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4-17 森の魔女はオタクでした。

100話ですか。

なんか、ここが区切りだと思うとちょっとびっくり。

 色々と帰郷への準備を進めているが今日は、ちょっとした懸案事項を解決しようと考えている。

そのためにアルノー村を訪ね、ジョシュ君の案内の下、暗い森の中を進んでいる最中だ。

彼の師匠が俺に会いたがっているという話をほったらかしにしていたので、新年の挨拶も兼ねてアルノー村に訪れたわけだけど。

 まあ、村中の子供からお年玉をねだられるわ、飲み会に付き合わされるわで大変だった。

グラスコーがパスした理由はこれだな。

 とは言ってもミレンさんの作ったカブのシチューやら豚の丸焼きやらご馳走をたくさん食べさせてもらったから、お年玉くらいの出費は大したことは無い。

問題は、酒だ。

 みんな蒸留酒をかっぱかっぱ飲みまくるから、言われるまま飲んでたら死んでたと思う。

いや、まあ大げさかもしれないが……

酔ってないと余計に進められそうだったから、最初はそのまま口をつけてたけど、後半は完全分離して水状態にして飲んでいた。

飲兵衛の人からすればとんでもない暴挙だったかも。

 まあ、顔真っ赤だったし多分気付かれてないとは思うけど。

 しかし、鬱蒼とした森だ。

道が途切れているわけではないけど、何かに襲われる危険を感じなくもない雰囲気がある。

 新年のあいさつを兼ねるということで、ブラームさんからみやげを預かり、ジョシュ君に先導してもらっているけど、真面目に道に迷いそうだ。

炭焼きをしている場所に続く道や採掘している場所に続く道とか、いろいろあるらしく道も枝分かれしている。

 そう考えるとこの村の規模って結構おっきいんじゃないだろうか?

春になったら農業見学させてもらおう。

「ヒロシさん、つきましたよ?」

 見れば、つつましやかな小屋が目の前に立っている。

一応スレート屋根を備えてはいるし、雪かきもちゃんとされているから人が住んでることは間違いないだろう。

でも、廃屋と見まがうくらいボロボロな家だ。

「師匠!!師匠!!ジョシュです!!あけましておめでとうございまーす!!」

 普段大人しいジョシュが大声を上げている。

そこまでしないとダメなのかな?

中から、ごそごそという物音や、ゴンっと何かがぶつかる様な音がする。

 そして、しばらくのちに扉が開かれた。

 第一印象は、オタクだ。

それも悪い意味のオタク。

髪はぼさぼさだし、目の下にはクマができて若干薄汚れて見える。

「ジョシュ、うるさい。」

 ぼそぼそとしゃべる様子も、オタクっぽいな。

よく見れば、かわいらしい顔の女の子に見えるけど、全体的に駄目そうな雰囲気が漂ってくる。

そんな女の子が俺の顔を見た瞬間笑う。

 いや、その……

にちゃってした笑い方はやめてほしいな。

「やっぱり、日本人ね!!さあ、入って入って!!」

 よほどうれしかったのか、若干声が弾んでいる。

 まあ、歓迎されてるならよしとするか。


 通された部屋には、一面が本で埋め尽くされている。

学術書の類が大半なんだろうが、何冊かは俺が見慣れた本があった。

 そう、漫画本だ。

他にも日本語のファンタジー解説本なんかも置いてある。

「ねえ、ヒロシさん。師匠は何を言ってるの?」

 そうだろうなぁ。

日本語でまくし立てられているのをジョシュが分かるはずもない。

しかも内容が、漫画についてだ。

 例えジョシュが理解できてたとしても、取り残されていたと思う。

俺も、大分置いてかれてる。

 漫画をどうやって手に入れたのか、と言えば大崎叶経由らしい。

大崎叶は、彼女の祖母にあたりカナエの秘術で漫画本を与えられていたらしい。

 流暢な日本語で語りかけられるのは久しぶりだが、まさかこんなオタク臭い会話を聞かされるとは。

 一応あいさつで名前を名乗ったが、返答はお年玉の要求だった。

「チョコレートだぁ!!久しぶりぃ!!母さんは味噌やお醤油は送ってくれるけど、甘いものはくれないのよね。」

 うまそうに食ってもらえるのは結構だけど、そろそろ名前くらい教えて欲しい。

「あの、失礼ですがお名前をお伺いしても?」

 不躾だなとは思うが、食べ物で口がふさがれているうちに割り込んで聞いておこう。

「あれ?言ってなかった?レイナ=ビシャバール、名前で呼んでくれていいから。」

 家名があるということは、それなりのご身分なんだろうな。

 しかし、醬油や味噌を送ってくれるお母さんがいるって言うのはどういうことだろうか?

「そんなことより、ヒロシだっけ?君ってつけたほうがいいかな?まあ、いいや、それでそれで漫画って売ってくれないかしら?」

 手を取られて顔を寄せてくる。

 その、ちょっと臭い。

村人たちも近寄ればそれなりに臭うが、それらとはまた別の臭いだ。

かび臭いというかなんというか。

 そう考えるとベネットはすごいそういうことに気を回してたんだなぁ。

女子力が高いとかいうんだったかな。

 ベーゼックが連れていた女性二人も、ふんわりいい匂いがしていた。

男としては若い女性は全員自然といい匂いがするものという幻想を抱きがちだが、そこには結構な努力が必要だ。

全員にあてはめるのはよくないだろう。

 しかし、漫画ねぇ。

別に漫画が悪いわけじゃない、俺も読むし好きな作品もある。

レイナが言うラインナップの中には俺の好きなシリーズも多い。

「ねえ、異世界のものを取り寄せられるんでしょ?もし呪文だとするなら教えて!!おばあ様もそれだけは絶対教えてくれなかったの!!なんでもするから!!」

 何でもとか軽々しく言わんで欲しいな。

「それなりに、お金を出していただけるなら構いませんけど、他に流出させないことを約束していただけますか?」

 下手に流出して文化破壊とかしたら、申し訳ない。

多分、入手方法が呪文で確立したものだったとしても、叶はレイナに教え無かったろうな。

「ありがとう!これで続きが読めるぅ!!」

 しかし、カナエの特殊能力は何だろう?俺の貰った売買と類似した能力だろうか?

話を聞く限りだと、書籍限定のような気もするが。

 割と、彼女の話はあっちに行ったりこっちに言ったりでよく把握できない。

話せる内容が多くないので、ジョシュには俺から要約し話をぼかしながら伝えてるが、どこまで伝えていいものだろうか?

 年齢は110歳、母親の名前はアカネ、学術院のエリート官僚、夫は有力侯爵だったそうで言ってみればレイナはお姫様だと言えるだろう。

 とてもそうは見えないが……

彼女自身、そういう貴族としての教養や立ち振る舞いが好きじゃないということで出奔したらしい。

 今は気まぐれで魔術の手ほどきをしているがほとんど親の仕送りで生活している。

つまり、ほぼニートだ。

 年齢が異様に高いが、見た目は20歳前後に見える。

魔術でどうにかしてるのかと思ったが、どうやらそうじゃないらしい。

 来訪者の血脈は不老の呪いがある。

成人すると、それ以降は年を取らず殺されるか病死するまでそのまま生き続けることになる。

 但し、その呪いは長子のみに引き継がれるらしく、彼女の兄弟はすでに全員他界しているそうだ。

 そして、その呪いは来訪者本人に適用されるそうだ。

配偶者は残念ながら対象じゃない。

 聞きたくなかった。

どんどん俺を置いて年老いていくベネットを思い浮かべたら、泣きそうになってしまった。

「おばあ様もそれに耐えられなかったみたい。だから、日本に戻る決意をしたのよ。」

 配偶者の死をきっかけに、秘術によって次元を超える研究をはじめたということらしい。

 ただ、戻ってしまえば魔術は使えなくなるだろうし、いつの時代に戻れるのかもわからない、経過した時間が一気に肉体に押し寄せてくるかもしれない。

言ってみれば、自殺に近いんじゃなかろうか。

 娘であるレイナの母は必死に止めたが、最終的に折れて受け入れたそうだ。

そこら辺の感情は当人になってみないと分からないが、仕方がないという気持ちが強い。

「魔術で旦那様を生き返らせればよかったのに。」

 まあ、できるのなら俺もそうするよな。

「そういう研究はしてなかったんですか?」

 一応聞いてみた。

「旦那が辞めろって言ったから怒られちゃうって笑って言ってたけど……

 怒られればいいじゃん。

 そんなに好きなら、生き返らせて、怒ってもらえばいいじゃん。」

 感極まったのか、ぶわっと泣き出す。

なんかもらい泣きしそう。

いや、そういう話を聞くと弱いんだよなぁ。

「師匠、大丈夫ですか?」

 心配そうにジョシュがレイナのそばにより、そっと背中をなでる。

「大丈夫、大丈夫だよ。ジョシュ、あなたには関係ない話だから。」

 レイナは帝国語で心配するジョシュに返答する。

冷たく突き放すような言葉だが、どこか悲しみが深い言い方に聞こえた。

 なるほど、いつかいなくなってしまうものに情を移してしまうのがつらかったのか。

随分冷たい人間かと思っていたけど、そういうわけじゃなさそうだ。

貴族社会から距離を取ったのも、同年代のにんげんは次々消えていく中、自分だけが取り残されるのを恐れているからかもしれない。

単なるオタクかと思ったけど、理由があったからなんだな。

 当然年老いないということになれば、権力は集中しやすくなる。

それをごまかしながら、生きていかなければいつか大きな不幸を呼び込む。

 今もなお、学術院で働いているというレイナの母親のアカネって人は、相当強かで優秀な人なんだろうな。

普通の感性じゃやっていけないだろう。

「ごめんねヒロシ君、おばあ様のことになるとどうしても湿っぽくなっちゃって。

 ほかの話しよ。」

 なるべくそういう話を避けて、漫画本の話になった。

全部注文するとなると、新しい家具が必要なレベルの冊数を要求された。

「大丈夫ですか?床抜けますよ?」

 ただでさえ、みすぼらしい家だ。

本で床が抜けたって話はオタクあるあるだが、この家だと冗談じゃすまないだろう。

倒壊しかねない。

「えぇ……でも、この先生の新作は絶対欲しい。この先生は新シリーズが結構あるんでしょ?どれかを削るのは……」

 ふと、それなら自炊すればと思ったが、そもそも最初から電子書籍を勧めればいいじゃないか。

「一つレイナさんにご提案があります。」

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