神は何を所望する
2週間ほどお休みしまして、すみません。
今日からまた連載開始します。
宜しくお願いします((。´・ω・)。´_ _))ペコリ
「そこに現れたのはそう!氷使いのラム!即ちこのわしじゃ!」
ヴィーヴ支部に助っ人を頼まれてからというもの、ラムは移動中の馬車の中でノンストップ自慢話を繰り広げていた。
「わしはその村に潜んでいた影花を一匹残らず凍らせていった!やがて最後の一匹を滅すると、村民は揃ってわしの前にひざまついて言ったんじゃ!」
コホンッ、と咳払いひとつ。
ラムは得意気に口を開いた。
「ラム様、あなた様はもしやこの村の、いえ。この世界を創られた神の使いであらせられるのではありませんか、とな!うはははははっ!!」
「そら凄いなぁ」
雛菊の相づちも手伝って、伊勢の頭に乗るラムの鼻はグングンと伸び続けている。
「…そんな事あったっけ」
向かい側に座るフェルドが、誰に向けてでもなく言った。
「私の記憶にはありませんわね」
「俺の記憶にもないよ」
エルとルチアが真顔で答えると、フェルドは薄ら笑いを浮かべた。
「すごいね。滝のように嘘が出てくるよ、彼の口」
「昔からですわ」
彼らの冷たい視線も今の鼻高々なラムには届かず。
「だから言ってやったわ。そうじゃ!わしこそ神に喚ばれし精霊獣、ラムであると!!」
「かっこええんやなぁ、ラムはんは」
「そうじゃろそうじゃろ。わしはかっこいいいいいででででっ…!?」
突然伊勢の両手に両頬をつねられ、ラムの自慢話は強制終了した。
「ひなと喋りすぎ、ぬいぐるみのくせに」
不満の色を含んだ伊勢の声に、ラムの頭はカチンと反応した。
「なんじゃと!?キサマ、今わしをぬいぐるみと言ったか!」
「だってぬいぐるみじゃん」
「なにをおぉう!?わしはそんじょそこらのぬいぐるみではない!精霊獣ラムなのじゃぞ!」
「ぬいぐるみ」
「キサマァァァァ!!」
ペシペシと短い前足で伊勢の癖毛頭を叩くラム。
そのやり取りを気持ち的に一歩引いて眺めるチアーノ支部員は、だがそんなことよりも気になっていたことがあった。
「それにしてもさ…」
そう切り出すフェルドは、言い争う伊勢とラムの隣
「あれ、なに?」
馬車の外にいる雛菊を、正確には雛菊を『運ぶ』菊の花を指さして問うた。
館を出てからというもの、雛菊は一度もも地に足をつけていなかった。ふよふよと宙に浮いた大きな菊の花が、雛菊を悠然と運んでいるのだ。
「雛菊はいつもああなの。狭い馬車になんて乗ったら着物にシワがよるって言って」
気にしないで、とエクラがぼうっと窓の外を眺めながら言うが、その瞬間、いやもともと少し感じていたことだが、エルもフェルドもルチアさえ、ヴィーヴ支部員に対して一つの確信を持った。
(ヴィーヴ支部は、自由人の集まりだ)
□■□
冥界ダン・スカーにそびえる黒城。
そこは、神の城であった。
「あーあー。つまんなぁい」
城の主、スカアハは予想外の展開に退屈の極みを感じていた。
彼が視ているのは、惑星の中で生きる者達。
即ち。
「どうして太陽と月はそばにいないの?だめじゃん離れちゃ!」
足をばたつかせていう彼の様子は、まるで駄々をこねる子供だ。
するとスカアハの前に畏まって立つ彼女は
「スカアハ様。その様にどこかの糞餓鬼…失礼しました。子供のように暴れないで下さい」
さながらその母親と言ったところだろうか。
「クーさん!教えてよ!」
「はい。何でしょう」
「どうしてあの子達は一緒にいないの?離れちゃったら守ることできないじゃん!!」
それは、これまでの経緯を説明すればいいのだろうかと、クーは無表情を貫く顔の下で思案する。
だが彼も今まさに視ていたはずなのだが。
「では、僭越ながら説明させていただきます」
そう切り出したクーは伏せていた目をスカアハに向けて
「第2地球時間07時16分頃、太陽の娘はチアーノ支部の人間らと共にヴィーヴ支部を訪れ、そこで任務の援護を頼まれました」
クーは今までスカアハと共に視ていたものを、正確に、そして簡潔に話し始める。
「第2地球時間でその翌日早朝、月の娘をはじめとした影花討伐組は太陽の娘と他ふたりをヴィーヴ支部の館に残し、国境付近の洞窟へ向かいました。太陽の娘が館に残ったのはヴィーヴ支部の役立たずを部屋から引きずり出して影花討伐の効率化を図る為であると思われ…」
「はいはいストーーーップ!」
クーのお経のような現状説明をスカアハが残念そうな表情で止めに入る。
だがクーにはスカアハのその表情の意味が理解出来ず。
「はい。どこかご不明な点が…」
「ちーがーうーでーしょーー!」
「……申し訳ございません。ではもっと簡潔に…」
「だーかーらーっ!」
スカアハは黒い玉座から身を乗り出して、クーに改めて問う。
「僕が聞きたいのは、経緯じゃなくて彼女達の心情!」
「は。心情…ですか」
人間でない、心など持つはずもない神から『心情』などというふざけた言葉が出てきたことに、クーは静かな不快感を覚えた。
「そうだよ!だって月の娘は太陽の娘を守りたいんじゃないの?それが『愛』なんじゃないの?」
「はぁ…」
仮にそれを『愛』と呼ぶことにして、だったらなんだというのか。
『ただそう決まったから』
それ以外に何がある。
この神は何を求めているのだろう。
(全く理解不能です)
だがそれ以上に、これ程まで彼を執着させる彼女達が、気に入らない。
(いっそのこと、わたしが殺して…)
「クーさん」
スカアハに呼ばれ、クーはハッとして顔を上げた。
黒い玉座に座る、黒い衣を纏ったスカアハの、底の見えない黒い瞳がクーを捉えていた。
「今なにを考えた?」
体の奥まで見透かされているような、きっと普通の人間だったら怯えて気分の悪い感覚。
けれど。
「…申し訳ございません」
クーにとってそれは、何よりも気持ちのいいもので。
今はまだ、それだけで身体が火照って疼いてしまう。
もっとわたしを、わたしだけをみて、と———
全てを見抜いててほしい。
何も映さないその闇色の瞳で。
舐めるような視線で。
誰でもない、貴方だけに。
でも自分のキレイなところだけなんて満足出来ない。
汚いところも、今まで誰にも見せたことのないところも、全部。
全部全部全部全部……見て——
(あぁ…スカアハ様…)
表情を失くした少女は、彼に、堕ちている。
伝わらなくてもいい。
でも彼の一番でいたい、常に。
誰かを傷付けてでも、蹴落としてでも、殺してでも。
「謝るようなことを考えてたんだ」
「……」
クーが口を噤んでいると、スカアハは軽く笑ってこの話を流した。
「クーさん見て。ほら、彼女のお友達が見えるよ」
スカアハとクーの間に、『地球』の映像が映し出される。
「ちょっとした細工を施してあげようね。なに、全て君達のためさ」
スカアハは口の端をつり上げ、おもむろに目の前の映像に手をかざした。




