4-25 お風呂を用意するのは駄目だろうか?
どうもお風呂に入らせたくて、結局そういう世界なんですと無理やりこじつけました。
寒空の下、女の子の鼻歌を聞きながら周りを警戒するって経験はなかなかない。
まあ、漫画なら覗きを警戒して先生が立ってるってシュチュエーションならあるかもしれないが、覗きじゃなくてモンスターが相手だっていうのがちょっと斬新だな。
スノーウーズみたいな厄介な相手もいるので、雪かきをしてなるべく遮蔽を減らしている。
夜闇も見通せるように暗視ゴーグルも購入しておいた。
ちゃんと、光ダンパーも入ってるから、急に明るい光に当てられても目がくらまない奴を買っている。
屋上では、トーラスが見張っててくれるから、問題ないだろう。
どんな会話をしているのかはわかりづらいけど、そんなに騒がしくはない。
静かだし、動物が時々顔をのぞかせる以外は動くものも少ない。
当然だよな。冬だもん。
誰も、寒い時期に活発に活動したりしない。
もちろん、例外もいるから警戒しないってわけにもいかないけど。
まあ、こういう警戒をしている時に余計なことを考えない方がいいよな。
しっかり見張ろう。
お風呂は終わったんだろうか?
水音がやんだ。
ため息が漏れる。部屋の中なら安心だ。
とか言って、こうやって安心すると何かに襲われるってのは定番だ。今回は何事もなく済んだようだけども。
しばらくしたら、ドアが開いた音がする。
玄関からだから、たぶんベネットだろう。
「ヒロシ、交代しましょ。しかしこれは、すごいわね。闇の中でもはっきり見える。」
歩きながらベネットが暗視ゴーグルをつけたり外したりして効果を確かめている。
しかし、考えてみると、交代で入ると湯冷めしそうだなぁ。
一応完全防備ではあるけども。
「ありがとう、さっさと済ませるよ。」
風呂に入るのに、準備とかいらないけど、直接風呂を隠してる幕をめくったらレイナがいるとかいう可能性もないわけじゃない。
だからちゃんと玄関の方に回って、ドアをノックして入りまーすと声をかけた後、気の抜けた返事を聞いてから部屋の中に入る。
「随分と警戒してるね。」
人が住んでるんだから対策はあるのかもしれないけど、念には念を入れておいて損はないだろう。
「練習みたいなもんですよ。いざというときの為です。」
俺の返事にレイナは呆れたような顔をする。
「天然なのか何なのか、あの子と相性はいいんじゃない?下手に疑われるようなことはしないのが身のためだよ。」
あー、そっちの話か。
それはそれで警戒はしてたけどね。
別にベネットだからじゃなくて、女性関係は経験がないから上手な立ち回り方が分からないだけだ。
「単にそっちは器用じゃないだけですよ。うまい事渡り歩くやつもいるでしょうけどね。」
そういいながら、俺は風呂に向かった。
上着や靴下は脱いで入ったけど、わざわざ触らなくても触れてる部分から順次インベントリにしまえるので、割と手早く裸になれる。
身に着けるのも、動作無しで身に着けることも可能だけど、変身ヒーローみたく即座に動くには服がよれてたりしてしまうので、うまくはいかない。
でも鎧を手早く着れると思えば便利かもしれない。
ともかく体を手早く洗い、さっさと湯船につかろう。
あったかい。
お風呂はいいねぇ。
とりあえず敷いたビニールシートとすのこも機能してるみたいで泥まみれにはなってないし、これなら十分だろう。
あんまり長風呂もよくない。
適度にあったまったので、装備を整えたら外に出てトーラスに声をかける。
「お風呂出たよ?警戒ご苦労様!!」
屋上の縁から、トーラスが顔をのぞかせる。
「多分警戒いらないよ。周辺に動物以外はいなさそうだ。」
そういいながら、トーラスは顔を引っ込めた。
一応確認のために、裏口側に回る。
「ありがとうベネットさん。冷えてないですか?」
「ううん、平気。でも、旅の途中でお風呂に入れるとは思わなかったわ。」
割とベネットはお風呂好きだよな。
用意してよかった。
どこでも、というわけにはいかないけど、お風呂が入れそうなら準備しよう。
「ちなみにこれは、キャラバンの人たちに渡すのよね?」
まあ、ベネットの言うことは当然な疑問だよな。
帰りはどうするかってことだ。
「一応、もう一つ用意してあるんだ。さすがにこの大きさは難しかったから、一回り小さいけどね。」
おかげで大分資金的につらい。
もちろん、運転資金や証書みたいにすぐ現金化できないけど、ちゃんとした資産は取ってある。だからいざとなれば、それを売れば何とかなる。
「一応、お風呂も準備できるようにはしてあるけど、同じ形だからね。中にちゃんと入れられれば良かったなぁ。」
そういってると、お風呂の水音が聞こえる。
トーラスはサウナの方が好きだって言ってたから、サウナも準備できればよかったなぁ。
贅沢を言えばきりがない。
「さすがに、そこまでは高望みよね。慣れちゃったら、怖いわ。」
そうだよね。
傭兵は汚れを気にしてられない仕事だ。
時には泥どころか、もっと汚いものにまみれて仕事をこなさないといけない。
でも、なるべく綺麗にできる環境は整えてあげよう。
レイナは自分の家に戻って寝るということで、コンテナハウスに残ってるのは三人だけだ。
5人で寝れるように作ったのでベッドはちゃんと三人に割り当てられる。
もう一つの方もベッドは3つあるから問題ないはずだ。
明かりを消して、全員横になる。
なんだか寝付けないな。
まさか、こんな形で告白することになるとか。
結果としては、拒絶されてないんだから良しとすべきなんだろうけど。
彼女の望みが叶うまでは、すべてが終わるまでは待つとは言ったけど、その時まで、その気持ちを持ち続けてくれるかな。
案外、あっさり終わって俺がフラれて終わるかもしれない。
まあ、それならそれでいい。
むしろ何も叶わず終わってしまうことの方が怖い。
できうる限り力を貸そうと思うけども、うまくできるだろうか。
本当に俺は間抜けだからなぁ。
余計なことをしてたり、できることをやってなかったり、そんなことは無いかと不安でしょうがない。
モーラ様に願う気にはなれないけど、できればウルズ様、彼女の道行きをお導きくださいますように。
何処かで酷いって言うような声と優しく微笑まれた気がしたけど、眠気が勝った。
おやすみなさい。
翌朝早くに目が覚めたので、早速出発の準備を始めた。
レイナが渡すと言っていた漫画本の代わりになる書籍データはちゃんと販売があったので良かった。
ベネットに譲られた本はセリフの部分に付箋を貼って、丁寧に翻訳してある。
いい仕事するなぁ。
いっそのこと、パソコンを渡した方がよかったかもしれない。
pdfで編集すれば、元データを残したまま翻訳できると思うんだよな。
しかし、この付箋なにでくっついてるんだろう?
コンテナハウス内にものが残っていても、一緒にしまえるので忘れ物をチェックする必要はないし、インベントリ内から特別枠を経由して取り出しもできるから気にしなくていいとは言った。
けど、やっぱり人って言うのはそういうのが気になるものだ。
ちょっとコンテナハウスをしまうのに手間取った。
ちなみに、厩舎のロバたちを外に出して馬車に乗せたけど、実はこれも厩舎に入れたまま、コンテナハウスをしまっても問題ない。
特別枠に生物は入れないけど、収まるコンテナと入り口で挟まれて潰されるなんてことは無く、半透明になったコンテナからゆっくり降りてくるだけだ。
高いところにいても、けがをする要素はない。
慌てて飛び降りる方が危険だ。
そういう意味では二階建てにするのもありだったかな。
いずれにせよ、拡張はあとからでもできるし、資金がたまったらまた考えよう。
どのくらいまで拡張できるんだろう?
あんまり大きくなりすぎると取り回しづらくなるかもしれないし、あんまり無計画にやらない方がいいとは思うけども。
スノーモービルを順調に走らせ、日が沈む前に関所近くまで到達できてしまった。
雪も風に飛ばされ碌に積もっていない。
だけど滅茶苦茶寒い。これはきついな。
「そろそろ乗り換えましょう。ここから先は馬車で行きます。」
風よけの林の中に入り、スノーモービルをしまう。
そして、そりの板を外して、車輪をつける。
ベネットが手伝ってくれているから、割とあっさり作業は終わった。
ここまでは何とも順調だ。
ベネットも馬を呼び出し、撫でてやっている。
ベネットは愛馬と割とスキンシップしてたから、寂しがり屋なのかな?
馬によって性格は千差万別だから、実際のところ、どうなのだか分からないけども。
こちらは順調だけど、冬場の関所は本当に閑散としている。
初めて来た時とは雲泥の差だ。
前に、買い付け偽装の時に来たときはまだ人通りがあった。
今は、警備の衛兵しかいないんじゃないかというありさまだ。
基本通行税で運営されるけど、半分は国費から賄われているだけに、町として機能しなくてもいいのかもしれないけど、マジで辺鄙な場所だ。
ここに飛ばされてきた役人や衛兵は悲惨だな。
「止まれ、身分を証明するものを!」
流石にここまで閑散としてると目立つよね。
身分を証明するものを求められたのは今回は初めてだ。
一応、念のために用意して置いてよかった。
聞く話によれば、ほとんど抜き打ちみたいなもんで滅多にそんなことはないらしいけど、ちょっと警戒はしていた。
何せ俺の顔が顔だ。グラスコーは必要ないと言っていたが、ライナさんにお願いしておいて正解だったな。
誰のもとで働いているか、ギルドに所属しているか、それを証明する印章。
トーラスと、ベネットの方は暁の盾の印章が入った書類だ。
これが無かったら、人相書きを描くための費用と保証金として余計な金がとられる。
一人金貨1枚分くらいの費用を取られるので馬鹿にならない。
普段は、荷物が多ければ、通行料の他にかかる重量税が要求されるけど、今回はほとんど何も持ってない。
ベネットとトーラスの荷物、あと申し訳程度にホールディングバッグに詰めた日用品程度しか表には出していない。
馬車は馬車で税がかかるから、1度通るだけでも結構な出費だ。
これで、もし収納の能力が無かったらと考えるとちょっとめまいがする。
「お疲れ様です。こちらが書類です。よろしいですか?」
風で飛ばされないように、バインダーで止めている書類を渡す。
「おお、助かる。みんなこういう風にまとめてくれてると助かるんだがな。」
ちらりと衛兵がベネットの方を見る。
「も……もしかして、暁の盾のベネットさんでは?……」
突然話しかけられベネットは面食らっている。
「え?あ、はい。そうですけど……」
「やはり、お美しい銀髪だ。お噂はかねがね。」
どんな噂だ。
正直面倒だなぁ。
こんなところで足止めを食らいたくない。
時間が惜しいのもあるけど、何より風が吹き荒れてるところで、馬車の上ってのは勘弁してほしい。
「あの、話があるんでしたら事務所か何処かで話しませんか?」
とっとと済ませてほしいが、邪険にすれば面倒ごとはさらに広がりかねない。
「そうだな。ちょっと待っててくれ。」
割と素早く詰所に戻ったと思ったら、即座に取って返してきて事務所の前まで誘導してくれる。
ベネットの馬なんか、衛兵たちが嬉しそうに厩舎まで連れてってくれるという特別待遇だ。
とはいえ厩舎を貸してくれるならありがたい。
「すいませんが、よろしくお願いします。」
馬丁さんたちも、ベネットに興味津々らしく仕事に身が入らないみたいだな。
「これであったまってください。」
適当にお酒をつかませておこう。
割と強い人たちが多いから、これくらいは平気だよな。
「こりゃ旦那、ありがたい。こう寒くっちゃ仕事に身も入りませんよ。」
「そうですよね。お仕事頑張ってください。」
適当に相槌を打ちつつ、衛兵連中に囲まれ事務所の中へ連れていかれる。
言葉にすると物々しいが、どっちかというとアイドルがファンに囲まれるのを横で見ているマネージャー状態に近い。
話しぶりを聞くと、どうやらベネットの活躍についての話題だから悪い話じゃない。
握手してくださいと、あの時はどうだったんですかとか、そういう話ばかりだ。
歓迎のしるしにと、ホットワインまで出してくれる。
蚊帳の外の俺たちにも一応渡してくれるから、悪い人たちじゃないんだろうけども。
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