すき、きらい⑦
「おい。あんた、怪我は」
振り返った眼帯の男は、ぶっきらぼうにそう言ってミスラに手をのばした。
「…………」
「……おい」
「…えっ、あっ…だ、大丈夫です!」
唖然とするミスラは、差し出された手を慌てて取った。
「あ、りがとうございます……」
「……………」
立ち上がって礼を言った頭を上げると、不意に男の長い指がミスラの髪に絡んだ。
「……っ!?」
男のくすんだ青い瞳にはミスラの髪が映っていても、その先に何かを思い浮かべているようにも見えた。
「…あ、あの……?」
「……この髪色…」
「!!」
男が零したその言葉に、ミスラの体は再び強ばる。
「……そうか…あんたが……」
そう言う男の表情が一瞬柔らかく綻んだように見えたのは、気のせいだろうか。
「………?」
ミスラは片目が黒い眼帯で塞がれたその男を静かに見返す。だが……
『リンゼ。挨拶も無しになんてことをしているの?』
え………
彼の後ろで取り憑いているように見える黒い女がいた。
黒い闇を妖しく纏う美しい女性。ただ気になることが……。
う、浮いている……
ミスラはそっと視線を彼女の足元に向けて青ざめた。
深くスリットが入った黒いドレスから覗く足が、どう見ても地面についていない。まるで彼女の周りだけ重力というものが無くなっているかのような錯覚を起こさせる。
彼女はその体にうっすらと背景を写しながら言う。
『駄目よ。初対面の女の子に対してそんな態度をとっては』
「……そうか。すまない」
「いっ、いえ!!」
大袈裟に返事をするミスラに首をかしげつつ、リンゼはその髪から手を離した。




