隊長①
「ミスラ!」
落ち着き始めた土煙をかき分けて、セレネがこちらに走ってきた。その表情には不安と焦りの色がにじみ出ている。
「お姉ちゃん!」
ミスラが手を広げると、セレネは迷わずそこに飛び込んできた。
「ごめんなさい。ちゃんと守るって言ったのに。また…危険な目にあわせた」
「ううん」
「怪我、してない?」
「うん。……この人が、守ってくれたみたい」
ミスラの視線を追うと眼帯の男と目が合った。
「お姉ちゃん。この人って……?」
「リンゼ。隊長。私たちの支部の」
やっぱり、とミスラは内心思う。
館の案内された時にルチアさんが何回か『リンゼ』って言ってたけど、この人が……。
「遅くなってすまない。状況は?」
リンゼがそう聞くと、セレネはミスラから少しだけ体を離した。
「影花は、二体確認した」
「あれと、もう一体はどうした」
「ルチアとフェルドが応戦してる。蕾もないやつだったから、たぶん、もう終わってる」
「そうか」
気が付けば立ち込めていた土煙がはけて、大きな影花を背負ったホアが先に見える。
「ならばあれを殺せば……」
「どうしても殺すんですかっ?」
つい口から出たミスラの言葉が、リンゼやセレネの視線を集める。
「あ……すみません……。何もわかってないのに、こんなこと……」
俯くミスラの頭に大きな手が置かれた。
「いや、いい。あんたがそう思うのも無理はない」
「…………」
「だがあれはもう助からない。辛いなら目を瞑っていろ」
リンゼは手をミスラの頭から離し踵を返すと、大樹のふもとにいるラムに向かって言った。
「ラム、エルの容態は」
「気を失っているだけじゃ。しばらくすれば目を覚ますじゃろう」
「そうか」
ラムたちから少し視線を動かすと、目を細めて笑うホアがこちらをじっと見ていた。
「あなた、だぁれ?」
「あんたが依頼したチアーノ支部の長だ。ここからは俺があんたの相手をしてやる」
「ふふ。素敵」
「………」
リンゼは小さくため息をつくと、静かな威圧感を伴う声で言った。
「隊員各位に告げる。即時退避しろ」
「リンゼ!私が……」
リンゼの黒いロングコートを掴んだセレネがホアに向かう彼の足を止める。
「……私が、やる」
力みながら言うセレネをちらりと見下ろすも、リンゼはその視線をすぐに外した。
「あんたは妹のそばにいろ」
「でも……!」
「あんたの妹は俺の能力をまだ知らないだろ。出しゃばられても困る」
「………。……わかった」
しぶしぶそう言ったセレネは、ミスラの手をひいてリンゼから離れていく。
「え、いいの?あの人ひとりで……」
「問題ない」
そう言ったのはいつの間にかミスラの隣に来たラム。その背にはエルが眠っていた。
「むしろ、彼奴はひとりのほうがやりやすいのではないかの」
「………?」
いまいち状況が読み込めないミスラの視線の先で、リンゼの背後で浮かぶ幽霊のような黒い女がふっと笑いかけた。




