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思惑②

……———


「地を穿て、月華丸」


その頃聖扉の間では、セレネが振りかざした月華丸の力によって凄まじい音と地響きが起きていた。


「……穴、空いたよ?」


「あ、ありがとう。でもねセレネ。ちょっとやりすぎだよ。下が確認出来れば良かったのに……」


そう言うフェルドの足下、床は派手に壊され崩れていた。


「これじゃあ修理費要求されそう……」


フェルドが舞い上がった砂とほこりに咳き込む横で、セレネは下を覗き込んだ。


「……ルチア。フェルドも、きて」


ふたりが自分の両隣に来ると、セレネは砂ぼこりの中を指さした。


「なに?」


聖扉の間の真下。

そこは牢獄のようだった。

黒い鉄格子。コンクリートざらしの床と壁。だがそこに囚人らしい者は居らず。


「!!」


ただひとつ、引いてきた砂ぼこりの中、3人が見つけたのはホアやハンプティ、ダンプティと同じ人の形をしながら頭に獣耳を持ち狐のような尾が垂れた、真っ黒い影だった。


「これ、まさか……」


「この国の王だな」


ルチアが血色の瞳を光らせて言った。


「こんなところにいやがったのか。それに影花の根があいつに集まってる。国王が苗床ってことか」


「そうだね」


「……人の形…してる…」


「そう、だね……」


フェルドのその答えを紡ぐ唇がきゅっと結ばれる。


「ねぇ、今僕の頭の中で、最悪のシナリオが作られてるんだけどさ……」


ルチアが何度目かの舌打ちをする隣で、セレネは月華丸を握る手に力を込めた。


「これ、女王様は知ってる、とか……ないよね…?」


恐る恐る後ろを振り返ったフェルド。そこにいたハンプティは彼と目が合うと、ダンプティを強く抱きしめながら、気まずそうに視線をそらした。


「……ごめん、なさい……」


「嘘……」


「…っ……」


セレネはぐっと歯を食いしばった。

女王が全て計算して今があるのだとしたら。

この影花が自分たちを遠ざける囮だとしたら。

ミスラの正体を女王が把握していたとしたら。

本当の狙いは———


「セレネ!」


引き止めるフェルドの声も無視し、セレネは部屋を出ようと駆け出した。


『ギュルルルルルルル』


影花がそれを阻止するべく、セレネに何本もの影のムチをおくった。それは彼女の腕を掠めながら、行き先を塞いだ。


「……許さない。ミスラを傷つけることは、私が絶対に許さない!!」


紅い光を帯びる月華丸を振り上げ、セレネは叫んだ。


「私は騎士!太陽の恩恵を受けてこそ輝く月の騎士だ!私たちの邪魔をする黒影は、この刀で全て断ち切る!!」



□ ■ □



エルは丸テーブルを両手で思い切り叩いた。


「あなたは…自分が何をしたのかわかってますの!?あなたの勝手な思いで人ひとりの命が消えるのですわよ!?その罪の重さを、あなたは理解して……!」


しかしエルの怒号も虚しく、ホアは優雅に紅茶を喉に流した。


「ふふふ。エルさん、どうやら貴女は人の命というものにとても執着する方のようですね。過去に何かありました?」


「黙りなさいっ!!」


「そんなに大きな声を出さないでくださいな。耳が痛いわ」


そう言って白い獣耳をぴくぴくと動かすホアは、ティーカップから口を離した。


「私もはじめはあの男をどうにかしようとは思わなかったのよ。でも、彼は頭が固くて私の話すらろくに聞いてくれなかった」


「だからといって……!」


「それにね、あなた方を招いたのもこうして少しお話がしたかっただけでしたのよ。彼がバケモノになってしまったことを理由すれば、自然な形で国外の人をこの国に招くことが出来る、そう思ってね。だけどミスラさん、あなたの存在は計算外でしたわ」


「え……」


ホアはその真白の瞳をミスラに向けた。


「あなたを見てから、私の中のバケモノがザワザワと騒いで落ち着かないの。どうしてか、わかりますか?」


「……っ…」


それは、ついさっきエルから聞いたものだ。


『太陽の力を秘めているから——』


「ふふ」


「!?」


一瞬、ホアの背後から黒いものが伸びてきたのを見た。

そして次の瞬間、首周りに強い圧迫感をかんじた。

息苦しい。唐突に、ただそれだけを感じて、ミスラの体は椅子ごと倒れ、口は酸素を求めて喘いだ。


「………ほ、あ…さ……」


「あなた、とてもいい匂いがするわ」


「!?」


視界の脇で、エルとラムの青ざめた顔が見える。


「とても暖かい、闇に堕ちた私には既に縁遠いもの。そう、これは……」


「…か……は……」


「太陽の匂い」


霞む視界。そこにはホアと、そして彼女の足下、彼女の影から伸びる黒い花が深い闇を纏って立っていた。

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