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聖獣と呼ばれる者たち③

「さて、まずは貴殿らのことを聞かせてもらおうか」


ヴァイスは場所を聖扉の間から王の間へと移し、そう切り出した。

王の間には部屋を縦断するように毛足の短い絨毯がしかれ、その先には豪華な装飾が施された玉座が3つ並んでいた。


「貴殿らはどういう存在で、どういった経緯の後この国へと入ったのか」


その問いに対する答えに耳を傾けるのは、ヴァイスやラルダだけでは無かった。部屋の壁際に沿うように、大小様々な聖獣が立ち並びその視線は外部の人間を珍しがるような、警戒するような色をみせていた。

おそらく彼専用と思われる右端の玉座に深く座って、ヴァイスはリンゼたちを見下ろした。


「俺たちは、IPFの者だ」


そう言ってリンゼはロングコートの内ポケットから警察手帳を取り出し、ヴァイスに見せた。

ヴァイスは眉間にしわを寄せ目を細めながらそれを見ると、長い髭を指で弄んで頷いた。


「ふむ。警察の者か」


「俺たちはセイセラ王国のチアーノに支部を持っている。影花の殲滅を目的として自分たちの特異能力を使い活動している」


「……カゲハナ…?」


ヴァイスの隣に控えていたラルダは、リンゼの説明の中の聞きなれない言葉に首をかしげた。

すると、硬い表情のルチアが一歩前に出て口を開いた。


「影花とは、人間の影を苗床とする植物の姿をしたバケモノです」


「影……」


「はい。影花はその人間の負の感情を養分として成長します。何者かの手によって影の中に影花の種が植えつけられた人間は、徐々に影花に取り込まれ理性や人格を失い、最終的には内蔵ごと影花に喰われます」


『………!?』


ラルダは絶句する口を両手で多い、ヴァイスもまた、落ち着きを放っていた顔色を変えた。


「俺たちチアーノ支部は、聖国ルシアーゼの女王ホア様に依頼されてこの国に来ました」


「それは……この国に影花が出たということか?」


「……はい」


ルチアが厳しい視線をおくりそう頷くと、ヴァイスは深いため息をついた。


「なんということだ。扉が閉ざされていた間にそのような事が……」


ふと、ヴァイスは思い出したようにリンゼに視線を移した。


「……待ってくれ。…先程、貴殿がホアを殺したと言ったな」


「ああ」


「まさか……」


出来るならば考えたくはない。知りたくない。

今のヴァイスを動かしているのは、統率者としての意地だけだった。


『知らなければならない』


自分の中のそれが、逃げ出したいと踠く身体に鎖をかけていた。

ごくりと息を呑むヴァイス。

彼の思いとは裏腹にリンゼはコートのポケットに入れていた右手を出し、控えめに握った拳を見つめて言った。


「ああ、そうだ。女王が影花に堕ちた。だから殺した。俺が、この手で。間違いなく」


「……!」


「そんな……!女王様が……」


部屋の中は今までの静けさとは一転して、動揺の声でざわついた。

その中で、ラルダは縋るような瞳をリンゼに向けた。


「…王様……王様は……?王様は今どこにおられるのですか……!?」


その問いにはルチアが答えた。


「……国王と思われる人物は、聖扉の間の地下で発見されました」


「!」


ラルダの表情が少し明るくなるのを見て、ルチアの表情はそれと反対に影を落とした。


「ですが、彼もまた既に影花の苗床となっていて、何より彼の影花が扉の開扉を阻む元凶でした。そして俺たちに攻撃を仕向けてきた為、これ以上成長することでこの国に被害が及ぶ事を危惧し、始末しました」


「…っ……う、そ……。そんな…そんなの嘘です!」


白い両目から大粒の涙が溢れ、床を濡らした。

「あんなに穏やかでお優しいおふたりが……バケモノに堕ちるなんて…。そんなことあるはずがありません…!あるはずがないんです!!」


「………」


ラルダの悲痛な叫びは、部屋にいた者の心を痛めた。


「お願い……。お願いですから違うと言ってください!!こんな悪夢のような現実、到底受け止められるものじゃ……」


ラルダはがくりと膝から崩れ落ちていった。


『ラルダさん!!』


思わず駆け寄ったハンプティとダンプティはラルダの俯く顔を心配そうにのぞき込んだ。


「ハンプティ様……ダンプティ様…。おふたりからも仰ってください」


「え……?」


「彼らは嘘をついていると。王様と女王様がお亡くなりになるなどあるはずが無いでしょう?だって……だってたった数日お会い出来なかっただけなのですよ!?」


『………』


「最後に見たのだっていつも通りのお優しい笑顔だったのに……!」


「……ラルダさん…」


ハンプティは泣いて訴えるラルダ越しに、玉座から複雑な表情で見下ろすヴァイスを見た。


「……っ…!」


「…ハンプティ。どうなんだ」


「え……」


「彼らの言っていることは虚言ではないのか?」


ヴァイスの瞳は困惑から揺れていて、だがハンプティからは目をそらさなかった。


「……あ…」


それが逆に、ハンプティを追い詰めていく。獣の白眼に捉えられ、指先から感覚が消失していくようだ。


ぼくに……それを言えっていうの……?


「……え…と…」


この部屋の誰もが自分の答えを待っている。否定の言葉を待っている。

そう思えば思うほど、深い沼にはまっていく。


嫌だ……見ないで……。

そんな眼でぼくを見ないでよ……!


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