた。

まあ、いい感情じゃないけど、顔をしかめさせてやっただけでも溜飲が下がる。

「旦那。あんまりヒロシをからかわないでください。」

 ハンスはグラスコーをなだめるように間に入ってくれた。

グラスコーの方は、しばらく悔しそうにしていたが無表情に戻ってく。

 しかし、まあ……

 こうなると一番大人げないのは俺だよなぁ……

「その小僧が何者なのかは知らんが、後で話がある。借りても構わないか、ハンス?」

 落ち着いて、後で復讐って事じゃないと良いなぁ。

一応、こいつについて街に行く予定だったんだけど、このままだと拒否されそうだし交渉材料を探そう。

相手に俺という存在が価値があるのか、少しでも知らないとな。

冷静な商人って言う時点で勝ち目があるかどうか分からんが、何もしないよりはいい。

グラスコーがハンス達から受け取った商品をしまうのを見ながら俺はグラスコーの荷馬車に乗っている商品を”鑑定”していく。

一番目につくのは、500万円もするホールディングバッグ、武器の類も200万円くらいする槍とかもある。

商品名がスピア+1とか言う名前なのは、やっぱり俺が基準になってるからなんだろうな。

 ただ、俺の理解していた魔法の槍とはやっぱり性能は違う。

たかが+1の槍なんてゲームの中じゃ大したことのない性能だ。

命中率ロールに+1、ダメージ+1点程度のカスみたいな物でしかない。

現実に置き換えてみると、それはそれで凄い性能だ。

槍での損傷が作り方一つで跳ね上がるなんて事は普通はない。

切れ味は材質によって増大することはあっても、損傷は刃物の大きさを超えることはできないし。

命中率だって基本的には使用者の熟練度で変わることはあっても、槍が変わって明確に命中率が変わるなんて事はない。

槍に200万とか言われても、どこの骨董品だとしか思えないような値段だが、実用品として十分に値段通りの価値があるって考えても良いだろうな。

もちろん俺のいた世界なら、もはや無用の長物であることには変わりないんだけども。

 だが、それよりも重要なことがもう一つある。

もしかしたら魔法の武器全般に言える能力かもしれないが、あの槍は自動修復する。

凄く簡単な話だが、普通の武器はすぐ壊れるものだ。

正確な人数はともかく、多くても一桁くらい相手にした時点で大抵は使い物にならない。

だから、普通の武器はハンスが注文していたように交換部品を購入し、修復しながら使う物なのだ。

 それがこいつなら必要なくなる。手入れも不要だ。

まあ、さすがにへし折られたりしたら、その限りじゃないみたいだけど。

それでも現実ではあり得ない代物だ。

欲しい。

 あー、いやどう考えても手が届かないから他の商品のことを考えよう。

 んで、グラスコーが持っているマジックアイテムの中で最高値の物が目に入ったわけだが……

無限の水差しだ。

見た感じは単なる水差しに見えるが、中に水を入れなくても注ぐように傾ければどこからともなく水が出てくる。

出てくる量は、普通に注ぐ程度の勢いしかないが、傾け続ければ途切れることがない。

まあ、それだけでも充分凄い代物だろう。

 だけどキーワードを唱えると、その水の勢いは毎秒19リットル程度に増える。

例によってガロン単位が基本らしいのでリットル単位だと端数が出るわけだが、リットルじゃないと理解しにくいしな。

まあ、もっと分かりやすく言うなら、ちょっとした放水車並みの勢いだ。

900万円なら、誰でも欲しがるよなぁ……

補給いらずの放水車にできる。

キーワードを唱えたときに、反動があるらしいけど放水車のホースと比べれば大したものじゃないだろう。

消防関係なら10倍の値段でも飛ぶように売れるんじゃないか?

いや、ちょっとした灌漑とかもできるかもしれない。

砂漠の国に持って行けば、環境が変わるレベルの代物だ。

決して、こんな僻地に来る行商人が持っていていい代物じゃない。

「おい、何見てやがる……」

 不機嫌そうな声で、グラスコーが俺の前に立ちふさがった。

「あ、いや……その……」

 やばい、あまりにも凄い代物で見入っていて、怪しまれてる。

上手い言い訳も思いつかないな。

どうしよう。

「値踏みするなら、もうちょっとさり気なくやれよ。

 そんなに物欲しそうな目をしてたら、足下見られるぞ。」

 しっしっと、犬を追い払うように手を振る。

どう考えても、まともな商売人には見えないんだよなぁ……

 いや、もしかしたら俺たちみたいな人間を相手にしている商人じゃないのかもしれない。

これだけ高価な物を扱ってるんだ。

もしかしたら、貴族や王族を相手する大店なのかも……

 でも、じゃあなんでこんな僻地に来るんだ?

俺は完全にグラスコーの評価ができなくなってしまった。

色々と可能性はある。

もしかしたら、マジックアイテムがこちらの世界にありふれた物で、安く手にはいるが地球では存在しないため評価が高い可能性だってある。

もしくは、無限の水差しは価値がないと評価されて投げ売りされていた可能性も……

 うーん……

 どれが正解なんだろう。

 しかし、一回反抗的な態度をとってしまったので、俺の側からは話しにくい。

悪い癖だと思うんだが、態度を改めて色々質問したりするような社交性は身につけていたら、苦労しないんだろうが……

さすがにへらへら笑ってグラスコーさんなんて言いづらい。

そんなことで悶々としていたら、馬の走る音が響いてきた。

結構な数だから、ロイドが他のキャラバンと合流し戻ってきたんだろうな。

俺はじりじりとグラスコーとの距離をとり、牽制するように睨んみ余計なことを言わないように気配を消していく。

いや、別に本当に気配が消せてるわけじゃないだろうな。

そんなつもりになってるだけで、単にグラスコーの意識がキャラバンの方向に向かってるだけなんだろうけども……



「なんだと! 野郎ぶっ殺されてえのか!!」

 ローフォンの怒号が当たりに響く。

「やれるもんならやってみろ三下。ギルドが黙っちゃいねえぞ……」

 それをこともなげにグラスコーは受け流している。

ギルドね。

そういえば、冒険者ギルドとかあるのかな?

ハンス達は、そんな物には一切触れてなかったけど。

 もし、そんな物がないというなら、グラスコーの言うギルドはハンザ同盟とか、そういう通商ギルドの事なんだろうな。

国家と渡り合うほどの力を持つ商人達の集まり。

そういう組織があっても不思議ではないよな。

ローフォンがギルドと言われて歯ぎしりしてるって事は、つまり俺の想像通りって事でいいのかな?

「旦那、さすがに俺も納得がいかねえ。理由くらい教えて貰えねえか?」

 アジームの方は割と冷静なようだけど、今回の取引はやっぱり正常ではないんだろうな。

二人そろって納得してない様子だ。

「お前らに言って納得するかどうかは知らんが、要は麦にしろ布にしろ出回ってないってだけの話だ。」

 つまり品薄による高騰って事みたいだな。

グラスコーの言葉にアジームはどこか納得している様子を見せてる。

何かしら情報を掴んでるのかな?

まあ、考えられるのは不作、もしくは不作後の復旧需要で手に入れにくい。

もしくは戦争準備のために物資集積が行われている。

俺が予想できるのはこれくらいだな。

どっちにしろ、あくまでもグラスコーが嘘をついてなければって話なんだけど。

いつもいつも、ぼったくっているならこんなやり取りにはならないよな。

良かった、勢いに任せて殴らなくて。

「出回る出回らないなんぞ知ったことか! あと500ポンドはよこせよ!!」

 ローフォンの叫びも分かる。

死活問題に繋がるもんな。

面子の問題もあるんじゃないだろうか?

「いっつもお前はそれだな。取引材料もなく値切るんじゃねえよ。」

 アジームは呆れたように肩をすくめている。

と言っても、アジームの方も取引した量に満足している様子でもないようだ。

手振りで手下に追加の物品を取りに行かせている。

「言っておくが手持ちが残り少ないぞ? 叫ぶ前にやることがあるんじゃないか?」

 グラスコーの言葉にはっとして、ローフォンはアジームを睨む。

「てめえ、抜けがけすんじゃねえよアジームぅ。おい! 剣とか斧とか余ってたろ!! 持ってこい!!」

 早速とばかりに、追加の交易品を持ってこさせてる。

やっぱり商人とのやり取りはこういうもんだよな。

ハンスがすんなり終わらせすぎだ。

まあ人数が多ければ、妥協できない部分が出てくるから、そこに違いがあるのかもしれない。

 でも、やっぱりハンスは素直すぎるよな。多分。

しかし、よくもまあ、こんな強面二人を相手に強気でいられるもんだ。

護衛すらも連れてきてないって、どういう神経をしてるんだろうか?

 そうそう、護衛だ。

考えてみれば、あんな高価な物品を持ち歩いてるのに、護衛の姿形どころか影さえない。

どう見ても、グラスコーが荒事になれているようには見えないんだけど。

 いや、まあ……

所詮素人の俺には、この中で誰が強くて誰が弱いかなんてさっぱり分からんけども……

「なあ、ハンス。グラスコーって強いの?」

 まあ分からないなら、聞けばいいよな。

「いや、旦那はからっきしだな。多分、ヒロシの方が強いよ。」

 俺の方が強いって、どんだけ弱いんだグラスコー。

ハンスは俺のことをからかってるのか?

「じゃあ、護衛も付けないで平気なのかよ。」

 思わず俺もしかめっ面になってしまった。

ハンスは、そんな俺を見て曖昧に笑った。

「まあ、取引が終わるまでの身の安全は俺たちが守ることになってるんだ。」

 俺は、ハンスの言葉が釈然としなくて首を捻った。

護衛を連れていないのは、ハンス達が護衛役を引き受けてるって事でわかるけど。

取引が終わるまでってことは、別に道中の護衛をする人間がいるって事だよな。

じゃあ、なんでその護衛は連れてこないんだろうか?

「旦那は旦那で街の人間を護衛として雇っているんだが……

 護衛がキャラバンの人間と揉め事をたびたび起こすもんだから、取引現場には来なくなったんだよ。

 それで、俺たちが旦那の護衛役を引き受けることになったんだよ。」

 ハンスの説明で大体は納得がいった。

 でも、少し疑問も残る。

「まあ、揉め事云々は良いんだけど、ハンスがいなかったら取引はしないのか?」

 まあ、当然の疑問だよな。

特定の窓口しか存在しないなら、取引の手間が増えてしょうがないだろう。

「いや、そういうときは旦那一人で対処って事になる。あんまりおすすめはできないが、度胸だけはある旦那でな。」

 度胸とか以前に無謀な気もするんだが、どっちにしろ取引の時は街の人間は連れてこないのは分かった。

俺だったら心細くてごめんだな。

 あ、これは取引材料にできるかもしれない。

最も、グラスコーがこの無主の土地での取引に、どれだけ比重をおいているか分からないと何とも言えないけどな。

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