聖獣と呼ばれる者たち②
ラルダはリンゼの目の前で、白い豹へと姿を変化させた。
灰色の斑を描く毛模様のその豹は、ハンプティとダンプティの前に立ち、リンゼ達を威嚇するように唸る。
「女王殺しの罪人め!!食い殺してくれる!」
そう言って、ラルダはリンゼに牙を向けて突進し始めた。
「リンゼ!!」
後ろで切羽詰まったルチアの声がリンゼの耳に入る。それとほぼ同時にリンゼの姿は黒い霧に霞んだ。
触れたもの全てを腐らせるその黒霧に、牙をむくラルダの前足が触れそうになったその時。
『ラルダさんだめーっ!!』
「!!」
突如、ラルダの首に白く透き通った首輪がまかれた。
強い力で後ろに引っ張られたラルダはそのまま背中から落ちた。
『ラルダさん!その人たちを傷付けちゃだめ!』
ラルダの首輪に繋げられた白い鎖を持つのは、ハンプティとダンプティだった。
「ハンプティ様!?ダンプティ様まで!何故です!?この者がホア様を……おふたりの肉親を殺したのでしょう!?そのような行為、許していいはずが……」
若干抵抗するラルダに、彼らは訴えた。
「違うのラルダさん!」
「何が違うというのですか!?」
「ママが……ママは殺されたんじゃ、なくて……」
ふたりの声が震えている。ダンプティは今にも泣きそうな表情で、だがラルダから目を離さなかった。
「……おふたりとも……?」
そのふたりの様子にラルダが首をかしげた時、扉のほうから低い声が響いた。
「ラルダ」
「……!聖獣王様……!」
声の主はあの白い毛の狗だった。
『聖獣王』と呼ばれた獅子のようなたてがみを持つその狗は、確かな威圧感を漂わせてラルダを見据えている。
「ラルダ。少し落ち着け」
「ですが……!」
「まずは話を整理するのが先であろう。その者等の措置はそれからだ」
「……はい」
床に爪音を響かせてリンゼへと歩み寄る聖獣の王。
黒い霧の隙間から王の眼を見るリンゼは、静かに口を開いた。
「フラン、もういい」
すると黒い霧はすっと消えていった。
「………」
「あんたが聖獣の王か……?」
「……如何にも。私は聖獣を統べる王、ヴァイス。貴殿らは、聖獣を目にするのは初めてか?」
「ああ」
「ふむ」
ヴァイスと名乗った聖獣の王は、一度リンゼから目を離し何かを考え込むように俯くと、静かに瞼を閉じた。
「ならば……」
「……!」
ヴァイスの体は白い光に包まれた次の瞬間、眩しさに思わず目を細めたリンゼの眼前に現れたのは
「こちらの姿のほうが話しやすいかな」
長い白髪と、こちらも長く白い髭を生やした、黄金の瞳を持つ老人だった。
「話を聞こうか、異国の者よ」
その老人にはハンプティたちと同じく、獣の耳と尻尾があった。




