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ヴィーヴ支部②

街の喧騒が遠くに聞こえる。

賑わう中心街より少し外れた静かな場所の、華やかな植物に囲まれた和モダンな館。



「ここですよぉ」



そこが、セイセラ王国に駐在するふたつ目の特殊警察部隊、ヴィーヴ支部の館であった。



「どぞー…」

「ヒノエ!いい加減に出てきなさいよ!」



伊勢が館の扉を開いた途端、中から甲高い怒号が飛んできた。



「今回のことで責任感じるのは仕方がないけど、だからっていつまでもこうして閉じこもってるつもり!?聞いてるの!?ねぇ!!」



声の主はひらひらフリル多めの派手な服装をした少女だった。

伊勢に気がついた彼女は、ひどく疲れた顔で言った。



「あ、おかえり伊勢」

「ただいまー。ひなは?」

「また庭じゃない?表にいないなら裏かも」

「呼んでくるー」



パタパタと廊下を駆ける伊勢を視線で見送った後、少女は作り笑顔でミスラたちを見た。



「チアーノ支部の人たちだよね」

「あ、はい」

「あたしエクラ。ヴィーヴ支部所属。よろしくね」



くい、と首に巻かれた白いマフラーを整えて、桃色髪の少女はエクラと名乗った。



「キミ達で全員?リーダーは誰?」

「あ、リンゼ…隊長は来てないので、今は俺が…」



そう言って前に出たルチアを、エクラはじっと下からのぞき込む。



「ふーん。キミ、背高過ぎ。あたしの好みじゃない」

「え?」

「まいいや。付いてきて。まずは色々話さなきゃいけないから」



そうしてエクラは踵を返した。



「ヒノエも!ちゃんと来てよね!」



去り際に、閉じられたドアに向かってそう言い放つも、そこから返ってくる言葉は無かった。



「こら随分とかぁいらしい子が来たもんやね」



ルチアたちチアーノ支部がエクラに案内された畳が敷かれた大部屋で待っていると、大胆に着物を着崩した女性が現れた。



(うち)は雛菊と申します。どうぞよしなに」



雛菊は頭に飾られた大きな簪を揺らしながら、ルチアたちの前に置かれていた脇息(きょうそく)にもたれた。



「堪忍なぁ。こんな煩い地まで呼びつけてしもて」

「いえ、そんな」



雛菊は隣に座った伊勢から菊の花が彫られた煙管(きせる)を受け取りながら、問うた。



「エクラ、ヒノエはどうや?」

「だめだった。一応来てって言ったんだけど…」

「ほうか」



雛菊が受け取った煙管に、伊勢が慣れた手つきで火をつける。

雛菊の赤く塗られた唇が煙管の吸口を咥えると、細い煙がすぅ、と立ちのぼっていった。

慣れない刻みたばこが燃える匂い。

ミスラは目の前の漏れる色気に思わず息を呑んだ。



「しゃあないなぁ。ほな、始めましょか」

「では最初に、俺たちを呼んだ理由を聞いてもいいですか?」



ルチアが雛菊に向けてそう切り出す。



「そやなぁ。単純に言えば、(うち)らヴィーヴ支部のもんだけでは、影花退治の手がまわらんくなってしもうたからやろな」

「と、言うと?」



雛菊に促され、伊勢がその続きを答えた。



「あのねー、最近ヴィーヴでは影花の目撃情報が急増しててぇ、俺たちはその原因を調査してたんだよねぇ」



伊勢によれば、ヴィーヴ州内の隣国との国境付近にある人の寄り付かない洞窟の中に、影花の巣窟を見つけたらしい。そこから出てきた影花がヴィーヴの街に出没を繰り返していたことが調査の結果わかった。

そして先日、雛菊たちヴィーヴ支部はその巣窟を潰しに行くよう本部から通達を受け…。



「もちろん行ったよー。調査員の情報通りなら、出来ない仕事じゃなかったしねぇ」

「それに、うちにはヒノエっていう必勝の戦闘プランを立てる天才がいたから」



エクラが言う『ヒノエ』とは、彼女が先程ドアに向かって話しかけていた相手のことだろう。



「だから、今回も問題なく完遂出来ると思ったの。でも…」



そう言うエクラの口調は悲しげで、ミスラでさえその先の言葉が予測できた。



「任務、失敗したんですね」



わざとエクラの言葉を先越して、ルチアがそう言った。

エクラが膝の上で小さく拳を握るのが見えた。



「影花は事前に聞いてた数と同じくらいだったんだよぉ。でもねぇ、洞窟の方が思ってたよりも古くてぇ…」

「任務遂行中に突然崩れ始めたの。それで…」

(うち)らの隊長はん、シドっちゅうんやけどな。(うち)らに先に出口行け言うて、自分は結局戻って来ぃひんの」



ふー、とゆっくり煙を含んだ息を吐いて、雛菊が長いまつげを伏せた。



彼奴(あやつ)、洞窟ん中影花と一緒に閉じこめられてしもて。助け出そうにもこれ以上洞窟が崩れれば、影花諸共隊長はんが御陀仏になってまう。(うち)らではもう手の出しようがあらしまへん。…ほんで」



とん、と煙管の灰を落として、雛菊は切れ長の目を光らせた。



「アンタらの中に氷使いがいるて話を思いどしてな。その力を(うち)らに貸してもらお思ぉたんよ」

「氷使い…」

(それって、まさか…)



「ハッハー!呼ばれて来てやったぞ!ご指名の氷使い様なのじゃ!!」



デェェン!!



弾ける声でそう言い放ったのは、エルの胸元から顔を出したラムだった。

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