ヴィーヴ支部③
「むむ。大体の事情は分かったぞ!つまり、わしの氷で崩れそうな洞窟を補強してほしい、というわけじゃな!」
「そうや」
何故か偉そうにふんぞり返るラムに、雛菊は面白いものを見つけたと終始口角を上げて頷く。
「それくらいお易い御用じゃ!」
「ほんなら任せてしもてええやろか」
「うむ!任せろ!」
くす、とこぼした笑みさえも艶っぽく魅せる雛菊は、視線をエクラに移した。
「ほな、あとは…」
一瞬視線がぶつかると、エクラはしゅんと眉を垂らした。
「わかってる」
「…あの、他にも何か…?」
見かねたルチアが聞くと、エクラは気まずそうに話した。
「さっき言ったじゃない?うちにはヒノエっていう必勝の戦闘プランを立てる天才がいるって」
「ああ、さっきキミが怒鳴ってた相手か」
フェルドがついさっきの事を思い出してそう言う。
「うん。そのヒノエが、今回の任務が失敗したのは、シドが閉じ込められたのは自分のせいだって、部屋に引きこもっちゃって…」
エクラの話を聞く限り、ヒノエという人物は気が強い方ではないらしい。
ヒノエがいなければ、ヒノエの戦闘プランが無ければ出来なかった任務も多数あるとエクラはいうが。
天才と言われるその超頭脳にさえ、ヒノエ本人が自信を持てきれていないようなのだ。
「もともと弱っちいやつなんだけど、今回のは相当こたえたみたい。ヒノエにとって、シドはお父さんみたいな存在だったから」
(お父さん…)
それを聞いて、ミスラの中に一つの考えが浮かんだ。
「あの…わたし、ヒノエさんとお話してみたいです」
「え?」
「させて、くれませんか?」
「ミスラ?」
意図が汲みきれない様子のセレネたちの視線を浴びながらも、ミスラは引き下がろうとはしなかった。
「なんとなく、分かる気がするんです。ヒノエさんの今の気持ち…」
途端、エクラは大きな桃色の瞳の色を変え、厳しくミスラを睨んだ。
「なっ。なんで…。今さっき来たばっかの顔も合わせたことのない相手に、ヒノエの何が分かるって…!」
「エクラ、落ち着きよし」
「わたしは、わたしのせいで親を亡くしました」
「!!」
強く言い切ったミスラのその言葉と姿勢に、エクラや、雛菊も口を閉じ耳を傾けた。
「だから、なにかお手伝い出来ることがあると思うんです。わたしは皆みたいに戦えないからせめて、そのくらいは…」
そう言うと、エクラは混乱したように目をみはった。
「え…なにそれ。戦えないってどういうこと?キミはチアーノ支部の人じゃないの?」
「あ、えっと…」
(どう言えばいいんだろう…)
ミスラが言葉に困っていると、隣のセレネが静かに口を開いた。
「ミスラは、影花に狙われてる。だから、チアーノ支部が、護ってる」
「影花に狙われてる?そんな話あたしたちのところには何も…」
それから、セレネは拙い言葉ながらミスラの太陽の力のこと、影花に狙われていることなどをエクラ達に話した。
信じられないと疑うエクラの隣で、雛菊は
「そら大変やったなぁ」
と声をかけ、伊勢は興味無さげに窓の外で飛ぶ蝶を見ていた。
「わたしにヒノエさんがもう一度元気になれるように、お手伝いさせてくれませんか?」
「そんなこと言ったって」
「ええんやないの」
「雛菊!?」
煙管を吸いながら軽く言い放つ雛菊に、エクラは慌てたように振り返った。
「何言ってんのよ雛菊!あたしが何を言っても聞かなかったのに、余所者になんか!」
「どっちみち、ヒノエがおらんと困るやろし。可能性あるならかけてみるのもええやろ」
「そうかもしれないけど!でも…!」
「そないに言うならエクラも一緒にやったらどうや?ヒノエのこと、よぉ分かってはるんやろ」
「っ」
追い詰めるような雛菊の美しい黒い瞳に、エクラは一瞬身を引いた。
この瞳には逆らえない。圧倒的な支配力のようなものを感じさせる、そんな色を含んだこの瞳には。
「……分かったわよ。任せれはいいんでしょ!ええっと…」
「ミスラです」
「ミスラに!!」
シャーッ、と思い切りミスラを睨むエクラに、だが雛菊は喉を鳴らして笑った。
「ええ子やなぁ。エクラもミスラも」
「こっ、子供扱いしないで!!これでもあたし21なんだから!」
(……ん?)
『にじゅういち!?』
ここにきて一番のビックニュースに驚くミスラ達に。
「なによ!あたしが成人してちゃ悪いのっ?」
エクラはその場で立ち上がり146cmの身長を目一杯伸ばした。
「見た目で判断しないでよね!あたしはれっきとしたオ・ト・ナ!なんだから!」
見た目が子供に見える原因は、身長以外にその服装にもある気がするが…。
ミスラは『人は見た目ではない』という言葉の本当の意味を今、初めて理解した気がした。




