白花に揺られて②
———……
参列者が途切れる頃には、日が沈みかけていた。
ふたりの肖像は白百合に飾られ、より一層優しく微笑んで見えた。
別れを惜しむ声と涙を夕闇がゆっくり溶かし癒していく——
「ハンプティくん」
ミスラは中庭で遠くを見つめるハンプティに、背後から声をかけた。
「あ……太陽のお姉さん」
膝を抱えて座り込んでいたハンプティは、振り返ってミスラを見上げた。
「それ、やめない?名前で呼んでほしいな」
そう言うと、ハンプティは少しだけ目を見開いた。
「………ミスラ…お姉さん」
「…ふふ。はい」
ミスラの笑顔をつられるようにハンプティの口元も緩んだ。
ハンプティの隣に腰を下ろすと目の前には榎の大樹が大きく傾いて、だが倒れる寸前のところで踏ん張っていた。
「……明日、帰ることになったよ」
「……そっか…」
日が沈み冷たさを纏う風がふたりの肌を撫で、榎の葉を揺らした。
「ミスラお姉さんは警察の人じゃないの?」
「うん」
「最初に会った時お姉さんは警察の保護対象者って言ってたけど、それってお姉さんが太陽のお姉さんだから?」
「……うん。わたしの太陽の力を影花が狙うんだって」
セレネとそういった話をしていないことを不意に思い出したミスラ。
あんなに知りたいと思っていたのに、今はそれほど強く感じなかった。
「じゃあ、ミスラお姉さんが太陽のお姉さんじゃなかったら、この国に来てなかったかもしれないね……」
「……うん。そうかもね」
「……よかった…」
唐突に出てきたハンプティの安堵の言葉。
ミスラが顔を動かすと、にっと笑う瞳と目が合った。
「ミスラお姉さんが、太陽のお姉さんでよかった」
「……!」
あのネックレスが切れてからバケモノの存在を知って、無意識に力んでいる自分がいた。
『あなたを見てから、私の中のバケモノがザワザワと騒いで落ち着かないの。どうしてか、わかりますか?』
目の前の現実をまだ完全には受け入れられないまま、でも自分の体質の特異性をいやというほど突きつけられた。
それはきっと、自分が自分でいる間、ずっと付き纏う……。
置き去りにして、封じ込められていた過去と一緒に。
どうして、わたしだけ——
なのに
『お姉さん、その自覚ないって思ってるみたいだけど、近くにいてこんなにあったかくなるのは、きっとお姉さんが太陽さんに愛されてるからだと思う』
そんなこと言われるなんて、思わなかった。
『ミスラお姉さんが、太陽のお姉さんでよかった』
「……っ…」
目頭が熱を帯びる。
「お姉さん……?」
こみ上げてくるものを隠すように、ミスラは抱える膝に顔をうずめた。
「どうしたの?」
ミスラは狼狽えるハンプティに顔をうずめたまま首を振った。
「ミスラお姉さん……っ…ねぇ……」
「ごめ……っ…なんでもないの……」
そんな優しい言葉をかけてくれるなんて、思わなかった。
「ありがとう……」
わたしもこの国に来て、ハンプティくんたちに出会えて良かったよ……。




