4-26 ドローン飛ばしたらワイバーンに襲われた。
現代の利器を使えば何でもうまくいくってもんじゃないですよね。
「ねえ、ヒロシ、やっぱりこれは変かしら?」
ベネットは自分の剣を前にかざして、悩むように言ってくる。
馬車に揺られながらなので、のんびりしているようにも見えるだろうけど、一応警戒は続けている。
何度か怪しい動きを察知して、道を変えたりしながら馬車を走らせてるので、完全に気を抜いているわけでもないけど状況は落ち着いている。
だからなのか、ちょっと気晴らしにとベネットが声をかけてきたわけだけども。
やっぱり衛兵たちの反応が気になるのかもしれない。
まあ、なんというか今のベネットの剣は通常の剣とはやや違った形になってしまっている。
というのも、どうもミスリルは軽すぎるようで振るううちに不満がたまってきていたらしい。
だから、今の彼女の剣は渡した時とは違い装飾というべきか、オプションのようなものが付け加わっている状態だ。
「かっこ悪いという反応じゃなかったんだし、気にしなくてもいいのでは?」
丁度、刀身に溝があり、そこを埋めるように金属の筒が配置され、それを押さえるように青銅でカバーがされているような状態だ。
切っ先や刃の部分にはかかっていないので切れ味に支障が出る装飾じゃないけど、まあ変わってはいる。
筒の中には水銀が仕込まれ、振るうと根元にあった水銀が先端に移動し、重心が動く仕組みになっているのは理にかなった改造だろう。
なかなか面白いと思う。
青銅の分で全体的な重量バランスもとってあるから、どれもベネットが使いやすいように手が加えられた結果なんだけど。
なんというか、ヒーローもののヒーローが使う剣みたいに見えなくもない。
どっちにしろベネットが使いやすいなら、それに越したことはないだろう。
「むしろかっこいいかっこいいって持て囃されたから、気になったんだろう?まあ、ちょっとヒロイックな形だと僕も思うよ?」
双眼鏡を覗きながら、トーラスが話に乗ってきた。
「やっぱり鉛の方がよかったんじゃないかしら。」
確かに鉛は加工がしやすい金属だ。とはいえ体に蓄積されると神経をやられる。
なので、鉛で今の加工をしようというベネットに対して、俺が強く反対した。
結果、青銅なわけだけども。一瞬金細工にも見えなくもない輝きなのでやいのやいのいわれたらちょっと微妙な気分なのもわかるな。
特にミスリルの白い輝きに金だから余計正義のヒーローっぽい。まあ、いずれ錆びていけば色も落ち着いた色合いになっていくだろうから、しばらくの辛抱だとは思うけども。
しかし、こういう改造を得意とする鍛冶屋がモーダルにもいたんだなぁ。生活用品を扱う鍛冶屋ばかりだと思ってたから見逃してた。
場合によれば、自分も何か依頼するかもしれない。
「色が問題なら塗装しますか?」
俺は気軽に提案してみた。
「そういう問題じゃないような気もする。ちょっと考えておくわ。」
そういうとベネットは剣をしまう。
「そろそろ、見張りを交代しましょうかトーラスさん。」
会話の切れ目ということで、馬車の操作と見張りを変わる提案をする。
今回はいろいろとできることも多いので、一つ試してみたいことがあった。
「前と違って、意外と落ち着いてるから助かるよ。もしかしたら前より腕が上がったのかもしれないけれどね。」
そういいながら、御者台の方にトーラスがやってきたので、手綱を渡す。
「確かに、お二人とも見違えるくらい立派になって、俺が取り残されちゃいましたよ。才能の差ですかね。」
そんなことを言いながら、カメラ搭載のドローンを取り出す。
これで高高度から偵察すれば、より詳細に周囲の警戒ができるだろう。
森や林のような上空から遮蔽になる様なものがないから、なおさら有効なはずだ。
一応コントローラー代わりになるタブレットも購入してあって、これを中心に自動で追従するように設定してある。
流石に取り出してないと通信してくれないらしくて、タブレットは取り出さないといけない。
GPSは衛星がないと機能してくれないので座標指定もできないし、いろいろ苦労した。
早速飛ばしてみる。
徐々に高度を上げていき、ある程度の高さまで行ったらカメラから送られてくる映像を見る。
自動でぐるぐる回るようにしているし、広角なので死角もない。
任意で動きを止めて、カメラの角度を調整することもできる。なかなかの高解像度で、思ってた通りに機能してくれている。
ただ、長時間、ぐるぐる回る映像を見ていると気分が悪くなってきた。
そんなに高速で回転はさせていないけど、一旦停止させておこう。
進行方向に固定する。カメラが2台あれば、前方と後方を画面分割で固定して置けば全方位カバーして、なおかつ動きも少なくて酔わないかもしれないなぁ。
と言っても、買ったドローンはカメラが一台だ。仕方がないので後方は自分で双眼鏡を覗こう。
ドローンのおかげで、ランドワームという巨大な芋虫というか、胴体の長いワニというべきか、そんな化け物やら、肉食恐竜みたいな群を回避して順調に旅を勧めることができている。
これは、思った以上に助かった。
ただ遠隔で観察して感じたけど、こんな危険な生物がうじゃうじゃいる中、それを縫うように生活をするのはとても苦労するだろうな。
時折、無残に亡骸をさらしているキャラバンの跡なんかも見える。
ドローンで見ているから、さほどグロテスクには感じないけど正直恐ろしい。
何にやられたんだか分からないけど、気楽な生活というには程遠いな。
吹きすさぶ風も強く、上空に飛ばしたドローンも風に流され、位置がどんどんずれていってる。
それでもちゃんと圏外に行かずについてきてくれてるからありがたい。
自動車を優先すべきかとも思ったけど、こんな危険な場所を何も考えずにぶっ飛ばしていったら、途中で何に襲われるか分かったもんじゃないな。
ある程度は、自動車の中でやり過ごせるかもしれないけど、ランドワーム相手には装甲車でも危ないんじゃなかろうか?
双眼鏡から目を離し、再度タブレットに視線を戻す。
映像が途絶えていた。
結構流されていたから、ドローンが居た位置がいまいち把握できない。
「注意してください。ドローンが落された。」
タブレットをしまい、槍を取り出して双眼鏡で空を見渡す。
「いた!!7時方向、あれはワイバーンか?」
結構速い速度でこちらに向かってきてる。
自分たちを狙っている可能性は高い。
急いで、《盾》の呪文を唱える。
クロックポジションについては、おおざっぱに伝えているので、ワイバーンから離れる方向には進んでくれている。
とはいえ、速度が桁違いだ。
いずれ捕捉される。
「ヒロシ、迎え撃つって事でいいのよね?」
インカム越しにベネットが確認してくる。
「迎え撃ちます。多分逃げ切れない。手筈通りお願いします。」
俺は馬車から飛び降り、《巨大化》の呪文を唱える。
その間に馬車を止めたトーラスは、離れるように走りながらライフルを放っている。
よくそんな無茶な動きで外さないもんだ。
すべて頭に命中している。
確実にダメージは与えているはずだけど、ひるんでいる様子がないワイバーンも恐ろしいが。
もっと大きい口径の銃やミサイルでも買っておくべきだろうか?
でも、さすがにミサイルは高すぎる。予算オーバーすぎるんだよな。
「よし!!掛かって来い!!」
俺は大声を張り上げてワイバーンの注意を引く。
《巨大化》の呪文は体だけじゃなくて声も大きくしてくれて助かる。
見かけは、大体倍くらいの大きさまで大きくなれるので、馬車より目立った的になるだろう。
大きくなれた分筋力も若干増すし、装備もそれに合わせて大きくなってくれる。
ただ、軽自動車並みのワイバーンと大きさでは見劣りしないけど、鑑定で確認したワイバーンのステータスと比べると明らかに俺の方が貧弱だ。
何とかなるだろうか?
ただ、もうそんなことは言ってられない。
ワイバーンは俺めがけて突っ込んでくる。
よかった、これで馬車の方を狙われてたらシャレにならない。
迎え撃つために俺は槍を構えた。
ワイバーンの戦術はとびかかりだ。
狙った獲物に上から圧し掛かるように攻撃を加えてくる。
飛び回りながら攻撃してくるような器用さはない。
それに、地上にいったん降り立ってしまえば飛び立つのに苦労する。
そこまでは、ゲーム内の知識だ。
果たしてどうなるだろうか?
《盾》を前面に出し、衝撃に備える。
突っ込んできたワイバーンに俺の槍は弾かれた。
滅茶苦茶硬い外皮だ。
ガツンっと衝撃が来る。
まずは噛みつき、そして左右の翼が振るわれる。
これが瞬間的に俺の体を襲ってくる。
だが、ワイバーンの恐ろしさはこれだけじゃない。
普通の生き物ならこれだけだって十分死ねる。
その上で、しっぽが振るわれた。
この攻撃が恐ろしいので、俺は《盾》をこの攻撃に合わせるのに集中していた。
おかげで噛みつかれたところは抉られてるし、たたきつけられた羽で、腕が引きちぎられそうだ。
しかし、次の一撃、ちょうどワイバーンの振るわれたしっぽの先に突き出す棘に触れるわけにはいかなかった。
この棘には麻痺性の毒があり、下手をすれば身動きが取れなくなる。
こういう隠し技みたいなものを持ってるのがワイバーンの厄介なところだ。
魔法で作り出された障壁で受け流し、何とか事なきを得られる。
だけど、体勢を立て直せていない。
呪文を打つにしても、もうワンセット凌がないとならない。
だが、その追撃が緩む。
横合いから、ベネットがワイバーンに馬ごと突っ込むような突撃をかましてくれた。
よし!いける!!
俺は《蜘蛛の網》を唱えてワイバーンを粘着質な網で覆う。
場合によれば、うまく絡みついてくれないこともあるが、今回はうまくいった。
暴れれば暴れるだけ絡みついていくだろう。
幸い槍はへし折れていない、思いっきり暴れるワイバーンに叩きつけた。
トーラスの銃撃やベネットの剣撃が確実にワイバーンの体力を削っていってる。
破れかぶれになってはなってくる攻撃も徐々に弱まった。
俺は、石突でワイバーンの顎をかち上げた後に、浮き上がった頭を叩き潰す勢いで槍を振り下ろした。
それがとどめの一撃になったのか、もがく動きも収まる。
ただ、厳しいのはここからだ。
これだけ暴れたんだから、他の化け物に察知されてないとは言い難い。
早々に撤収準備に入らないと危険だ。
変な電子音が鳴ってるけど構ってる暇は余裕なんかない。
バトルロイヤルゲームみたいに漁夫の利を狙われたらシャレにならないからだ。
丁度《巨大化》の呪文の効果も切れてしまった。
とっとと逃げる準備をしよう。
「ヒロシ、尻尾はいるの?」
斬り落した尻尾をもって、ベネットが訪ねてくる。
んー、どうしよう。あんまり考えてる暇はない。
その間にベネットが噛みつかれた首筋に触れてくる。
癒しの手で傷を治してくれるのはありがたいけど、くすぐったい。
「全部持っていきましょう。痕跡はあまり残さない方がいいかもしれない。」
急いでワイバーンの体を特別枠に納める。
意外とカツカツだなぁ。
8枠もあれば余裕だと思ったんだけど。
スノーモービルのレンタル期間が過ぎててくれて助かった。
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